冬、この思いの名を探る ※
冬がもたらすのは寒さだけではないらしい7本
※一部に死、鬱要素があります。苦手な方はご注意ください。
『おとぎ』
フェアリーテイルを掴んだのならば、心しておきなさい。
愉悦の足許には罠がある。
混乱の陰には操り糸が巡らされている。
悲劇に紛れた真実がある。
苦難の先に目覚めがある。
夢に溺れそうになったなら、その尻尾を放しなさい。
『死に顔』 ※死の要素注意
人が命を落とした時、体から心と感情と感覚が削がれ、肉体のみがその場に残され、此岸に遺された者らの目に晒されることで、素が見えてしまうのか。
あるいは、命とともに心と魂魄が肉体から去ることで、肉体は別の何かになったのか?
そこに遺されたものが、その人ではない別の何かに見えることがある。
『黒く塗り潰す』 ※鬱描写注意
爪を塗る。黒く塗る。
素を、足りないことを隠す為に塗る。
嘘が苦手だから、悟られないように塗る。
自分がもうボロボロである事実を黒で塗り潰す。
『師走某日、一八度』
気温一八度。
手があまりに冷たいものだから、堪えきれずにストーブの火を入れた。
パチパチ、窓からささやかに聞こえる雨音。
ああ、道理で寒いわけだ。
シンと冷えた室内の空気、ストーブが近い体の片側だけじんわりと感じる熱。
冬がいる。今ここに。
『柚子の香の思い出』
柚子が手に入った。
皮を茹でこぼして刻み、たっぷりの砂糖を合わせてクツクツと煮てゆけば、ふくよかな香りが台所を満たす。
これを初めて教わった、あの日の幸せが今一度、蘇る。
『友引』 ※死の要素あり注意
舟が着く
人が乗る
舟が出る
並ぶ棺桶
『せかいがおわるそのとき』 ※鬱要素あり注意
君が。君が吼えたその日、世界が瞬く間に闇の海に溶けた。
ボクの意識は夢の中。
世界という名の真っ黒くろな水に流され、沈むそのさなか、君の悲しみと憤りに触れた。
ボクは君の友達。
君はボクを失って、世界を道連れに心を壊したんだ。
君の名は、かみさま。
おとぎ 2023.10.24
死に顔 2023.11.02
黒く塗り潰す 2023.11.14
師走某日、一八度 2023.11.16
柚子の香の思い出 2023.11.17
友引 2024.01.17
せかいがおわるそのとき 2024.01.26