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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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76/88

彼と彼の想いの形 ※BL◎

彼と彼の想いの形を描いた7本

※全篇BL(ボーイズラブ)、一部に不快要素の含まれる短篇小説を収録しています。苦手な方はご注意ください。


※7本目は2025年3月17日から小説投稿型サイト『エブリスタ』にて公開(現在は削除済)していた短編小説を加筆修正した作品です。

『まずいコーヒー』


「君の淹れるコーヒー、まずいけど好きだよ」


 コイツにコーヒーを淹れると、必ずそう言われる。「麦茶みたいで」とか「色の付いた牛乳っぽくて」とか言い添えてさ。

 俺、いつも薄めのコーヒーを淹れるからな。


「体のことを思ってくれてるんでしょ。ただ、世の中にはカフェインレスのコーヒーもあるんだよ」


 知ってる。けど、まずい顔するコイツを見たいんだ。






『そばに、そこに』


 君が、

 君が俺のそばにいた理由を知りたかった。


 Re:


 何故って。

 お前のそばにいるのに、特別な理由が必要なのか。

 オレがただそこにいたいだけなのに。






『端っこに愛』


 カステラの端、玉子焼きの端、パンの耳――

「それが俺の好物」

 薄く切った玉子焼きの片端を咀嚼しながら言うオマエに、小首を傾げたら笑われた。


「他よりもちょびっと不格好なだけ、神さまがちょびっと旨くしてくれてんのさ」

 覚えとけ、ともう片端を俺の口に押し込まれる。

 その思い出が旨かった。






『隠し味』


 寒いな、とおもむろに膝を抱えて呟くオマエが、なんだか寂しげで。だからココアを作ってやった。


 牛乳たっぷり甘さ控えめ、隠し味にはウイスキー。

 マセガキ、とオマエは微笑む。






『ちがう』 ※鬱要素あり注意


「お前と会えてよかった」


 静寂の空間。こちらに向けるやわらかな眼差し、やっと絞り出したか細い声で紡がれた言――それはまるで呪いだ。


 違う、と叫びたかった。それは俺の科白だ、と。



 ……いや、違う。違うな。ちがう。


 ――俺はお前にとって、不運であり不幸でもあり、そして死神でしかなかっただろ。


 そう言うべきだったのに、言えなかったんだ。

 声を出せなかった。涙が邪魔で言葉が出なかった。


 なんで? なんで、俺なんかを庇ったんだよ?

 俺なんかのために、テメエの命を投げ出すなよ。



「お前がいたから俺はずっと幸せでいられたよ。

 ありがとうな」


 ちがうよ、ちがう。それは俺の科白だよ。

 ねえ、だからさ、ねえ、頼むよ、お願いだ。

 置いていかないでよ。






『キレイなヒト』


 ソイツはキレイなヒトだった。


 俺が出会った者の中で最も無垢で、広い世界に散りばめられたほんの小さな感動を逃さず見つける天才だ。

 戦わせればとてつもなく強いのは、人の倍以上に努力を積み重ねたから。

 自身の強さを自覚しているから、大切にしているものに触れるとき、自分が傷つけてしまうのを恐れる。恐れるがゆえに慎重になり、慎重になるあまり、いつも手が小さく震えていた。



 本人に、キレイなヒトだなんて言ったことはない。

 けど、それを言ったらソイツはきっと少し困り顔をするんだろうな。


 ――俺はキレイでもないし、人間でもないぞ。


 そうだな。俺にとって、ソイツは人間よりも尊く、誰よりも愛しいヒトだ。






『シガレット』


 駅に併設された複合型商業施の西側ゲートの片隅。人目を忍ぶようにポツンと寂しく設置された喫煙コーナーにアンタはいた。

 その肩越しに見える特設催事場を飾る、ハートとリボンのモチーフのなんと似合わないこと。

 喫煙コーナーに近寄るにつれ濃厚になるチョコレート臭は、間違いなく催事場のケースに山と詰まれた小綺麗な包みから漂ってきたものだ。


「何。カカオフレーバーを楽しむつもりでここに?」

 挨拶もロクにせずに声を掛ければ、アンタは咥え煙草のまま、肩を竦めた。

「バレンタインデーだとよ」

「言われずとも。アンタとハートの組み合わせが有り得んくらい似合わなすぎて、近寄りがたかったわ。営業妨害だって訴えられないか」

 うるせぇぞ――とアンタの目が笑う。こっちも鼻で嗤ってやった。


「くれたりとかすんの」

 もはや風物詩だからな。話題にくらいはしてやるさ。相手が乗っかってくれるかは別として。

「ンな甘ったるい催しに乗っかってやるほど目出てぇ頭はしてねえわ」

 アンタは女子供が群がるその一角を一瞥して鼻を鳴らし、紫煙と共に毒を吐く。

 つれねえな。かわいくねえの……って、これもまた、厳ついおっさんに向ける言葉じゃないな。我ながら、毒されてる。


「ああ、くれるんじゃなくて、欲しい方か。やろっか、ホレ」

 俺がバッグから出してまで差し出したのは、どこのスーパーにもあるハイカカオチョコ。開封済み。

 箱に書かれた九七パーセントの数字に、アンタはあたかも悍ましいモンを見たようなツラして、ヒラヒラと手を振って拒む。お気に召さないとな。

「アンタが好き好んでバカスカ吸ってるそれよりは美味いし、健康に良いだろうに」


 箱から取り出したひとつを躊躇い無く齧り、舌が濃厚な苦みと酸味を捉えるままに甘受する。

 チョコレートではなく、いっそエスプレッソとか赤ワインのような馴染むまでは不味いとしか思えない嗜好品と思えば、受け入れるのもそう苦ではない。

 事実、初めてこれを食べた瞬間、想像以上のまずさに苦よりも愉悦が勝って爆笑したし、以降も気に入って食ってる。まずいのにクセになんのは、煙草と同じだろうよ。

 それに俺は人を選ぶようなモンが嫌いじゃなかった。

(でなきゃあ、アンタとツルまねえっての)



 嫌いとか苦手とか、他者は容易くアンタにくだんねえレッテルを張るけども、俺はアンタの頭のてっぺんから足指の先まで染み付いたような灰汁だの毒だのごと、アンタを気に入ってる。

 そんなんだからアンタよりかはエグみの少ないハイカカオなんて余裕なんだっつの。


 しかしね、目の前のハートだのチョコレートだのをスルーしようとするアンタは、面白くないんだよな。

 浮かれろとまでは望まんが、甘ったるいイベントに敢えてノるくらいの冗談がありゃあ、ちっとは可愛げもあるのにな。

 ……いや、違うな。こりゃあ、ただの面白さへの期待だわ。

 もし、アンタか俺の期待どおりの反応見せてたらさ、俺はそんなアンタを面白がるだけなんだけども。それが何かに進展するかっつったら、無いな。


 可愛げのないアンタじゃ、世に蔓延る浮かれた催事を楽しむって情緒もなかろうよ。

 だからせめて、俺が一方的に楽しむのさ。



「ホレ、こっちをくれてやるよ。これなら文句はねえだろ」

 投げて渡したのはカカオフレーバーのシガレット。

 恋だのという甘ったるいモンとか、愛だのという空恐ろしいモンを俺はアンタ相手にゃ抱えたかないが、このくらいなら贈ってやったって良い。

 何せ、アンタは曲がりなりにも俺のお気に入りなんだからな。

まずいコーヒー 2023.9.15

そばに、そこに 2023.9.16

端っこに愛 2023.10.13

隠し味 2023.11.14

ちがう 2024.4.10

キレイなヒト 2024.11.23

シガレット 2025.3.17 エブリスタ公開

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