雨のち曇り ※
どんなに雨が降ってとしても、次に訪れるのが晴れでなくても、いつかは止むと信じている7本。
※一部に鬱要素があります。苦手な方はご注意ください。
『泣きながらさまよう』 ※鬱要素あり注意
泣きながら秋分の道を歩く。
ただいるだけで汗が滲む暑気のおかげで、涙を拭うのは誤魔化せた。
自分の創るものが誰の心にも響かないと、しくしく泣く。
自己顕示欲も拗ねることさえ無駄と諦めて逃げ出してしまうほどの無力感に苛まれ、ひしゃげてしまいそう。
己の無能さを改めて実感し、居場所がないとさめざめ泣きながら、右も左もなく歩く。
生来の方向音痴をここでも発揮し、半ば遭難している心地で知らない道を往き、ついには持っていた水も底を尽きてもまだ歩き、歩キ、あるき……
悩みの出口は見えぬまま、倒れ込むように巣に戻り、書き散らした原稿を破り捨てる。
それでも、ペンを折ることはできなかった。
ああ、頭が痛い。
『存在証明』
そうか。
自分が創ったものを通して、自分の存在も感じてほしかったんだ。
自分がまだこの世にいること、いつかこの世からいなくなったあとも"いた"ことを意味する存在証明。
だから、道端の草のように、足下の砂利のように、"あるのにない"ように素通りされることが苦しいんだ。
目には入るも、心に留め置く価値はなしと、そっぽ向かれて、虚しかったんだ。
私からなった実を黙ってむしり取り、取っていったものを自分がこしらえたものとして、勝手に使うような輩が腹立たしいんだ。
私はここにいる。
この、文字列の中に今も。そして、私の肉体が消えた後でさえも。
『命を掴む手が緩む』 ※鬱要素あり注意
お彼岸という時季には決まって、少なからず心身の不調を来してきたけれど、今秋のそれは『例年の比ではなく』なんて甘っちょろいものではなかった。
頭は締め付けられ、首から足先まで砂を詰められたような。
耳奥には刺激に敏感な"何か"が居付き、少しの刺激で脳に入り込んでうぞめく。
精神にはヤスリ、心には有刺鉄線が巻かれ、ちょっと身じろぐだけで無駄に涙が溢れた。
多くの喪失に均衡を崩されたのも、変革による揺れも揺り返しも、ひどい暑気に疲弊したのも、己の無能さと無力感よりの自棄酒という自業自得もあっての、心の一部瓦解だ。命を掴む手は確実に緩んでいた。
そうして得たものが、存在証明への気付きだなどと、最初から最後までクソうざすぎる。
『幾重もの月』
秋の宵を涼しいベランダで過ごす。
眼鏡もコンタクトもない、視力〇.一以下の、乱視も入ったすべての輪郭が曖昧な視界は、外部からのあらゆる情報にうんざりしたときは楽なものだ。
ものが明確には見えないゆえに、この目は色彩をより捉えようと努めているのかもしれない。
視界に映る、夜に染まる世界は闇一色ではなかった。
青みがかった闇の、明度や微妙な色味の違いで景色を大まかに捉えている。
それにしても、今宵の月は随分と気分屋だ。
灰色の雲の向こうに隠れたり、ひょこっと顔を出してみたり。
乱視入りの目で見る月は、左目では三つ、右目は……数え切れないほどダブっている。月はいつから影分身ができるようになったのやら。
この月のように、私の目を通して見るこの世は中身のない幻影で溢れているんだろう。
『探しもの』
違和感ならあった。
こころなし落ち着かなくて、首を傾げたけれど、違和感の正体はわからないまま時だけがいたずらに過ぎゆく。
なくしたと気付いたときには、あなたはもう私にはわからないような場所に行ってしまった後だった。
必死に探しても見つからない。
そばにあるのが当たり前すぎて、まさか、いなくなるものとは思わなかった。
私はなんて愚かなんだろう。日頃からケアが必要だったのだ。
いなくなったとわかった途端、目頭のあたりに微かな痛みを覚える。耳も痛いような。
あなたを失った代償は大きい。
何処に行ってしまったのだろう?
出てきてほしいんだ。眼鏡の鼻パッド。
※本当に探しています。
『カマス』
カマスと聞くと、真っ先に干物が思い浮かぶ。
食感はボソッとして、味は淡白。だが、その素っ気なさを求めるときもある。風邪のときとか。
鮮魚コーナーで見かけてもあまり手に取ろうとは思えない、細くて、尖ってて、ウロコも骨もやけに面倒くさそうなソイツ。
それの開きが実家の台所にあった。
「開かれてたから。でなきゃ買わない」
よく魚を捌き、骨まで抜いて下拵えをする人が言う。
この人が捌くのを嫌がるのだから、余程面倒らしいそれは、シンプルに塩を振って焼かれた。
一口目、身がふっくらで、旨味が強くて驚く。皮が香ばしい。
カボスで食べるのも爽やかでいいが、この淡白ながらに濃い旨みにはわさびがとかく合った。
面倒な魚ほどおいしいのかもしれないと思う秋の夜。
『殉』
あなたが欲しい。あなただから欲しい。
神の依り代として生かされた特別なあなたが欲しいのではありません。
半妖として誰からも蔑まれてきた自分を、ただの"自分"として見てくれたあなただから欲しいんです。
「だから自分と行きませんか」
あなたの体を奪って器とし、そこに宿っていた清らかな心と魂を生贄だ、廃棄物だなどと宣うような愚者共のいない地へ。
あなた以外の誰からも疎まれる自分が、投じられる石礫も悪意も邪心もすべて引き受けますから。
あなたは微笑む。
「ならば、この心と魂をキミに寄せてもらおう。そしたら、キミに投じられるすべてからキミを守ってあげられる」
そうじゃない、と泣いても、あなたは泣きそうな顔で笑うんだ。
泣きながらさまよう 2025.9.26
存在証明 2025.9.27
命を掴む手が緩む 2025.9.27
幾重もの月 2025.9.28
探しもの 2025.10.03
カマス 2025.10.04
殉 2025.10.04




