↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/97

梅雨の合間、天の夢 ※

長雨の合間、天に思いを馳せる7本

※一部に死、怪我、不穏な要素があります。苦手な方はご注意ください。

『枇杷たわわ』


 腕を伸ばすだけでは足りなくて、ちょっと背伸びして枇杷の枝を引き寄せた。

 どうして、葉の裏と実に直結する枝だけ、産毛が生えてるんだろう。銀色の産毛は柔らかくって、なんだかそこだけ別の小さな生き物と共生してるみたいで面白い。


 実は今年も豊作だ。

 まだちょっと若い実、甘い匂いに誘われた蟻が探検してる実、ちょっと傷んだ実、熟した実――いろんな実がたわわになってる。


 試しに一個もぎ、皮を剥いて、かぶりつく。

 ジュルッと溢れた汁がぬるい。

 ほの甘い、まだ若いのか酸味も少し。種周りの薄皮が舌に渋みが残すけど、ちゃあんとおいしい。


 童心に返ってパクパクと、指先を茶色く汚してつまみ食い。






『ある夜のこと』


 初夏の夜。シャワーを浴びた後の気怠さそのままに、暗い部屋でランタンの明かりのみを点して、夜風を楽しむ。

 昼間の陽気はすっかり落ち着き、窓から入る風は穏やかで涼しい。

 遠く、車の走行音と、電車のガタンガタンと規則正しい音が駆け抜け、やがてまた夜の静寂。



「あのぉ」

 甲高い声が網戸の向こう、随分と低い位置から囁いた。

「差し出口ですが、窓を閉めた方がよろしいかと」

 ――じき、雨を連れた黄泉の渡しがここを通りますので。


 訝しく思いつつも声に従うと、サアサアと細波の音に似た雨の音。

 閉ざした窓の向こう、雨音に混じり、ギイコギイコと櫂の音が聞こえる。


 音が遠退いて間もなく、どこからか救急車が鳴り響いた。






『星の産まれるところ』


 紺青の夜を歩く。

 星を見つけては拾い、拾っては飲み込むのが私の役目。


 星はいろいろあった。

 私の左手薬指にある黒子くらい小さなものから、心臓ほど大きなもの。

 北国の深夜に降る氷粒より冷たいものから、マグマよりも熱いもの。

 蜂が命懸けで集めた蜜のように甘いもの、海よりもしょっぱいもの、火を吐くような辛さのものも。


 すべてがすべて、光の抜け殻だった。

 私の役目は星の片付け、星の墓、星の墓守、そして、星産み。

 さあ、死んだ星がこの身をすっかり充たした。この身は爆ぜるが、無数の星が産まれるだろう。


 私の身は尽きてしまう。

 だからお願い。私の代わりに星たちの産声を聞いて。






『金色の契約』


 満月水晶の瓶に、新月の夜に汲んだ井戸水と夜露に濡れた黄熟した梅の実、銀色蜜蜂の蜜を入れる。


 黒髪の魔法使いは瓶に封をしないまま、上下をしっかと持って円を描くように瓶を振った。

 瓶の中身はチャプリと波立った後に渦を巻き、黄色の果実は解けるように溶けていく。

 シトリンの色水は、やがて金銀の泡が混じる黄金色になり、芳醇な酒の匂いたつ琥珀色に成った。


「お口に合えば良いのですが」

 籠目の切り子に注がれて、手ずから渡された琥珀は、梅香る最上の甘露。

 最後の一滴を唇に受け、喉奥に流し込んだ私に、魔法使いは妖艶に笑んだ。

「ありがとう。これで私は貴女のものに成れました」


 これは契約。






『星と潮騒』 ※死の要素あり注意


 住み慣れた土地を離れて、三月(みつき)。

 この町の夜の闇は薄く、星明かりは消えそうなくらいに淡いと、遅ればせながら気付きました。梅雨の中休み、室内よりも外が涼しくて気持ちの良い、とある深夜のことです。


 あなたは星になったのに、こんなに夜が明るかったら、あなたを探すのは骨が折れそう。


 今にも消え入りそうな星もだけれど、ここはあなたがいた場所とは、似ているようで違います。

 海は遠くに見えるのに、潮騒がまったく聞こえないのは寂しいけれど、暑気を感じる時季、夜に煌々と明かりを付けても羽根の生えた蟻が涌くことがないのは有り難いです。


 あなたが今いる場所はどうでしょうか?

 星の集まる場所からは潮騒が聞こえますか?






『梅雨の中休み、焼ける』


 夏が巡る毎に、命を焼く温度が上がっていくなと、日差しを浴びる度に実感する。


 腕の中には干したての敷き布団。

 まだ梅雨の半ばというのに、数日続いた熱帯夜により染みた汗を洗い、昼前から干していた物だ。


 突発的な洗濯は自棄になって行った。体がまだ暑気に慣れていないのに、エンジン全開で来訪した夏への憤りを抑えきれなかったんだ。

 結局、取り込んた時に掻いた汗で、布団はまたうっすらと汚れたのだけれども。


 ああ、水分補給をしなければ。

 今年の梅シロップも無事できたから、経口補水には事欠かない。


 しかし、恐るべきはお天道様だ。まさか、たった三時間ほどで、布団が乾くなんてさ。

 本当に、命が焼けちまいそうだ。






『美』 ※怪我、不穏要素あり注意


 タイトなドレスを選んだのは、磨き抜いた体のラインを魅せたかったから。


 真紅のリボンを幾重も飾ったのは、私にはこの色の薔薇が似合うと、あなたが教えてくれたから。


 ロングトレーンにしたのは、あなた以外を近寄らせたくなかったから。



 スリットを引き裂いた。

 あなたの許へ疾く向かいたかったから。


 リボンはすべてあなたに巻いた。

 応急処置ができてよかったわ。


 トレーンは引きちぎった。

 これで痛む腕くらいは支えられるでしょう。



 私の姿を笑いたければ笑いなさい。

 あなたを守り抜いたこの姿は、どんなに着飾った私よりも美しい。

枇杷たわわ 2025.6.01

ある夜のこと 2025.6.05

星の産まれるところ 2025.6.15

金色の契約 2025.6.15

星と潮騒 2025.6.20

梅雨の中休み、焼ける 2025.6.20

美 2025.6.21

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。