夏のような秋のような ※
季節の変化を感じたり、心の有り様を感じる7本
※一部に鬱要素があります。苦手な方はご注意ください。
『季節かわりて』
風が日差しで火照る体を撫で、いたずらにスカートの裾を弄ぶ。
眩しかった太陽はいつの間にやら山の向こうへ帰っていて、蝉の独唱には秋の虫達の歌声も加わっていた。
「あの」
ふいに呼ばれて振り返る。夏の背中に隠れた、恥ずかしがり屋の秋がいた。
秋は小さくお辞儀をして、消え入りそうな声で「よろしく」と赤ら顔で挨拶する。
近く、夏がのんびり去ってゆき、秋がいずれ来る冬のためにいそいそと支度を始めるだろう。
『赤』
君の小指の爪に赤い色。艶々とした赤い色。
それがぼくの小指に触れる時、はっきりと見える赤い糸。
運命なのかと問うたなら、否と。
「ただの約束ってだけさ」と君。
「断ち切ってもいいよ」と三日月のように細めたの目で笑う、意地悪な君。
『飯と海苔』
「昼、何食べる?」
君が訊く。
ぼくは何の気なしに答える。
「手巻き寿司」
「わかった。おにぎりね」
なにがわかったの???
『皺のある手が触れたもの』
お菓子の缶を開けたなら、裁縫道具が詰まってた。
年季の入った裁ち鋏、竹製の物差し、小花の待ち針、錆びた針、七色の木綿糸。
これらは知ってる、祖母の手のぬくもりを。
『ホルモンと鬱屈』 ※鬱要素あり注意
例えば、牛乳の直飲みとか、
例えば、排水溝のぬめりとか、
例えば、脱ぎ捨てられた靴下とか、
例えば、加熱残り数秒で中断されたレンジとか、
例えば、頼まれて買ったのに放置された物だとか、
怠いなと思うわけで。
その小さなストレスの原因が憎いとも。
全てをホルモンのせいにしたとしても。
『赤い道標』
濃い青だった空はいつの間にか色を淡くし、雲は鋭い輪郭をやわらかくぼかしていた。
河川敷と田の畦には眩いほどに赤い彼岸花。
秋分にかの御霊たちは、この赤く燃えた花を道標に彼岸と此岸を行き来するのだ。
『夏の終わりはまだ先だ』
夏がいつ終わるのかなんて、このいつまでも続く気怠い暑さの中でなんぞわかるわけがない。
たとえ蝉が道端で転がってたとしても、秋の虫達の声が間近で聞こえても、雲の形や空の色、風の涼しさが夏らしくはなくて、そこに秋らしさを覚えたとしても、俺が今も夏だと言い張れば、夏はまだ終わってないんだっつーの。……たぶん。
季節かわりて 2023.9.07
赤 2023.9.16
飯と海苔 2023.9.17
皺のある手が触れたもの 2023.9.17
ホルモンと鬱屈 2023.9.22
赤い道標 2023.9.25
夏の終わりはまだ先だ 2023.9.25




