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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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ブザマな恋の終わり方 ※◎

こちらは201年8月27日にpixivにて公開していた短編小説になります。

失恋が題材で、鬱々とした描写になっておりますので、閲覧の際はご注意ください。

 沈む。

 堕ちる。

 圧迫される。

 息が絞り取られる。

 上昇する無数の泡。

 遠ざかる水面。

 一点の光。

 暗い水。

 静寂。


 貴方がいない世界では、私は溺れる事も忘れて、ただ沈むだけだ。誰かが引き揚げてくれるかもという期待すらせず、ひたすら堕ちる。


 ――誰かなんていらない。ほしいのは貴方だけ。


 絡め取り、温めてくれるもののない指先は凍え、感覚を失っていく。


 私はこんなに無力だったろうか。

 貴方がいないだけで、周りで起こるなにもかもがフィルター越しであるかのように鈍く、現実味のないものなってしまうんだ。


 私のそばに来て。

 頬に触れ、見つめてよ。

 額にキスして、頭を撫でて。

 そしてそして――

 ぎゅっと抱き締めて、キスして欲しい。



 貴方という人を知ってから、私はこんなに貪欲でわがままになってしまった。

 一日逢えないと、気がかりで、

 二日逢えないと、不安になり、

 三日経ったら、寂しくて、

 四日経ったら、拗ねちゃって、

 五日経ったら、泣き出して、

 六日経ったら、唇を噛み、

 七日経ったら、怒り出す。


 こんな身勝手な恋人を貴方はどう思うだろう。

 きっと呆れるだろうな。



 助けて。

 息苦しい。

 貴方がいないと意味がない。

 世界は色褪せ、

 全てが味気なく、

 音は耳を素通りし、

 ものの匂いは失せ、

 酸素は稀薄になり、

 生きた心地もしなくなる。


 ――私は、こんなに弱かったろうか。


 お願い、どうか、私のそばに。

 今すぐ。



 ◇


 嫌な夢を見た。自分の未練をそのまま表したような夢だ。

 疲れた。嫌な夢を見た事も、嫌な事を思い出しては泣くのも。

 鏡の中の自分は悲惨だった。瞼はパンパンだし、クマも酷い。顔色も悪い。


 いちねん。

 一年半付き合った彼氏と別れた。

 突然だった。


 ――ごめんな。もう逢えないんだ。


 抗って、抗って、抗って、それでも駄目だった。

 別れてすぐはわけもわからずただ泣きじゃくり、泣き疲れて眠った。


 眠りから覚めると、彼との思い出を振り返り、おいおい泣く日々が続く。

 声が枯れて、酷い声になった。そうなると、いよいよ涙腺は馬鹿になり、とうとうどんなものにも彼に関連づけて、涙を流すようになってしまう。


 三日経ち、四日経ち、とうとう私はからっからの空っぽになり、別れを受け入れ、一粒だけ涙した。


 ――もう逢えない。

 ――もういらない。

 ――もう忘れよう。


 ズキズキ痛む頭を抱え、吐き出したため息と共に、いろんなものを放り投げる。

 失ったはずなのに、私から去ったはずなのに、心も身体も軽くならずに重く感じるのはなぜだろう。


 グラスに水を満たす。

 そういえば、このグラスは彼からの貰い物だった。


 ――いつかまた、笑いあえる時が来るといいなと思うよ。



 ガシャン

 力の抜けた手からこぼれ落ちたグラスは、水を撒き散らしながら粉々に砕けた。


 ――くだけた。


 ストンと、膝が折れ、崩れる。

 脱力しながら座り込んだせいで、スカートの裾がこぼれた水で濡れた。

 片付けようとグラスに指を伸ばして、ガラスの破片で切ってしまう。

 痛い。傷口から血が滲む。


 ――終わったんだ。


 傷が痛い。鋭く深い傷が、ズキズキと疼く。

 痛いのが悲しくて、でも本当にお話のように上手に失恋の演出をしちゃってる事がおかしくて、傷付いた指を握り締めて、ケタケタと笑う。

 馬鹿みたい。


 疲れた。

 上がる息と、また溢れてきた涙を隠す事もせず、割れたグラスを片付けた。


 ――もう、この恋はおしまい。心の引き出しにしまってしまおう。


 なんだかこれと似たようなタイトルの歌があったよね。

 うろ覚えの曲を口ずさみながら、「さようなら」と何度も何度も心の中で呟いた。

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