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対するは、わたし ※

己の一面と向き合う7本


※一部に怪我の描写があります。苦手な方はご注意ください。

『絵描きと盗難騒ぎ』


 ねえ、先日、盗賊が侵入して大暴れしたと噂のアトリエ、今どんな惨状なのかしら。

 まだ盗賊が潜んで危険かも、と閉ざされたままにされているあのアトリエよ。


 もしもあそこに私の作品があると仮定して、盗っ人に落書きされたり、黒く塗り潰されたり、勝手に別の輩の作品にされていたらと思うと、腸が煮えくり返りそうよ。


 アトリエの主は盗っ人を許さないでしょうね。






『縁の下の力持ち』 ※怪我の描写あり注意


 利き手の小指が変だ。

 見たら爪の下の皮膚が内出血してる。

 草刈り頑張ったもんな。


 普段はあまり活躍している印象がない小指でも、薄赤い色から日増しに黒くなる血塊が「小指も目一杯頑張ってんだぜ」と教えてくれる。


 ありがとよ、小指。お前のおかげで良い仕事ができた。






『クリームソーダ色のあわい』


 メロンソーダの色をしたバスに乗って行きましょう。

 ソーダのような青い空、アイスみたいな雲を眺め、辺りからどこからともなくシュワシュワ生まれる泡と一緒に上ろうよ、空の天辺へ。

 誰も……もう誰も私を縛れないのだから。






『黒タイツの山』


「これ、タイツ」

 娘は黒い小山を腕に、告げる。

「鳥頭、ウケる」


 普段、黒タイツを履かない娘が溜めたそれの意味は、葬儀と法事の数。

 毎度、入り用で買うも、前回使った物の存在を買った後で知るのだそうな。


「おばあ、呆れてそ」

 母の為に買われた新たな黒タイツを手に、娘は苦笑した。






『ある嵐の日に』


 雨が降る。雨粒が屋根を打つ。雨水が雨樋を通る。排水からは絶えず水の音。


 海中で聞く音ではない。川べりも違う。陸の建物内にいるからこそ聞けるこのたくさんの水音に、怯えることなく穏やかでいられるのは、壁と屋根に守られているからだ。


 窓越しに見る雨を眺め、ふと物思いに耽る。






『身の程』


 ここに今日から住むのか、とチケットを手に見上げるは、超大型入居施設。

 清潔な内装にただっ広いメイン通路、大樹のように枝分かれした無数の通路。

 役場も店も病院も備えた施設はどこもかしこも人だらけ。


 コンシェルジュに手持ちのチケットを見せたところ、しずしずと案内されたのは建物の裏にある工場。

 すっかり疲弊した建物、そこを出入りする汚れた作業着を着る人々を目の当たりにして、己の身の程を知る。






『ご近所の』


「あら、こんにちは」

「今、帰り? さっき、おかあさんが呼んでたよ」

「あんまりよそのコと喧嘩しちゃアカンよ」

「家近いのに、そこで休憩するの。そう」


 私の隣を歩いていた猫は度重なる私の声掛けに対し、暢気にニャアと返事した。

 図体のわりに可愛い声だ。

絵描きと盗難騒ぎ 2023.8.28

縁の下の力持ち 2023.8.28

クリームソーダ色のあわい 2023.8.28

黒タイツの山 2023.8.29

ある嵐の日に 2023.8.30

身の程 2023.8.31

ご近所の 2023.8.31


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