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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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37/77

茹だる日の怪異と食と ※

夏の不思議と夏のご馳走を綴った7本


※一部に鬱、水難事故の描写があります。苦手な方はご注意ください。


『龍の名』


 入らずの森の奥にある、神の祠のそのまた奥――そこに龍がいた。

 僕の髪と同じ色のたてがみと母さんと同じ目の色で、牙の形は父さんの糸切り歯によく似てる。

 その龍は僕の名前を知っていた。


 龍の名前を尋ねたならば、「お前の父と母が知る」と返される。

 なあ、お前は本当に龍なのか?






『ゴーヤ最高』


 苦瓜が好きだ。

 苦いの最高! ツナと玉子と炒めたゴーヤチャンプルーも最高!


 茹だるような蒸し暑い日、心も体もダラリととろけちゃってるときに、キリッと苦いゴーヤが心身に沁みる。うまい。

 昔は嫌いだったのに、今はこの苦さに救われてる自分がいるんだ。


 ゴーヤを食べると、ビールとか焼酎が飲みたくなる。

 沖縄のおばちゃまが「いっぱい食べなー。ガンガン飲みなー」って食わしてくれるイメージが私を元気にさせるんだ。


 ゴーヤ、うまい。






『憧れのハムカツ』


 ハムカツという料理の存在は知れど、実は食べたことがない。


 味の想像はつくのだ。何せ、ハムだから。衣付いてるから。大体、わかる。

 薄いハムでも分厚いハムでも、きっとうまいとわかるのだ。

 ウスターソースジャブジャブ掛けて食べたらさぞや旨いに違いないとも想像して、ビールが飲みたくなったり、ポテサラ食べたくなっちゃったりして。


 でも、残念ながら総菜屋でそれを見ることはなく、自作しようにもなんとなーく「……なんか、もったいない」と謎に躊躇うまま、「またいつか」と持ち越してしまう自分がいる。


 ハムカツは憧れのような、わざと自分で自分の手の届かない位置に置いているような。そこは自分でもわからないけど、もし目の前にあったなら、やっぱりウスターソースとビールで食べたいのだ。






『絶望の海』 ※鬱、水難事故要素あり注意


 波が押し寄せては引く夜の海。僕は絶望の波打ち際を歩く。

 波が足首を濡らす。足裏でチクと痛みが走る。海水が沁みて、泣きそう。


 絶望の海。

 されど僕は意気地なしで、沖どころか脛を濡らす深さの所にさえ、怖くて行くのを躊躇っているんだ。



 俯く僕の耳に、ふと聞こえるは「助けて」と叫び声。

 遠く、沖に一隻の漁船。海は凪。けれども、漁船は大波に打たれたかのように激しく揺れている。

 暗い海、月明かりに見えるのは海面から伸びる十四の黒い腕。船を押すのはあいつらだ。


 ――もしも今すぐ沖へ向かったなら、自分まであの黒い腕に引き込まれやしまいか?

 すべてに絶望した筈なのに、怖い、死にたくないと、臆病風を吹かしてる。


 ごめんなさいごめんなさい僕にはどうにもできない。






『夏の吸血鬼』


 夏はいいよ、夏は。

 私、いつも朝寝て午後に起きる超夜型で。寒い冬はなおのこと寝る時間が長いんだ。


 いや、不便はないよ。

 だってほら、大体のヒューマンは夕方くらいから疲れてくるだろ。だから、術ひとつ、ともすれば甘い言葉ひとつで糧をくれるから、超夜型でも問題ないワケ。


 ただねー、デメリットもあってさ。

 遊ぶ場所が限られるんだよなぁ。

 私が一日で一番絶好調になる真夜中って、私が行きたいカフェとかベーカリーとか本屋なんかのお店が締まってるんだよ。

 冬なんて、夕方くらいに暖かい布団からやっと抜け出して、目当てのお店を訪ねても、目当ての品がとうに売り切れてたり、何軒も回ってないのに閉店時間になむちゃってつまんない。


 その点、夏はいい。

 夏って、昼になると、兎にも角にも暑いでしょ。もう暑過ぎて、寝てられないワケ。だから少し眠いけど、頑張って起きて出掛ける。

 ベーカリーやパティスリーで欲しい品が売り切れてることも少ないし、日中に催されるイベントに群がる活きのいいヒューマンの熱い血もたくさん摂れるからね。


 ……まあ、私と同じく血を糧にしてやがるのみならず、吸血痕が痒くなるわ羽音が耳障りすぎる、小憎たらしいことこの上ない羽虫と争わなきゃならないのは鬱陶しいのだけれども。


 え、日の光は大丈夫かって? 平気、ヘーキ。

 今、紫外線を遮断する高性能の日傘と日焼け止めがあるでしょ? あれは実に助かるよ。

 いやー、今って、本当に良い時代だよね。






『おかだり』


 団子粉にぬるま湯を入れ、捏ねる。

 まとまった生地を小さく千切り、両手で挟んでコロコロと転がせば、ほら、真ん丸。

 母さんは二個、婆ちゃんは四個の玉をいっぺんに丸められるんだ。

 小さな玉がいっぱいできたら、それを茹でて、団子粉をまぶせば出来上がり。


「団子?」

「いや、"おか()り"」

「"おか()り"だってぇ」


 婆ちゃんが答えるのを母さんが苦笑して訂正する。

 婆ちゃんは"ざ"を"だ"って言っちゃうの、不思議。


「これを供えれば、ご先祖が召し上がるんだ。お前も食べていいよ」

 まだ粉をまぶしてないものをきな粉や砂糖醤油で食べるの、私、好きかも。


「あら? 数が少ない」

 母さんがひいふうと数えながら首を傾げる。

「言ったろ。ご先祖が召し上がるんだ」

 婆ちゃんはカラカラと笑った。






『茜色の門』


 ――あれ? 今日は半月か。

 そろそろ寝ようと窓を閉めたらば、未明の空に半分の真っ白な月が浮かんでいるのを見つけ、ふと首を傾げる。


 違和感を覚えたのは、今夜の月のことじゃない。

 おかしいと感じたのは、つい二、三日前、海辺の町に泊まった際に見た、茜色の月だ。

 あの日の月は一際大きく、コンパスで描いたような真円だった。漆黒の夜空に夕日を見たかのような奇妙な感覚になって、それを二日続けて見たものだから、記憶にはっきりと残っていたのだ。


(でも、十五夜の満月でもないのに、見事に真ん丸な月だったな)

 今、見上げる月とは似ても似つかぬ丸い茜色。

(あれ、本当に月だったのかな……なーんて)


 だが、月でなければ何だと言うのか。


《彼岸の門》


 私以外に誰もいない部屋。頭の中で、誰か知らぬ声が囁いた。

龍の名 2024.7.25

ゴーヤ最高 2024.7.26

憧れのハムカツ 2024.7.26

絶望の海 2024.7.26

夏の吸血鬼 2024.7.27

おかだり 2024.7.27

茜色の門 2024.7.28

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