世界はたまにセピア色
世界はごくたまにセピア色に見えたりする7本
『非待望』
世界の誰も私なんぞを待ち望んでやしない
ならばそれは自由ってことだ
『セピア色の朝』
ある朝、目覚めたら異世界にいた……なんてことはないが、どこかしらおかしかった。
空は薄茶で太陽は白……というか視界が全体的にセピア色じゃね?
親は若いし、姉ちゃんは幼児だし、死んだ爺ちゃんと婆ちゃんもいる。そして、俺は赤ん坊になっていた。
あそこのカーテンもぬいぐるみも、どれも茶色に染まっちゃいるけど、昔、家にあったものだ。
ああ、そうか。どうやらここは昔の写真の中みたいだ。
あ、小さい頃に可愛がってた愛猫のピケもいる。
「どうだ、懐かしいだろ」
ピケは寝転がる俺の顔を覗き込んで笑った。
こいつ、このおかしな出来事に一枚噛んでいそうだ。
『夏の使者』
道端に蝉の抜け殻が落ちている。
君は殻を捨て去って、灼熱の外の世界へと飛び立ったのか。
昔、蝉といえば夏の象徴で、子ども達は蝉を捕まえに外を奔走していた。
蝉も子どもも暑いのに、べらぼうに元気だったんだ。
けれど、今の目眩がするような暑い世界を生きる君たちは、本当に必死に短い生を過ごしているのだろうね。この、子ども達が蝉を追うより冷房の部屋や水辺を好むご時世では。
君は夏の使者。
願わくば、短い生がこの暑さで更に短くなってしまうことがないのを祈るよ。
『言葉を飲む』
――オマエのことが大嫌いだ。
そう言えたなら、どんなに楽だったろう。
いつも俺が爆発しかけると、オマエは涙を流すから、俺は言葉を飲み込まざるを得なくなるんだ。
大嫌いって、棘のある言葉だから、飲み込むと喉は痛いし、胸焼けするし、腹はズンと重くなる。
泣くタイミングのいいオマエが憎らしいよ、本当に。おかげで俺はオマエに大嫌いだと告げられぬまま、オマエを恨み続けているんだ。
『夏の庭』
夏の庭は草刈りに忙しいけどそこまで嫌いじゃないんだ。
濃い緑、しっとりと瑞々しい草、刈ると立ち上り微かに鼻孔を掠める青臭さ。
人間は暑さにマイってるのに、植物ばっかり元気なの。
汗だくで草刈りして、シャワー浴びてから飲む水もビールもうまいんだ。
『道標』
灯台の灯りが海面に映る。
不思議だね。
灯りは橙の星のようなのに、海面には同じ橙色の一本道に見えるんだ。
漆黒の空、漆黒の海に光る道。
岸に近いと曖昧模糊で、沖に行くにつれ明確に見えるんだ。道標だね。
ああ、魚が跳ねた。
『名前』
君がプリンと言えば、それは実のところゼリーで、
君の言うパンはどら焼きで、
君が呼ぶ饅頭はブッセだった。
名前を覚えるのが苦手な君はでも、僕の名前だけはキチンと覚えてくれている。
だからまだ間違いだらけのおつかいに付き合ってあげる。
非待望 2024.7.24
セピア色の朝 2024.7.25
夏の使者 2024.7.25
言葉を飲む 2024.7.25
夏の庭 2024.7.25
道標 2024.7.25
名前 2024.7.25




