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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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32/76

茹だる、憂う ※

茹だるような暑さの中で憂う7本。


※一部に死の要素があります。苦手な方はご注意ください。

『vs夏の風物詩』


 アイツが耳元で「プーン」と鳴く。ほんの微かな音のクセ、耳元で鳴かれるとまーあ不快ったら。

 音目掛けて手を打っても、また「プーン」。


 ようく耳を澄まして居所を探し、目を凝らし……

「いた!」

 部屋の隅、暗がりでウロウロしてる。

 両手を構え、気配を殺してそろりと近寄り、慎重に……


 パチン!


「プーン」

 うんもう!


 パチン!

 パチン!

 バチーン!!

 パチン!


「あ! やった!」

 あー、吸われてら。


 夏の戦い、夏の風物詩。






『夢幻の君』


 汗が滲む季節になると、キミは大樹の枝で目覚めるんだ。


 爽やかな風の吹く日や、霧が立ち込める朝、止まぬ雨で空気さえジトリと濡れた梅雨時に、相も変わらず大樹の枝で揺れるキミ。

 桃色をした極細の花弁がふわふわと愛らしい花。


 目にするだけで、幻想を見たか夢に迷い込んだかのような心地にさせるキミ。


 キミの名はネム。






『北側の部屋』


 一年通してずっと日陰で、冬は家のどこよりも寒く、夏はシロアリが飛んでくるのでランタンの明かり以外は点けられない、この暗い部屋が私の半生であった。


 夏のカンカン照りの外と隔絶された部屋。

 鳴きだしの蝉の声も遠く、窓を開ければ土とカビの臭いがする。

 それでもこのこじんまりとした部屋は私の城で、雨戸の隙間から入る日と、窓から覗く猫の額ほどの庭を埋めるように咲く紫陽花とアガパンサスの青は美しい。


 私は人脈も才能も力も夢もない、人嫌いのつまらない孤独な人間ではあるが、それでも愛しく思うものだってあるのだ。

 この薄暗い部屋から見た、明るく、青の美しい世界がそれである。


 私を除いた世界は今も暑く、そして鮮やかだ。






『手間』


 魚の切り身から骨を抜く。

 飲み込みやすいよう、食材を細かく切り、やや長めに火を通す。

 トマトの皮をいちいち剥いたり、トウモロコシを丸ごと出さなくなったのはいつからか。


 汗をよく掻いた日は塩をほんの少しだけ強めに利かせる。

 夏バテ気味ならば酢でさっぱりさせたものを作り、疲労している様子なら気分により甘味や旨味を増してやや濃いめの味にした。

 寒い日はとろみのある汁物や滋養のあるもの、ピリッと辛いものをよく作る。


 アナタは気付いていない。

 普段、何気なく食べているその料理に、どれだけの手間が掛かっているのかなど。

 これを愛情と言わずになんと言うのか。






『勝手につけられた属性』


 長子という、己の望む望まざるに関わらず備わった属性に、だが、親は自分が"それ"となったその時より、「そうであれ。それらしくあれ」と望んだ。


 下に同じ血を分けたきょうだいがいるのがどうした? 自分の知ったことではない。

 されど人は自分を見て言う。

「いかにも長子っぽいよね」と。


 『ぽい』とはなんだ?

 自分はそんなようには望んでいない。

 勝手に思い込んでいるのはそちらだろう。






『いたのは知ってた』 ※死要素注意


「存分にやれたか」

 あの世に繋がる奈落の底、闇に紛れてソレは問う。

 知らぬ声だが、ソレの正体は不思議とわかった。


「俺は間違えてばかり、悔いてばかりだった」

 問い掛けに応えれば、ソレが俺を抱き寄せる。

「オマエはずっと頑張っていたよ」


 ソレ――俺が生まれる前に死んだ兄は、どうやら俺をずっと見守っていたらしい。

 死んで初めて、兄の優しさを知った。






『正誤』


 どこで失敗したんだろうなーって。

 たぶん方向音痴の私のことだから、選んできた道のすべてで。

vs夏の風物詩 2024.7.01

夢幻の君 2024.7.04

北側の部屋 2024.7.05

手間2024.7.05

勝手につけられた属性 2024.7.05

いたのは知ってた 2024.7.05

正誤 2024.7.06

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