世界を垣間見る ※
世界を垣間見る7本
世界と一言で言えど、その意味は多々あるものだ。
※一部に残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。
『甘酸っぱい』
レモンパイが食べたい。ラズベリータルトでもいいわ。
甘すぎるのはダメ。とにかく酸っぱいのがいい。
口を押さえて、顔を伏せ、悲鳴とか呻きさえするくらい強烈なのが欲しいの。
とにかく、この悲しみや苦しみ、寂しさが紛れるのなら、涙を誤魔化せるのならなんだって。
『手の込んだごちそう』
一昨日はコロッケ、昨日はパン、今日は餃子が出てきた。どれも手作り。
旨かった。そうだよな、彼女が一所懸命作ってたもの……鬼の形相で。
「すごくうまいね」
ビール片手の賞賛は、声がちょっと震えちまった。
俺が何かした記憶はない。ない、けども、自信ないなぁ。
だからこそ、明日は絶対に彼女を息抜きに誘わねば。
『真夏の終わり』
ミンミンジージー蝉の声。お盆頃からトンボが飛んで、海ではクラゲが涌きに涌く。
田舎の夏は大体、そんな感じ。
気付けば蝉は鳴くのを止め、庭では秋の虫が大合唱。
でも外の世界はまだまだ暑いんだと。
私の知る世界とは少し違う。
『草刈りと世界』 ※残酷な描写あり注意
草を刈る、抜く。
足許では虫けら達がザワリザワと大わらわ。
人間にとっては只の環境整備でも、彼らにとっては一大事。
住処を、憩いの場を破壊され、奪われ、慣れ親しんだ環境は未曽有の事態となったのだもの。
それをキミはヒトごとと思うか?
キミ達にも有り得ることなのに。
『ウイスキー』
昔はただ、ウイスキーの辛さしか気付けなかった。
木の薫り、
舌を焼く辛さ、
一瞬滲む酸味と苦味、
ジワリ囁く甘さ
ほんの一滴。この、ほんの一滴で、この、酒は己の存在を知らしめる。
『魔法使いのように』
魔法使いのように絵の中に入りたい。
鉛色の空、灰色の海、無機質なビル群、顔のない獣人の雑踏、枯れた森林――彩度の低いその景色の中には必ず、一羽の極彩色の鳥がいる。
そんな、貴方が遺した絵に入り、私も鳥を追いたかった。
私が魔法を使えたら、それが適うのに。
『シュレディンガー』
もしも。私が独りで泣いたとして。
誰も涙に気付かなければ、誰も嗚咽を聞かぬふりを貫けば。
"この世界"で私が泣いた事実はない、もしくはなかったことになるのではないか。
アナタに問おう。
私は今、泣いていると思うか?
甘酸っぱい 2023.8.25
手の込んだごちそう 2023.8.25
真夏の終わり 2023.8.25
草刈りと世界 2023.8.26
ウイスキー 2023.8.27
魔法使いのように 2023.8.27
シュレディンガー 2023.8.28