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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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29/76

夏の影は深い黒 ※

眩い季節だからこそ、影の濃く深いことに気付く7本


※一部に死、虫の要素があります。苦手な方はご注意ください。

『パンドラの箱の中身』 ※死要素あり注意


 アイツはいつも懐に小さな箱を収めていた。

 一人になると、取り出した小箱を大事そうに掌で包み込み、時に語りかけるのを俺は知っている。


 あれはパンドラの箱なんだ。

 既に二度、アイツではない者とアイツの手により開けられた。

 アイツは一度目の開放でそこから放たれた禍のひとつなのだとか。



「突然、兄弟と共に解放された。俺は亡き兄弟のために、この箱を開けた愚者に復讐するためにここにいる」


 箱にひと欠片の希望のみを残して野に放たれた禍のほとんどは、一度目の開放から時を置かず、滅びてしまった。

 アイツ以外の禍は未熟で脆く、箱の外の環境に耐えられなかったのだ。

 二度目の開放時、禍の兄弟たちはアイツの手により再び納められたと、アイツは教えてくれた。



「残された希望は今どこに?」

 何度尋ねても、アイツは俺を静かに見遣り、微笑むだけ。


 それが俺の知るアイツのすべて。






『業』 ※虫要素あり注意


 卵を抱える蜘蛛を見つけ、叩き捨てた。

 放ればいずれ、部屋中にたくさんの蜘蛛の子が散るから。


 壁を伝うゲジを見つけ、叩き落とす。

 たくさんの足が怖かったから。その場で落ちた足が蠢いていた。


 たくさんは怖いと、誰に、いつ、刷り込まれたのだったか。

 人間こそたくさんいるのに。






『あの子の記憶』※死要素あり注意


 亡き愛犬の骨が綺麗に並ぶのを、君はどんな思いで写真に残したのだろう。

 見せてもらったそれは無垢だった。


 君の愛犬に会ったかどうかすら覚えていない僕には、彼の記憶が生前の姿でなく、その骨の白さのみしかないんだ。

 虹の橋を渡った彼は今、どんな姿で駆けているのか。






『告白』 ※死要素あり注意


「愛してる」

 真っ直ぐな目で俺をしっかと見て告げられたそれが、真実であるのは訊かずともわかる。


 俺だってそうさ。

 よく反発してたのだって、実力を示してアンタに認められたかったんだ。


 なあ、兄貴、命懸けで庇った相手()に愛を伝えるなんざ、俺は許さねえからな。






『かき氷の季節』


 口溶けがよいと評判のかき氷を君と私でひとつ頼む。

 味はきなこ黒蜜、トッピングは餡と白玉。

 向かい合う二人の間に置かれたのは、黒蜜の線が見え隠れする黄金色の氷山だった。


 一口目、口に入れた氷は途端に溶けて消えた。評判どおりの口溶けだ。香ばしい黄粉とコクのある黒蜜がうまい。

 だが、味を堪能したのはそこまでだ。

 まるで季節が冬から夏に転換したかのように、見る間に溶ける氷山に、二人で慌てて制覇に臨む。

 掻き込むから口は冷たいし、頭は痛い。


「白玉と餡子、食べたっけ」

「最後は黄粉水だったよな」

 ぼやきながら外に出る。

 かき氷で冷えた体に、外の蒸し熱い風が張り付くようだ。

 滞在時間はほんのわずかな店を後に、奇妙なひと時だったな、と君と笑い合う。






『ヒマワリとチョコミント』


 真夏のヒマワリと同じ背丈のキミ。

 麦わら帽子を被ったキミは、お気にのロックバンドの陰鬱なナンバーを口ずさみながらアイスバーを齧る。


 チョコミントは瞬く間に角を溶かし、タラリ滴る青緑。

 キミの長い指を汚すその色が脳裏から離れない。


 キミは夏の使者。






『ひなたの猫と』


 猫が落ちている。日影に落ちている。

 向こうにも落ちている。そっちは下半身だけ日干しになってる。

 あの道端にも落ちている……と思ったけど、ありゃどうも人だ。

 近寄るも真っ昼間の酔っ払いだから引き返す。

 まだ外で寝そべっただけじゃ死にゃしないさ。路頭で寝転ぶ猫だって元気に伸びてるし。



パンドラの箱の中身 2024.6.12

業 2024.6.13

あの子の記憶 2024.6.13

告白2024.6.13

かき氷の季節 2024.6.13

ヒマワリとチョコミント 2024.6.13

ひなたの猫と 2024.6.13

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