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混沌から星屑を拾う  作者: 三山 千日


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28/77

初夏の庭と猫と失速したペン先

夏恒例の戦と密かな挫折を含めた7本

『今も昔もご馳走』


 艶やかな赤い林檎を手に、何を作ろうかとウキウキ。


 少し前までの林檎はお手頃価格だったのに、今ではB級品でさえ以前の贈答用林檎くらいになったこのご時世の、なんと世知辛い。だからこそのご馳走だ。


 リボンのようにシュルシュルと皮を剥けば、甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 半分はそのまま、半分は甘く煮てトーストやパイに載せたいな。


 ああ、昔、大好物でよく食べた林檎も今や、ご馳走になってしまった。

 いやいや、おいしい林檎は昔も立派なご馳走だったね。ただ、いつでも気軽に食べられなくなった、それだけ。寂しいね。






『のびる』


 のびるのびる、ひなたの猫が。

 のびるのびる、だらりとのびる。

 一旦、あくびがてらにグググンと伸びて、それからまただらりと緩む。またのびる、梅雨前の昼下がり。


 猫が伸びながらのんびりと眺める、彩りの庭。

 昨年よりも幾分か背丈の伸びた紫の紫陽花。

 花盛りながら夏本番に向けて蔓をグングン伸ばし、領土を着々と拡大しつつある、薄紫のコンボルブルス。

 まだ本調子ではないけれど、梅雨本番に向けて茎を伸ばすツユクサが、昼から徐々に伸びゆく影の中に潜んでいる。


 じき来るであろう長雨を心待ちにする庭を眺めつつ、縁側の猫は心地よいひなたの中、のんびりゆるりとまた伸びる。






『綴る』


 時に降り積もる雪のように、時に降り止まぬ雨のように、僕は己が思いを綴る。

 思いの積雪は誰に気付かれることはなく、思いの洪水は誰も押し流すことはない。

 だが、僕の心にだけはしっかりと影響しているのだ。


 僕は雨にもみくちゃにされ、やがて雪に埋もれ、凍え、窒息する。






『草と人と猫』


 除草の季節が到来した。これは庭を侵略する草とそれを阻止したい僕との戦である。


 草刈り鎌を研ぐ僕を見て、いつも庭で気侭に過ごす猫は笑う。

「本能のまま蔓延る草と拓けた土地を得るべく罪なき草木を蹂躙する人間の戦だな」

「なんてことはない。只、お前がご自慢の毛皮で虫を飼わないよう、対策しているだけさ」






『見習いにさえなれぬまま』


 初めて買ったペン軸とGペンで僕はどれだけの線を描いたっけ。

 筆圧の強い僕は5本1袋のGペンをとっとと潰してしまってた。一体、何本のペン先を潰したことか。


 今の僕はGペンたった1本も潰せない。

 だって、ペン先どころか、僕の腕が錆びきってしまったのだから。






『戦始めの庭』


 燕の親子が巣を去って、烏が巣作りに奔走する頃から庭の草木が勢力を増す。


 去年の草は硬くて、地を這う草が多かったが、今年は事情が違うらしい。

 東の庭には茎が細くて背の高い、長毛猫の尾に似た穂を持つ草が幅を利かせ、夕日の庭には柔らかで細い、まるで朧雲のような草が群がる。

 淡い叢雲に猫が潜んでいるような梅雨目前の庭は、可愛らしいがその実、猫のように雲のように捕らえ所がなく、草刈りが捗らないったらない。


 今年の夏の庭もまた例年どおりに手ごわそう。






『初夏の台所』


 食にかけてはマメなアイツが、台所でまた何やらこさえている。

 初夏の明るい台所、網戸から入る少し湿った風、回る換気扇、甘ったるいのにスパイシーな香り。


 コンロ前ではアイツが片手鍋の中をつぶさに見ながら中身をかき混ぜている。

 火の傍で暑いのだろう、額には汗が滲み、ほつれ毛が張り付いていた。


「何作ってんの?」

 首に掛けてたタオルで顔の汗を拭いてやりながら問えば、「ジンジャーエール」と返される。

「生姜と唐辛子マシマシだから、蒸し暑さなんか忘れるくらいキくよ」


 楽しげな笑顔だから、できたものはきっと爽快にうまいんだ。

今も昔もご馳走 2024.6.05

のびる 2024.6.10

綴る 2024.6.11

草と人と猫 2024.6.11

見習いにさえなれぬまま 2024.6.11

戦始めの庭 2024.6.12

初夏の台所 2024.6.12

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