桜が見せる白昼夢 ※
桜の花びらと共に舞い降りた7本
※一部に怪異、ホラー、死の要素があります。苦手な方はご注意ください。
『花散る雨』
「しるしいなあ」
雨止まぬ窓の外、濡れた音に耳を傾け祖母が呟く。
しるしい――その言葉の意味を聞かずとも、雨を嘆いているのはわかる。
せっかく咲いた桜が散るような罪作りな雨にふと、先日の散歩中に見た花筏を思い出す。
(あ、そうだった)
お茶にしよう。花見は無理でも桜餅があったんだ。
雨音を聞きながら桜餅を楽しむなんて、オツじゃないか。
『真夜中の雨と運転』
雨降り、真夜中、曲がりくねった道。
対向車のヘッドライト、信号、濡れたアスファルトの反射光。
エンジン音、雨音、ラジオ、水跳ね音。
疲労、同乗者の雑談、集中力の低下。
危険と隣り合わせのドライブ。
うっかりで怪我も死にもしたくない。
『年輪を隠す』
皺の多い顔、弛んだ肌、シミだらけの顔面。
化粧するには皺を持ち上げねばならず、乗せた粉は崩れやすい。
シミを隠そうとするも、ファンデーションもコンシーラーもシミの上で浮いてしまう。
薄い眉をなぞるように描いたら、下がり気味の眉になった。
瞼に塗った色は皺の奥に隠れた。
唇は薄く、色もくすんで淡い。口紅はわざとはみ出させて、厚みを出した。
増えた年輪の本数を隠す心地である。
それでも仕上がりを見た貴女が微笑むのならば、いくらでも抗おう。
『桜に混じる』 ※怪異、ホラー注意
桜並木、桜花のアーチ、舞う桜吹雪、花筏、薄曇り。
駐禁の道端には長い縦列駐車。
道行く人はカメラを構え、桜の前でポーズを決める。
花見弁当を運ぶ人、公園での車座。
桜色に浮かれた雑踏の中、イチ、ニ、サン、と視えた歪な影。
桜に惑いさ迷う其れ。かつて、花吹雪の向こうに消えた者。
おや、花見の子どもを手招いているな。
向こうでは花見酒の酔っ払いの手を引いている。
橋の上では、花筏に向かって花見客の背を押していた。
嗚呼、今年もまたひとつ、ふたつ、みっつ、と歪が増える。
『御守り』
会食に際し、ネックレスを着ける。
留め具を繋いだ瞬間、うなじにぬくもりを感じた。肌に掌を当てられているようなあたたかさだ。
ああ、そうだったね。このネックレスはあなたからの贈られものだった。
多く人のいる場所ではどうしても"気"を向けられたり、相手に意図はなくともその邪気に触れてしまうから、と。
「だから、これは御守りに」
かつて、そう言いながら着けてくれた時のぬくもりに、私は今日も護られる。
『相思相愛』
アイツとお茶を嗜む。
互いに呪い呪われた相手だからこそ、薔薇を据えて美しく整えられたテーブルを挟み、美味しいお菓子と上等なお茶を囲むのだ。
霰もなく毒舌を吐く口を扇子で隠し、最上級の笑顔でいとも容易く、さりげなく呪いを向ける。
呪いを向けられたらば、甘いお菓子とお茶と共に飲み下し、また微笑む。
これでいい。それがいい。
向ける呪いは愛の一種なのだと、アイツも私も心得ているのだから。
『花吹雪』 ※死要素注意
あなたがひとひらの花びらとなって風に乗り、彼方へ飛んだとしましょう。
旅好きで賑やかなのがお好きなあなたですから、きっと花散らしの風を吹かせるのでしょうね。
多くのお仲間を連れて、かつて赴いた場所も、生前に行きたいと願った場所も余すことなく旅をして、途中で我が家やかつての職場にも寄って、散々旅した後は静かに川に下り、ゆらり花筏で大海へと向かうのかしら。
ねえ、忘れてはいけませんよ。あなたはいつか、私を迎えに来るってことを。
やっと行けるというときに、また置いてけぼりは御免ですからね。
花散る雨 2024.4.03
真夜中の雨と運転 2024.4.07
年輪を隠す 2024.4.07
桜に混じる 2024.4.07
御守り 2024.4.07
相思相愛 2024.4.07
花吹雪 2024.4.09




