夏のちょっとしたごちそう、ちょっとした不思議 ※
真夏の5本
料理と兄弟と(ちょっとホラーチックな)不思議な話
『ごちそう』
よく、思考しながら草むしりをする。
今日はローストビーフに思いを馳せていた。炎天下で膚を強烈な日差しで炙られ、中身を蒸されたからだ。
作業後のシャワーでは冷水が火照った体から熱を奪っていくから、下半身に届く頃にはすっかりぬるくなっていた。どれだけ熱せられていたんだろう、私。
きっと浴室から出る頃には、食べ頃になっている筈だ。
『キューカンバーサンド』
俺もキューカンバーサンドはつまんねえと決めつけていた時期があったんだ。
ところが10枚切の食パンを片焼きにして、片面だけバターを塗り、斜め切りのキュウリを挟んだヤツを食った時、存外面白い食いモンだってことに気付いた。
キュウリの歯触りの小気味よさと、味気ないようでその実、ほのかな甘みがあるのを俺はアレで知ったね。
そうそう、パンは表に出る面を焼いた方にするか否かで、食感が全然違うんだぜ。
逆にな、上下のパンの焼き目を上か、下かで揃えるのもアリだと思うんだよ。
俺は焼いた面が表に出るのが、ザクッとクリスピーで好きかな。
どうだ、今度、試してみねえか?
で、アンタの好みを聞かせてくれよな。
『三人兄弟』
「兄ちゃんみたく逞しくなるには何したらいいですか」
弟が丁寧語で尋ねてきた。
なんで、急にこの話し方をしたんだろ?
それに君、今でも十分逞しいけど。
「うーん、そうだねぇ」
思案してると、ふと視界に兄が入った。
なんか、狼狽えてるし。
弟のことを可愛いと思うのみならず、ずっとあどけないと思い込んでる兄のことだ。弟がこれ以上、ゴリラになるのを応援すべきか悩んでるんだな。
弟とのプロレスごっこ、兄はもう、はしゃぐ弟を抱えるのもやっとだからね。
『怪奇現象』 ※ちょっとホラー注意
睡眠中の音を録ってみた。
録音されたものには、隣の部屋の奴らの話し声と、上の階からの足音と、どこかのTVの音がうっすらと入り込んでいる。
壁が薄いのも考えもんだ。
それにしても、俺、けっこーでかめのイビキかいてんだな。
そう思った矢先、飼ってもいない猫の声がハッキリと聞こえた。
なあ、昨夜の俺よ。「猫ちゃんだー」じゃねえんだわ。
『爺と家人』
爺んちは築ン十年。
最近は戸が歪んで鍵が締まり難いけど、爺はまったく気にしない。ド田舎だから泥棒は来ねえんだと。ンなわけあるか。
曲がりなりにも独居老人なんだから、もうちょっと警戒心とか防犯意識とか持ってくれないもんかね。
あーあ、今日も鍵せずに寝ちまいやがって。ホント、しょーがねーな。今日も俺が戸締まりしてやっか。
コツのいる戸締まりももう慣れたもんだ。
俺、座敷童だよ。家の悪癖も難点も、どうとでもならぁ。
ごちそう 2023.8.22
キューカンバーサンド 2023.8.22
三人兄弟 2023.8.23
怪奇現象 2023.8.23
爺と家人 2023.8.24