摂る
楽しみを、毒を、摂る6本
『かえるよ』
祖父の祥月命日の当日未明、電話が鳴った。
発信者不明。
出るのを躊躇う内に、電話が勝手に録音を始めた。
――俺だ。そろそろ帰り着くからの、酒を燗で用意しとってくれ。
間違うことなく祖父の声だ。
呆れた。確かに帰りは待っていたが、朝から呑むつもりなのか。
『歪んだ献身』
祈りが欲しければくれてやる。
犠牲を求めるならこの身を差し出す。
嘲るのなら好きにしろ。
お前なんぞ信じちゃいないし、
救われたいとも思わない。
それでも、
あの笑顔を守れるのならば、
この身の不幸をいくらでも貪ればいい。
自己犠牲でなくこれはエゴ。
それでも構やしない。
『風物詩などと言わせない』
あなたを思うと、鼻の奥がツンと痛み、涙が出るのです。
何箱のティッシュが芥と化し、何枚のハンカチとタオルを濡らしたことでしょう。
いつの間にか訪ね、どんなにひどいと詰っても聞かぬ振りで、願っても立ち去ってはくれないあなた。
あなたは、あなたこそはそう、花粉。
『○』
表面カリ、中はふっくら、もちっ、しっとり。
具は色々。ほっくり、ねっとり、つぶつぶ。
香ばしい、甘い、豆の風味。
粒、こし、白、芋、桜、クリーム、抹茶、ずんだ、チョコ、いつも迷う。
大判、回転、大名、今川、おやき、あじまん、御座候等々。
お茶のおともでおやつなあなた。
いろんな顔を持っている。
『おいしくて楽しい』
正攻法で上のクリームから行くか、直下のアイスから行くか、てっぺんのさくらんぼからいっちゃうか。
コーヒーゼリーはまずはそのままで一匙。プルプルでほろ苦い。
二匙目はクリームと一緒にウインナ風に。あとはちょっとだけ残しとく。
コーンフレークはパリパリな内に途中で半分、チョコプレートは箸休め。
パフェは楽しい頭脳戦。
『赤林檎』
ショリショリと小気味よい音、伸びる赤。
手の中で林檎が回る回る。
器用だね、とあなたが誉めれば、調子づいてまた伸びる赤。
この林檎はきっと恋みたいに甘酸っぱい。
かえるよ 2024.02.10
歪んだ献身 2024.02.10
風物詩などと言わせない 2024.02.11
○ 2024.02.11
おいしくて楽しい 2024.02.11
赤林檎 2024.02.12




