命に接する ※
確かにあるのに見も触れもできない命に接する7本
※一部に暗め、ホラー、暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。
『王と臣下』
――わたしの猫
あなたのことをそう表したら、きっとあなたは怒るでしょう。
誇り高きあなた。
あなたはわたしのものでなく、いつだってあなたはあなただけのものです。
あなたの持つ、その一対の黄金にわたしの姿が映る。
それだけでわたしはあなたを心底愛せたのです。
『なにを対価に救ったか』 ※暗めの描写注意
あなたがいた。そこには確かにあなたがいたのだ。
ただ、あなたの顔も、声も、名も、性別も、どこの何者かも覚えてはいなかった、私を含め誰も。
そこにはあなたの足跡とにおいだけしかなかった。
だというのに皆泣くのだ。あなたを何もわからないのに。
『海底世界』
海に沈んでしまおうと、着の身着のまま黒い波に分け入る。
やがて凍るような冷たさは消え、息苦しさもなくなり、目も暗がりに慣れた。
海の底を歩く。どこまでも続いてる。
自分がこれまで生きていた世界は、本当に限られていたのだと知った。
やがて朝がくる。
『命の液体』
自分の中、奥深く、虚を見つけた。
虚の中は闇かと思いきや赤い水。
……まあ、これが何とは言わないが。何せ、皆が知るものだ。
深淵を覗く。
たとえ、落ちたとて構いやしない。どうせ、深淵も私なのだから。
この赤い水に毒でも注いでやりたくなったので、私はドプンと身投げした。底へと沈んだ。
『つまり、月が綺麗ということ』
「あなたが好きでした」
「過去形ですね」
仕方ない。こうなるのは自業自得だ。
心が悲鳴を上げるのを必死で隠していたら、彼女は笑って頷いた。私も乾いた笑みを浮かべる。
「もう、恋心には揺らがない。今はね、あなたへの想いが私を支えてるの。
私、どうしようもなくあなたを愛しています」
泣きそうになった。
『真夏の義眼』
「貴方の目、変わっていますね」
あまりにも無遠慮に言われたものだから、思わず笑ってしまった。
変わっているだろうとも。これは硝子玉だから。
ある夏の日、私の渇いた喉を潤したラムネの瓶を鳴らしてたあの硝子玉なのだよ。
だからほら、私の目はラムネ瓶越しに見た夏空の色なんだ。
『暗闇テレビ』 ※ホラー、暴力描写注意
真夜中の、電源を切ったテレビ。
真っ暗な画面に俺の姿が映ってる。
あ、彼方の俺が手を振った。なんだい、これ?
おや、彼方の俺の隣に黒い人影が寄ってきたな。手に持ってるのはロープだろうか?
あ! あ゛? あ、ぅぐ、う? あ、あ、あ……ぐ、あ……あう……
王と臣下 2024.02.07
なにを対価に救ったか 2024.02.09
海底世界 2024.02.09
命の液体 2024.02.09
つまり、月が綺麗ということ 2024.02.09
真夏の義眼 2024.02.09
暗闇テレビ 2024.02.09




