藍色の蕎麦
三角と三角の間の四角い家。
住み着いた時からそう呼んでる家に、今は3人もひとがいる。
湯のみが足りない。
「必要になる前に必要をそろえるのが基本ですから」
女神のような顔でにこりと笑みを作ってくるりと鍵をまわした。
早瀬は本当によく知ってた。
三角と三角の間の四角い家のこと。
早瀬は遥花を担いだまま一番先に階段を上って鍵を開けた。
いつのまにスペアキーを作ったのかな。
さも当たり前にスカートのポケットから取り出した鍵には、綺麗な新緑の色をした【マガタマ】が銀色の鎖でつながれていた。
確かあのマガタマは、私がずいぶん昔にあげたものだった。
家のそばに。
私が駐輪所と決めた場所に、ペダルのひしゃげた新緑の自転車が新たに一つ加わっていた。
明後日の方に曲がるペダルは、きっとこれからも折れることはない。
道理で、壊れないわけだわ。
「佐一の家は、相変わらず片付いていますね」
ひとり納得していると、扉を開けた早瀬が私を見た。
扉から見えたのは、一本の黄色い傘。それだけ。
「・・・何を買えばいいのか、分からないから」
何を買えばいいかわからないなんて、恥ずかしいこと。
雑貨やへ足を運べば、たくさんの小物があることを知っているけれど、
何を買えばいいのか、分からない。
色の意味も忘れて、傘しかないことに焦った。黄色い傘。黄色。きいろ。
恥ずかしくなって、手をきゅっと結んだ。
「細やかににまとまっていて、良いと思います。佐一らしい」
「・・・そんなこと、ない」
早瀬は何だってほめてくれる。本当はまとまってなんかない。
まとめるものなんて、この部屋にはないのだから。
せっかくほめてくれているのだから、素直にほほ笑むことができたらいいのに。
右手を結んで、口も一文字。可愛げがない。嫌われてしまう。
「また、机でも作ろうか?」
緑茶みたいな声がした。
少し困った顔が早瀬の顔に乗る前に、鬼の顔が乗った。
般若みたいになった。
ひらり、
早瀬の肩から滑り降りた猫のような藍色は。
「遥花」