奴、現る
―ダレカレシカレ―
なさけはひとのためならずって、みんなが知ってる。
人のためにやってあげた良い行いは、めぐりめぐって自分にかえってくるんだよ、って。
だから、良いことしようね、って。
めぐりめぐって帰ってくるご褒美期待して人によい行いしなさいよ、ってこと。
けっきょくみんな、自分が一番かわいい。
朝起きたら、ゴミ出し忘れてた事に気がついた。ゴミ収集車のまぬけなメロディーが遠ざかっていく。ベランダにたまったゴミを見て、夏場じゃなくてよかったと思う。
ごみ袋は半透明の袋か、透明の袋じゃなきゃダメなのに、この前電気屋で電球買った時は、レジ袋がきれいな緑色でがっかりした。
よくいくスーパーのレジ袋が一枚5円の有料レジ袋になったからエコバックを使うようにしていたら、あっという間にゴミ用のレジ袋が無くなった。そうしたら袋入れが、くしゃくしゃになった透明のビニール袋だらけになった。お豆腐の買いすぎかなって思った。
毎日毎日主婦みたいなことばっかり考えていたら、独り言も増えるって、誰が言ってたっけ。
「ぅあっ!!」
ちょっと恥ずかしい。びっくりした。
誰もいないところで一人すっころんだのに、おっきい声が出た。これって独り言に分類してもいいのかな?なんてのんきな脳みそがぐるぐる回る。あ、じめんに当たった。いたい。ほんと、いたい。
荷物を守るより、自分を守りたかったのか、荷物を前に思いっきり放り出して腕を交差させてエックス!みたいな感じでタイブした。何にも光線でてなかった。あたりまえだけど。
普段は「痛みに鈍感なんだよ」って、なんの自慢かわからないけど怪我したらみんなにそういってたのに、なんだ一人だったらいたいんだ。アドレナリンがサボってるんだ。
めずらしくかわいらしい八百屋でリンゴなんか買っちゃったりして、ついでに無塩バターも買って、家でアップルパイでも作ろうかな、なんて、パイ生地から張り切って作っちゃおうかな、なんて思ってちょっとすごく機嫌が良くて、エコバック、じゃなくて今日は珍しくフランスパンが顔を出してそうなおしゃれな茶色い紙袋を両手で抱えて覗き込んでたら、ありえない場所に転がってた何かにありえない感じでマンガみたいにきれいに引っかかったんだ。
「いてっ」
って台本の自分のセリフの一番初めにあったみたい。
緊張しながら棒読みで奴は言った。
「いてっ」って。
私が引っかかってこけた原因は奴の腕で、奴の腕は夕方の竹林の、坂道のど真ん中にあった。奴の体は、大の字になって竹林の散歩道を遮るように横たわってた。
迷惑な奴。