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第2話

「ふふ……おだやかじゃないわね?」

 冗談を聞いたときのように、茶目っ気たっぷりに口角をあげて微笑む眼子(まなこ)

 それに対して、(るい)は真剣そのものという表情で語った。


「この世界は、クソだ。メガネなんて、ただの道具だろ? なのに、何でその道具を使う側のアタシたちが、メガネに振り回されなくちゃいけねーんだよ。これじゃあ、人間がメガネに支配されてるようなようなもんじゃねーか!」

「あらあら……そんなことを言って、大丈夫?」

 実は放課後の時間は、教室の監視用マイクがオフになっている。泪は、どうやらそのことを知っているようだ。そうでなければ、確実にメガネ不敬罪として処刑されてしまいそうな今のようなセリフを、吐けるはずがない。

 そして彼女は、眼子もそれを知っているだろうということも、確信していたのだった。


「アタシは、こんな世界のことをぶっ壊すことにした。決行は……今夜だ。急な話で(わり)ぃーが、こっちも無駄なリスクは抱えたくねーからな。協力者は欲しいが、仲間が増えれば、そこから計画が漏れる危険性もある。だから、ギリギリまでアタシ一人で準備してきたんだ」

「……どうして?」

 眼子は、上目遣いで泪に尋ねる。

「どうして……私を協力者に選んだの?」

 そのときの眼子の眼差しには、戸惑いの色は全くなかった。世界を目茶苦茶にする計画に巻き込まれようとしているのに、目を泳がせたりもしていない。


 まるで、こうなることが分かっていたように。

 こうなることを、ずっと待っていたかのように。

 ひどく、落ち着いた様子だった。


「アタシがアンタを選んだ理由は、ニつだ。一つは……アンタ、別に視力悪くないだろ? アンタがいつも掛けてんのは、度が入ってねー伊達メガネだ。アンタは本当なら、メガネなんか掛けなくても普通に生きていけんだよな? それでもメガネを掛けてんのは……単純に、掛けなきゃ処刑されて殺されちまうからだろ?」


 基本的にこの世界では、メガネ置き場たちは、誰も勝手にメガネを外すことは出来ない。そんなことをすれば、即、処刑対象だ。

 ただ例外として、メガネに触れる部分を常に清潔に保つために、一日に三回以上洗顔しなければいけないという法律があり、そのときはメガネを外すことを許可されている。泪は、学校で生徒たちが顔を洗っている間に目を凝らして、伊達メガネの人間の目星をつけていたのだろう。

 「アタシも、こんなメガネなんか掛けなくていいなら、掛けてねーよ」と、スクエアフレームに指をくぐらせる泪。彼女の場合は、伊達メガネどころかレンズすら入っていなかった。


「……で? 二つ目の理由は?」

 光沢のある度なしレンズの向こう側から、ガラス玉のような、感情の分からない瞳を向ける眼子。

「ふん……」

 そんな彼女に目を合わせていた泪は……やがて、小さく首を振って答えた。

「アンタを誘ったもう一つの理由はな……アンタの顔だよ」

「顔?」

「アンタ……そもそもメガネ似合ってねーんだよな」

「え」


 一瞬、目を点にする眼子。

 それから、

「ふ、ふふふふ……」

 と口元を押さえて吹き出してしまった。


「メガネ掛けてなかったら、アンタ……結構イケてると思うぜ?」

「……分かってるじゃない」

 眼子はゆっくりとメガネを外し、破廉恥にも裸眼を露わにして、言う。

「いいわ。あなたの企みに、協力してあげる。……ぶっ壊しましょう、こんな世界」

「ああ。作ってやろうぜ、メガネのいらねー平和な世界をな」


 そして。

 二人の愚かなメガネ置き場たちは、絶対神であるメガネに反目し、世界に目に物見せるような恐ろしい計画を開始した。



 その計画の舞台、台風の目となるのは、この世界の中心。

 世界政府の所在地にして、現在の日本の首都……福井県鯖江だった。


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