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精霊界のノル・クァイン〜無腕無敵の最強騎士伝説〜  作者: 凡風
〜精霊騎士養成大学校 決闘編〜
46/51

4−8 言ったよね?

よろしくお願いします。

 厳粛な雰囲気から一転。


「始めっっ!!!」


 その合図で、空気が爆発した。


 歓声、応援、声援。


 期待、希望、鬱憤。


 観衆である騎士候補生たちがそれぞれの気持ちを、それぞれの形で決闘者へぶつけている。


 ノルとレクススの決闘は盛大な雰囲気の中で始まった。


「新入生の決闘でここまで盛り上がるとは……相当溜まっているな。次の精霊戦は荒れそうだ」


 外部から遮断された貴賓席。

 決闘を見物している騎士候補生の評議会委員たちは、異様な盛り上がり方を見てため息をついた。


「そうですね会長。長きに渡り()()()によって抑圧されていましたから。まったく、あのクソ虫どもが、実力も無いくせに家柄だけは立派で……」


「エ〜スニ。エスニ・ヴィテック副会長くん。だーい好きな会長(かいちょー)の前で、本音が出(言葉が乱れ)ちゃってるよ」


「お、おっと、これは申し訳ございません会長。汚い言葉を耳に………って! 誰がだーいすきなだ、いい加減なことを言うなアルト会計!! 誤解されたらどうする!! 私が会長に対する気持ちは、純粋な憧れでだな……」


「にっはは! ホントかなー?」


「オーキナーさん、あなたも大概ですよ……でもあのノルっていう子大丈夫かしら。せっかく入学してきてくれたのに、怖い思いをして傷つかなければいいけれど」


「もーそろそろアルトって呼んでって言ってるでしょー。アルトにゃんでもいいよ。相変わらずシーちゃんは優しいなぁ、それに可愛い、いい匂いもする。すりすりしちゃお!」


「どんな脈絡……あっ! アル、オーキナーさん! そこは……もう、いいかげんに…やんっ」


「強制するつもりはないが……」


 アレクサンドラが一言発しただけで、呆れていた副会長、ふざけていた会計、乱れかけていた(被害者の)書記が瞬時に居住まいを正した。


「エスニ・ヴィテック副会長、アルト・オーキナー会計、シエンタ・サンレッシート書記。この決闘には全員、刮目することを薦める」


 騎士会長は己を高めることにしか興味がない変人で有名だ。

 しかし、そのストイックでピュワな姿勢。その美貌。その圧倒時な実力、家柄。


 特殊な人格を補ってあまりある、否、そのストイックすぎる性格は人間離れした彼女の魅力をより際立たせる結果になった。

 そんなアレクサンドラにはファンを通り越した()()と呼べる存在が非常に多くいる。


 その1人であり筆頭のエス二は、この発言に強烈な違和感を覚えた。


 あのアレクサンドラが明らかにこの決闘に興味を抱いている。

 自分からしたら、取り立てて注目を集めるような対戦カードとは思えない。


 その理由が、先日行われた入学試験以降感じていた彼女の些細な変化と繋がった。

 アレクサンドラは最近、焦りのようなものが無くなり、何かにコミットしている時特有の落ち着いた雰囲気を醸し出すようになったのだ。


「あの……ノルとかいう少年、なのか。会長が選んだのは……」


 エス二は密かに狼狽した。


「私……では、なく」


 エス二は唇を力いっぱい噛み締め、眼下で戦っている腕の無い少年を恨み殺さん形相で睨みつけた。


 * * * * * * * * * *


「貴様、基礎防御魔法(コーティング)ぐらいはできるんだろうな!」


「うん、もちろんできるよ。心配してくれてありがとう。そっちこそ大丈夫? うっかり殺したくないから、全力できてね」


「心配などしてないわ! バカにしているのか貴様!!」


 ノルは素直に受け応えしているだけなのに、どうしてかレクススを怒らせてしまう。相性が悪いのだろうかと小首を傾げた。


 もう決闘は始まっているはずだがレクススは動かない。ノルの動きを警戒しているのだろうか、武器を構えて静かに霊力を練っている。


 レクススが装備しているのは長杖(ロッド)。先端に大きな精霊石が付いている。

 精霊石の大きさは扱う精霊魔法の規模や出力と比例する。大火力系の攻撃的な精霊魔法師であることが推測できる。


「来ないのなら、こちらから行かせて貰う……」


 きた! とノルは目を輝かせた。

 レクススは杖の先をノルに向け先端に精霊魔法を構築、そして威力十分と判断したタイミングで霊力を解放した。


「頼むから、一撃で黒焦げとかやめてくれよ……雷撃(イグニッション)!」


 ーーパァンッッ!!


 再度、会場の空気が爆発した。

 今度は物理的に、電撃が空気を切り裂いて進む凄まじいエネルギーによって。


 観客には強烈な発光にしか見えなかった。目が良い者はかろうじて稲妻が目視できたことだろう。

 しかし衝撃で立ち昇った砂煙が視界を遮った。対戦相手の安否が分からなくなった。


 果たしてノル(チャレンジャー)はどうなったのか。

 もどかしい時間が流れる。


「おいおい、()()はどういう魔法だ」


 砂煙が晴れた。

 結果だけ言うとノルは無傷で立っていた。それはまだいい。


 しかしレクススがソレと言ったのは、ノルの手前数メートルというところの地面にくっきりと刻まれた焦げ跡だ。

 まるで電撃が見えないドーム場の何かにぶつかって弾かれたようだった。


「コーティングだよ。ただ僕は、動き回るのが苦手だから体の外にも張っているんだ」


「ふざけてんのか貴様……それは、圧縮霊素壁(シールド)って言うんだよ!」


「そうなんだ、教えてくれてありがとう。じゃ、それで」


「どこまでも舐めやがって……気に入らない、気に入らないんだよ、その態度! こんな野試合で二度と立てなくなっても知らねぇからな!!」


 レクススはさっきよりも強く、そして濃く、精霊魔法を構築して練り上げる。そして。


加速雷撃(アクセル)!!」


 激しい雷鳴が轟く。

 人間の目には雷の速さの違いなど分からないが、その閃光の強さ、眩さは比べものにならなかった。


 一撃目よりも数段高威力の精霊魔法であることは誰の目にも明らかだった。


 今度は砂煙が晴れる前に動きがあった。

 レクススの顔を何かがかすめた気がした。


 ツーっと頬を血が滴った。


 攻撃を受けた。

 そしてコーティングが破られ(怪我をし)た。

 

 その事実を理解した瞬間。レクススの脳をアドレナリンが走った。


「言ったよね?」


 砂塵の中から声がする。

 ノルの影をキラキラと発光する小さな何かが囲んでいる。


「うっかり殺したくないから全力できてって」


 砂煙が晴れていくと、レクススを鋭い眼差しで見つめている臨戦体制のノルが姿を現した。

 体の周囲には大量の圧縮霊素弾(バレッド)が浮遊している。


 この瞬間。レクススはやっと理解した。

 こいつは敵だと。


「舐めてるのはどっちかな」


「そう、だな、君が言うとおりだ。ノルと言ったな。君はエコモードで倒せるような相手では無いみたいだ。ここからは遠慮なく……スポーツモードで挑ませてもらう!」


 ブワっという音が聞こえてきそうなくらい、レクススの雰囲気が明らかに変わった。

 目つきが変わり、髪が逆立ち、体には稲妻を帯びている。

 纏っている霊力も増大した。


「そうこなくっちゃ。君は言葉とリンクしたイメージで霊力の出力を調整しているんだ、面白いテクニックだね」


出力切替(モードセレクト)。精霊魔法と共に、我が家に代々伝わる流儀だ。まだ上にレーシングモードがあるが、私はまだ使いこなせない。これが今の私の全力だよ」


「うん、良いんじゃない?」


 ノルはにこっと笑った。


 スポーツモードを解放しても、ノルは相変わらず余裕を見せている。

 ついさっきまで、ふざけている、おちょくっていると感じていたこの態度。

 今度は、底知れない恐怖を感じたレクススだった。

ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

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