4−6 家柄
今話からどこかで聞いたことがあるような単語が聞こえてきますが、気のせいです。
ここは精霊界。現実の世界とはなんら関係がありませんので、ご了承くださいませ。
何卒よろしくお願いします。
オレンジがかった明るい茶髪。いかにも上流階級の貴族というナリをした青年が、僕たちの前で仁王立ちをしている。その様子はひどく苛立っており不機嫌そうだった。
後ろに大柄な男を2人従えている。取り巻きだろうか。
「あの、騒がしかったのならごめんなさい。もう少し静かに話します。ただあたし達は別に………」
「おい貴様! なんだその態度は。このお方を誰だと思っている」
「ひっ……」
「そ、そうだぞぉ? きっと、知らないんだな? 知らないのなら教えてやる。この方は製造大国ヘアシュテンブルクから世界に名を轟かせる、霊力自動車製造の名主、トヨタバッカーリ家の次期当主であらせられるレクスス・トヨタバッカーリ様だぞ!!」
「………」
その名を聞いた瞬間、ルディが顔をしかめたような気がした。そういえば、ルディもヘアシュテンブルクの出身だったな。有名な人なのだろうか。
彼本人は別として、その家名は田舎に引きこもっていた僕でも知っていた。
工業生産を生業とするヘアシュテンブルク。
ありとあらゆるジャンルの工業製品がある中。世界の人々が主要な移動手段として利用しているクルマは、ヘアシュテンブルク国内でも競争率が激しい産業の一つだ。
そんな中で現在、世界トップシェアを誇っている家系がトヨタバッカーリ家なのである。
高度な文明進化を遂げた今。身分に関わらず生活の基盤としているこの工業製品の製造元。その家名は世界的にも指折りの知名度だった。
「おいおいアルファイア、ベルファード、2人ともよしてくれ。気持ちはありがたいが、まだ当主になれると決まった訳じゃないだろう? いくら取るに足らない下等な者たちが相手だからって、誤解は良くない。人へ伝わってしまった情報にリコールは出せないんだぜ?」
「お、さすがはレクスス様! 上手いことおっしゃりますね!!」
あははははははっ! っと身内だけで盛り上がっている。
ここまでの態度で我慢の限界を迎えたフューが表情をヒクヒクさせながら前へ出た。
「君たちのその態度も、決して騎士らしいとは言えないんじゃないかな?」
その一言で冷や水を浴びせかけられたように、高笑いが止まった。
「なんだと?」
「騎士たる者。いかなる理由があるにせよ、無闇に人を見下したり、威圧したりしてはならない。見ろ、俺の友達が怯えてしまっているだろう」
先ほど大声をぶつけられたエレーナはルディに身を寄せて怯えていた。
「軟弱だからだ。そんなんでよく騎士を目指そうなどと思ったものだな。その程度の心構えで、どうして悪党や魔獣と合いまみえるつもりだった……おっと、見合い目的でここへきたんだったか? これは失敬」
「彼女は治療系の精霊魔法師だ。騎士が全員、最前戦へ出て戦う訳じゃない」
「貴様、戦場に出た事がないのか? こちらが勝手に引いた戦線など敵にとっては関係ない、それは破られる標的だ、どこでも最前線になりうる」
「だとしても。人には役割がある、戦うのが苦手な仲間を守るのも騎士の務めだろう! そもそも、それは怯えさせてもいい理由にはならない!」
かなりヒートアップしてきてしまっている。エスクエラでは訓練外で怒声が飛び交うなんて珍しい出来事、庭の隅っことはいえ流石に注目を集めて野次馬が出始めた。
2人ともそれに気がついていない。
教導官に知らせが行って大事になる前になんとか収めなくちゃ。
「まあまあフュー、この人たちはとても勇敢だと思うよ。だって人数で劣る状況なのにこうして一言物申しに来たんだ。言い方は良くなかったけれど、きっと彼は、彼の騎士像をリスペクトしての事だったんじゃないかな。とても勇気のある、騎士らしい人じゃない?」
僕は2人の間に立って場を取り成すつもりでそう言ったのだけれど………。
「わ、わた……俺、俺様が、貴様らに劣る、と? この程度の頭数如きで?」
「あ、ごめんフュー。火に油だったみたい」
言葉選びが悪かったのかな。僕は彼をリスペクトしたつもりだったんだけど、余計に怒らせてしまったようだった。
そしてその火は今度は僕に向いた。
「貴様こそなんなんだ! そのナリ。そんな体でどうやって試験に通った。まさか、不正でも行ったのではないだろうな…………ったく。せっかく軟弱貴族どもが居なくなって清々したというのに、またこんなのが、嘆かわしい」
「レクスス・トヨタバッカーリ殿。ご歓談中、失礼いたしますわ」
取り返しがつかないほど白熱してきてしまった場を、凛とした声が通り抜けた。
それはまるで蒸し暑い熱夜に吹く、一陣の風のように清々しく耳に響いた。
静かな言葉の中に眠っている有無を言わせない存在感が僕らの反論を許さない。言外のオーラ、そうとしか表現できない何かが彼女から発っせられていた。
これはルディが隠している家柄、血筋が成せる業なのだろうか。
「お昼休みのお時間も残り少なくなって参りました。このままでは収拾がつきません。ですから失礼ながら単刀直入にお伺いいたします。あたくし供は一体どうすれば、貴方がたを認めさせる事ができますか?」
決してここにいる全員がお見合い目的ではない。それだけでも分かって貰わなければこの諍いは終わらない。
そう判断しての提言だろう。場慣れしているというかなんというか、ルディは空間を支配することが板についているなと僕は思った。
その気配を感じ取ったのか、冷静になって状況の整理が追いついたのかは分からないけれど、レクススの表情から激昂の色が消えた。
真面目な表情、落ち着いた声で「決まっている」と付けた後、こう言い放った。
「実力を見せろ」
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




