3−17 ゲームマスター
よろしくお願いします。
現在、精霊騎士団が最も危険視して睨みを利かせている組織がある。
精霊魔法に頼りすぎている現代社会に対して脱精霊魔法を提唱している反精霊社会組織だ。
基本的には限りある霊素資源を人類が独占する事に否を唱えている集団なのだが、その中には過激な活動が含まれる場合があり、半ばテロ組織化してきている。
そんな反精霊社会組織は名前から推察できるとおり、いま目の前で優雅に紅茶を啜っている悪魔ルシファーが裏で糸を引いている。
僕はこの悪魔と過去に面識がある。アレクサンドラさんの前で変なことを言い出さなければいいけれど。
「冷めない内にどうぞ。毒などは入っていませんから安心してください」
僕とアレクサンドラさんは一旦テーブルにはついたものの、警戒するばかりで動けずにいた。
ルシファーの催促を受け、アレクサンドラさんは「頂かせてもらう」と一言口にしてティーカップを口元に運んだ。僕も後ろに立っているクァインに目配せして紅茶を飲んだ。
普通に美味しかった。
「……こうして歓迎して頂いたからには、何か御用向きがあってのことでしょうか」
なかなか話を切り出さないルシファーに痺れを切らし、アレクサンドラさんが意を決して質問した。
「そうですね、単刀直入にいきましょう。ノルくん、こちらに来る気はありませんか?」
嫌な予感が的中した。ルシファーは真っ直ぐに僕を見つめながらそう言った。
案の定アレクサンドラさんは困惑の眼差しを僕に向けてきた。
「こちら、というのは貴方が抱えている組織のことかな」
「ええそうです。ノルくんが彼の地を離れる時をずっと待っていました。君がこちらに来てくれれば、私の大いなる計画がいくらか短縮されます」
「その大いなる計画、っていうのに霊源狩りが関係しているの?」
「それは組織外の者にはお話しできかねます」
聞きたければこちらに来いって事だね。質問を変えよう。
「じゃあその『大いなる計画』っていうのはどんな計画なの? 内容も明かさずに勧誘なんてムシが良すぎると思うよ」
「そうですねぇ……最終的には全ての人類を不自由から解放する、事を目的としています。組織の者の内、大半はこの計画に賛同して活動してくれていますよ」
「それはどうやって?」
「くくっく……これ以上はシークレットです」
「質問、よろしいだろうか」
「アナタの質問に答える義理はございませんが、偶然とはいえ同席したよしみ……一つだけどうそ」
「感謝する。貴方の言う人類の不自由というのは、一体何の事を指しているのでしょうか」
なかなか尻尾を掴ませない組織の親玉に質問できる機会など、今後二度と訪れるか分からない。アレクサンドラさんはそれを理解しているんだ。
少し気分を害すだけで簡単に命を失いかねないこの状況で、文字通り命がけの質問をした。
ルシファーは「ふむ」と言って口元に手をやり少し考えた。
「……少しはヒントを与えた方が、面白くなりそうですね」
神妙な顔でそんな事を呟いた。まるでゲームマスターがゲームバランスを調整するかのような言動だ。
「いいでしょう、答えて差し上げます。私は人類……いや、生きとし生ける全ての生物を、肉体の不自由から解放して差し上げたいのですよ」
否。
人智を超えた存在。最上位精霊体であるルシファーにとってこれは、退屈しのぎそのものなのかもしれない。
「さあノルくん、タイムリミットです。答えを聞きましょう」
『人類』対『悪魔』の壮大なゲーム。
「うーん、精霊騎士団の方が楽しそうかな」
それが始まりを告げたんだと思う。
後から振り返ると、ルシファーにとってこのお茶会がゲームスタートの合図だったのかもしれない。
「………そうですか」
勧誘を断られたはずのルシファーは、この上なく楽しそうな屈託のない恐ろしい笑顔を浮かべた。
これでは最初から僕が敵になることを望んでいたかのようだ。
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




