3−14 好戦的で挑戦的そして
よろしくお願いします。
「………さあ、一時試験の続きを始めようか」
うーん、できればあのまま終わってくれていた方が良かったんだけどなぁ……なんて考えていても現実は変わらない。
これが試験で、管理者が止めに入ってこない以上は続けるしかないのだろう。
クァインも熱くなっちゃっているし………やるしかないか。
僕は身を隠したまま、気持ちを切り替えて状況をもう一度整理する。
相手は一次試験の最後に、ゴーレムを乗っ取ってまで僕たちと戦った人と同一人物と見て間違いない。
あそこまで好戦的で挑発的な霊力をした人物が、そう何人もいたらたまったものじゃない。
などとぐだぐだ考えている間にクァインと襲撃者との交戦が始まってしまった。
足の拘束はとっくに破られてしまっている。やはり温泉を硬質化させる精霊魔法の展開が甘かったのだろう。
太刀筋が交錯する音と襲撃者が狙撃を迎撃する音が絶え間なく聞こえてくる。湯気の中ではかなりの高速戦闘が繰り広げられているようだ。
彼女を覆っている圧縮霊素はかなりのものだ。
瞬間的な強度だけ見れば一次試験の時とあまり相違はない。しかし遠隔操作のゴーレムとは違い、本人はもっと軽快に動きそして自由に精霊魔法を使ってくるだろう。
「はは! これは戦いにくい。ハーフエルフの君も良い動きだ。一次試験では、不意打ちで勝負を決めてしまったのは失敗だったかな」
今現在、戦闘が続いているのは湯気による位置情報の撹乱とフリードリッヒの援護射撃、そして1番の要因は彼女が戦闘を楽しんでいる所にあると思う。
もし仮に僕たちを本気で狩りに来ていたら、もっと違った展開になっていたと確信している。
「そう、そうだ。突いて来い、撃って来い! 貫通力がある攻撃でなければ、私に痛みを与えることすら難しいぞ」
圧縮霊素越しにダメージを与えるにはいくつかの手段がある。基本的にはそれ以上の霊素密度をした攻撃や相性がいい属性の精霊魔法を当てるしかないが、力量差があってそれが難しい場合、刺突系の攻撃をクリーンヒットさせるという方法が一般的である、質量や慣性力があればなお効果的だ。
クァインが狙撃の合間をぬいながら、一撃離脱の刺突攻撃を多用している。相手の防御の高さをしっかりと把握しているんだろう………なぜそれで喜んでいるのかは、僕には分からないけれど。
だが、同じ手に何度も付き合ってくれるほど甘い相手ではなさそうだ。
時間が経過し、手数を追うごとにテンションが下がっていった。
そして。
「確かに完成度の高い、いい攻めだ。だがもういい、飽きたよ……いくら美味なる食事でも、何度も繰り返し味わえば、それは凡庸な味に変化してしまう。哀しいな」
嘆くようにそう呟くと、相手は急速に霊力を高めていった。
まずい。
『クァイン、僕の後ろまですぐに下がって。リードも、もう危険だ撤退して』
『うん』
『り、了解』
僕は精霊魔法の通信を通し急いで2人を下がらせた。
次の瞬間。
熱風が吹き荒れた。
襲撃者を中心に、強力な爆弾が爆発したかのような暴風が吹いた。
露天風呂の空気中に停滞させていた湯気状の精霊魔法が一気に吹き飛ばされてしまった。
「やっと姿を見せたな、ノル」
好戦的で挑戦的、そして子供のような好奇心に彩られた紅の瞳に僕の姿が捉えられた。
* * * * * * * * * *
「……おっと」
背後から襲ってきた暴風に煽られて、フリードリッヒは微かによろめいた。
これが敵の精霊魔法によるものだということは明らか。これだけの距離にも届く魔法、ノルの精霊魔法が破られた事は容易に想像がついた。
「ノルくん、よく分かってるな」
敵に位置が特定された狙撃手など何の役にも立たない。ただやられるのを待つだけの的である。
フリードリッヒを守り、戦力たらしめていた妨害魔法が破られると踏んで即座に撤退の指示を出したのだ。
知っていれば常識、簡単なこと。しかし戦闘の素人は遠距離支援に心強さを覚えるとつい頼りたくなってしまうもの。
それをあっさりと切り捨てるノルの判断の速さにフリードリッヒは感心した。穏やかそうな人柄には似つかわしくない鋭い戦闘感をしている。
「こんばんは、坊や」
「………え」
フリードリッヒが覚えているのはここまで。
待ち構えていた所に飛び込んだのか、相手が突然飛び出してきたのか、定かではない。
ただ覚えているのは、色気のある女性の声が聞こえたような気がした所まで。
フリードリッヒは強烈な眠気に襲われ、失神するかのように意識を失いその場に倒れ込んでしまった。
「彼の楽しみが終わるまで眠っていて頂戴………虫に刺されたら、ごめんなさいね」
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




