3−13 そういう作戦
よろしくお願いします。
「あーあ、瞬殺だちくしょう。もうちっとはやれると、思ってたんだけどなぁ」
仰向けの大の字。豪快に倒れ込んだままのフューエンは、抱いた悔しさを動く手足でバタバタ表現しようとした。
「フューくん、あんまり動かないで。治療魔法が上手くあてられない」
戦闘には参加せず、治療担当としてこの場にいたエレーナはジタバタと動くフューエンに苦言をていした。
倒れ込んでいるのは、身体的ダメージによるものというよりは精神的要因が大きい。それは分かってはいても、戦力として貢献できない代わりとばかりに、自らの役目を全うしようとエレーナは懸命に治療魔法をかけ続けていた。
「いいんですの? ヒューエン様。口調が変わっていますわよ」
同じように大の字になって倒れ込んでいるルディは、見上げた天井に顔を向けたままフューエンに声をかけた。
「あれだけカッコつけておいて無様に惨敗したんだ、今更取り繕ってもなんか後の祭りじゃね?」
「あたくしはこっちの方が好感がもてますわよ。取り繕った小綺麗な人格には飽き飽きしていますの」
「へ、そっかよ」
彼らの周囲には激しい戦闘の痕跡が残っていた。
熱量が高い精霊魔法使い同士の戦闘だったため、焦げたり溶けた跡が至る所に残っていた。
瞬殺とフューエンは感じ、そう口にしているものの、この惨状を見るに幾ばくかの手応えを残す戦闘内容だったことが伺えた。
「ノルの方は上手くやってると良いんだが………キミはどう思う?」
「……分かりかねますわ」
「キミもそう思うのか」
「ええ。ノル様という人物をわたくしは測りかねておりますわ。捉え所のない、不思議な方。人を見る目はあるつもりでいましたが、少々自信を失ってしまいましたわ」
「………俺もだよ」
この2人ともノルに対して異質な何かを感じているのだろう。
圧倒的な力の差で敗北した相手だというのにも関わらず、なぜか彼が同じようにあっさりとやられてしまうイメージができなかったのである。
* * * * * * * * *
「これは……想定していた以上の仕掛けだ」
私は彼が待ち受けているであろう、不自然なまでの湯気に覆われた露天風呂へ足を踏み入れた。
これは罠。それは百も承知である。むしろその内容を確認したいがために訪れたと言っていい。
遠くからではその実態を把握しきれなかったが、この空間を生み出すのにどれだけ精密な精霊魔法技術が必要かを目の当たりにし、思わず感嘆の声が漏れた。
視覚はもちろん、熱探知、霊感、あらゆる索敵能力を無効化していると言える。
限定的な範囲とはいえ、序列騎士クラスの実力を自負する私から完全に隠れおおせている事実。驚愕せずにはいられない。
少なくとも、ここまで完璧に私の索敵から隠れおおせた相手には初めて出会った。しかもその相手は騎士候補生にもなっていない受験生ときている。
これを手合わせせずにいろと言う方が無理だ!
しかし、このまま隠れんぼを続けられてはいささか退屈だ、少し突いてやることにしよう。
「見事な隠匿魔法だ。あれだけの戦闘能力を有していながら、さらにこんなからめ手にも長けているとは、一体誰に習った!」
少し待つ。返事はおろかなんの気配も見せない。
ザブザブと足元で温泉の湯が音を立てる。この中を捜索するには湯船の中を移動する他ない。動きを悪くする作戦だろうか? もしこの程度で障害になると思われているのであれば評価を改めねばならないな。
「当ててみようか、ルルーデ・アミグダリア卿だろう? 君の噂をフォレスティアで聞いた。あの地で、これほどの精霊魔法を教え込める人物はあの方しかいない」
…………!些細だが反応があった。やはり彼らにとって、ルルーデ卿は芯に近い人物のようだ。かのお方に恨みはないが、我が目的のためには致し方ない。
「いずれ周知のことになるだろう。君の実力が出身地とともに広まれば、結びつけるのは容易なこと……だが、これは良いネタを手に入れた」
心なしか、周囲がざわついているように感じる。挑発はこの線で間違いなさそうだ。
「もし、悪意を持ってその話を広めたらどうなるだろう? 自分勝手に精霊騎士を突然辞めた挙句、自分の可愛い弟子のために戻ってきた。私利私欲でみなを振り回した彼女の行いが、大衆の目にはどう映るだろうね? 少なくとも、未だに人種差別をしているような貴族やゴシップ好きの民は大喜びするだろう。その影響はルルティアの統治にも関わる大問題に………」
「クァイン! ダメだちょっと早いよ」
霧中から男の子の声が響いた瞬間。状況が動き出した。
足元に張られた湯船が急速に粘度を増した。反射的に駆け出そうとするよりも先にがっちりと足の動きを拘束された。
同時に私の周囲に発光体が出現。攻撃するでもなく漂っている。これではまるで……。
「なるほど、そういう作戦か」
ーーチ……チュン、チュン!
とりあえず発光体がある方向から飛来した弾丸を熱剣で弾く。
こいつ……徹底している。
恐らくヘアシュテンブルク出身の受験生による狙撃、使用したのは狙撃銃だろう。霊感で射撃を感知される圧縮霊素弾は使わず、あえて弾丸を使ったのは隠密性のために違いない。
圧縮霊素弾よりも弾道計算が複雑な実弾を使用しながらも初撃から命中打。良い腕だ、彼も覚えておくことにしよう。
「しぃ………ふっ!!」
「ああ、そうだ。もちろん君とも戦ってみたかったとも。また合間見えて嬉しいよ」
振り上げられた剣筋を受け止めて視線を交わす。殺気をはらんだ鋭い一閃だった。相手は思った通りの人物。クァインとかいうハーフエルフの少女だ。
というかこの子らは、これが試験だということを忘れてはいないだろうか。さっきから本気で殺しにきている気がするぞ? ………まあ、望むところなのだが!
「………さあ、一時試験の続きを始めようか」
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




