3−12 ともだち
よろしくお願いします。
「…………」
無言のまま、照準器にあてた瞳に意識を集中させるフリードリッヒ。
その視界の先は、もくもくとした濃い湯気に包まれた、女湯の露天風呂がある場所を捉え続けていた。
ノルの作戦により意図的に生み出された湯気は、視覚的にも精霊魔法での探知も無効にする細工が施されている。
フリードリッヒは冷静を装ってはいても、内心では動揺を抑えていた。
彼がこのポイントに寝そべり、精霊魔法具を構えることになった経緯を思い出す。
それは試験開始前に宿泊棟で行われた作戦会議のことだった。
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「うーん、相手の力量は分からないけど、一カ所に集まったまま迎撃するのは良くないと思う」
「それは、どうしてそう思うんだい? 数の利を捨てることになるよ」
フューエンが問う。その声色にはなんの含みもない、純粋に意見を掘り下げるための返しだった。
「この狭さじゃ、数に利なんてないよ。それに僕たちは今日初めて出会った即席のチーム。まず何とかして施設の中に散る。そして小隊を組んで、それぞれ得意なやり方を活かして各個に迎撃した方が良い結果が見込めるんじゃないかな」
(そうは言っても、おれの得意武器だと満足に役立てないだろうなぁ)
フリードリッヒは密かに落胆していた。
ここで出会った受験生仲間はとても仲良く接してくれている。秘密だらけの自分が醜く見えてしまうほどに。
ノルのアイデアを起点にして、相性の良いもの同士が思い思いに作戦を話し合い始めた頃。
壁に寄りかかって、一歩引いたところから様子を見ていたフリードリッヒにノル(とクァイン)が近寄ってきたのだった。
ハブりを見逃さない委員長的なムーブかなと、やや斜に構えていたフリードリッヒだったが、ノルの口から発せられた提案は、彼の度肝を抜くには十分すぎる内容だった。
開口一番。
ノルはフリードリッヒにこう提案した。
「ねえリード、君は狙撃手だよね? 僕の作戦には君の精霊魔法に頼らない狙撃の腕が必要なんだ。まず女湯の露天風呂を湯気で覆い隠してね、僕が圧縮霊素を作って標的の……」
「ち、ちちちょっと、待って。いつおれが狙撃……それも、目視照準って……」
秘密の一つをあっさりと解き明かしていた無腕の少年を、フリードリッヒは密かに警戒しそうになった。
しかし、この少年にはもしかしたら隠し事なんてしなくていいのかもしれない。
そんな希望も密かに感じてしまったのだった。
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「目が良くて、地形に敏感………たったそれだけでこうも見抜かれちゃ、たまんないな」
ボソッと漏れた本音。その口元はやや上向きだった。
ノルから聞いた作戦はこうだ。
上手く散開できたら、フリードリッヒは速やかに地点Bで狙撃姿勢に入って待機。
露天風呂を陣取り、精霊魔法で膨大な量の湯気を発生させてノルとクァインが隠れて標的の到着を待つ。
もし湯気の中へ誘き寄せることに成功したら、照準となる圧縮霊素の発光体を標的の近くで浮遊させる。
それを目掛けて狙撃して欲しい。という内容だった。
「もしダメでも後方支援をして欲しい、か」
抜け目がないな、とフリードリッヒは思った。
友達のためにライフルを構えるのは初めてかもしれない。今までは友達なんて呼べる相手はいなかったから。
こんなにドキドキする任務は久しぶりだ。
フリードリッヒは高鳴る鼓動を抑えるのに少々の時間を要した。
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




