3−10 千載一遇
よろしくお願いします。
「これは誘われている....のだろうな。面白い」
熱探知の結果を見て、私はそう判断した。
私は熱の精霊をこの身に宿した精霊憑き、精霊魔法学上では『精人』と呼ばれる存在である。
熱系の精霊魔法に特化した私は、一定範囲内にある物体の熱量を知ることができる。
まだ残り6人が散らばっているはずの宿泊施設内には、人らしき熱源反応が2人分しか検知できない。
精密さにはそこまで自信はないが、偶然で4人も見落とすほど落ちぶれてはいない。
間違いなく私の索敵能力を把握して対処をしている、ということだ。
「反応がある場所は屋内鍛錬場、1人は温度が異常に高い。こちらは炎使いの百薔薇だな....ふふ、挑発でもしているつもりだろう。残りは、まあ隠れるにしても方法は限られている、恐らく......」
相手が潜んでいるであろう場所を、とりあえず鍛錬場へ移動しながら考察していると精霊通信が入った。
『アレクサンドラ候補生くん....』
やや呆れ気味な試験監督官の声。
何を言いたいかはこの時点で察しがついた。しかし私は気づいていないふりをする。
「はい、なんでありましょう」
『貴様、まだ続けるつもりか?』
「はっ、必要なことかと。いまだ、彼とは接敵しておりません」
『そう....だがな。いくら精霊騎士団所有の宿泊施設だからと言って、好き勝手に壊したりして良いわけじゃないんだぞ?』
「承知しています」
『分かっているならいい。現状復帰を含む撤収の時間だってあるんだ、ほどほどにするんだぞ』
「.....了解」
私は内心で焦り始めた。
騎士の端くれである以上、私は今やハリソン監督官の指揮下にあり、命令された時点でこの任務は終わる。
時間は、あまり残されていないようだ。
私はもう一度.....今度は直接。彼と戦ってみたい。
戦いたくてたまらない。
一次試験でゴーレム越しに感じた強大な霊力。それに驕らず磨き上げられた戦闘能力。
震えた。
思い出すだけで自然と体温が上がってくるほどに、私は彼との戦いを渇望している。
ああ、早く....早く彼と交わりたい。魔導具越しでは満足できない、君の力と私の力を交わらせて.....直接感じさせてくれ!
....誰にも、邪魔されてなるものか。
* * * * * * * * * *
フューエン・ファベックはメラメラと燃えていた。
「あつっ....フューエンさん? 意気込みは分かりましたから、もう少し炎を抑えて頂けますでしょうか」
物理的に、メラメラと燃えていた。
並び立って待機しているルディの苦情にフューエンは苦言で応じる。
「鍛錬場は広いんだ、もっと離れれば良いだろう」
「嫌ですわよ、無駄に距離をとっていて、いきなり襲ってこられたらどうするんですの? あたくしのバトルスタイルはミドルレンジ、援護専門ですのよ」
ルディはそう言いながら二丁拳銃をチラつかせる。
「だったらノルの方に行けば良いじゃないか。こちらは俺1人でも良かった.....というか、1人のつもりだったんだがな」
「あちらも暑そうで嫌ですわぁ」
「......だったら、ちょっとは我慢して、黙っていてくれないかな」
フューエンはこめかみをヒクつかせながらも、なんとか苛立ちを抑え込む。
ルディが女じゃ無ければ....と、フューエンは何度も思った。
「こちらがこんなにも熱いとは思わなかったんですもの....ずいぶんと燃えていますわねフューエンさんは。相手を誘き出すためとは言え、これほどの霊力を浪費するなんて非効率ですわよ」
「......抑えられるかよ」
「え? 何か言いまして?」
「これは千載一遇のチャンスなんだ。三色姫の実力なら、正規騎士になってしまえば、あっという間に手が届かない存在になるだろう。俺の炎がクイーンの灼熱にどこまで通用するのか、試せるチャンスなんて今後あるか分からない、試してみたくてウズウズするぜ」
興奮して潤んだ瞳に、纏った炎が映り込む。まるで汚れがない少年のような眼差しをしたフューエンの横顔を、ルディは冷ややかに見つめた。まっすぐ前、フューエンは憧れの強敵と戦っている自分の姿しか見えておらず、その視線には気付けない。
「まるで、子供のようですわね」
このルディの呟きは皮肉でも、否定でも、ましてや肯定でもない、ただの感想だった。自分のおもちゃと友達のおもちゃを比べたがる子供のような姿だ、と彼女は思った。
「それに俺は、正直言ってノルの戦い方は好かない。作戦を練って逃げ回ったり、罠を仕掛けて待ち構えるなんて、騎士らしくない」
「だから真っ向勝負を? 確かに、お伽話に出てくるナイト様のようで格好よろしいですが、あまり効率が良いとは言えませんわ」
ちらりと顔半分をルディに向けるフューエン。流儀を否定されて怒ったか? とルディは一瞬考えたが、その表情は大人びた、穏やかな淡い笑みだった。
「知ってるよ。だから俺1人でここへ来るつもりだったんだ」
「....ほんと、非効率ですわね」
「でも良かったのかい」
「何がですの?」
「フリードリッヒ。あっちに加わらせて......ツレなんだろう?」
フューエンは2人一緒に行動していなくて良いのか、と聞いているのだ。ルディとフリードリッヒの関係は、薄々察しがついている。風呂の時は不可抗力にしても、試験とはいえ戦闘行動中に離れる判断をしたことには少し驚いていた。
「リード」
「え?」
「入浴から戻ったら、ノル様がそう呼んでおりましたの。彼、人にはあまり心を開くタイプではございませんのに.....ここでくらい、リードがやりたいようにやらせてあげたいんですのよ」
重たい話はごめんだと伝えるように、フューエンは肩をすくめてみせた。
「このチームの奴らは、どいつもこいつもワケありみたいだな....ま、お前らが一体何者なのかは、今は気にしないでおいてやるよ」
「それはどう......」
「私は気になるな」
ずっと入り口を見張っていた。霊力探知もしていた。
しかし。
誰もいないはずの背後から女の声がした。
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




