3−8 一騎打ち
よろしくお願いします。
「まさか、早々にあんたとヤレるとは思わなかったよ」
組みついた状態のままレイチェルはそうつぶやいた。
「なんだ。私を知っているのか」
「精霊騎士を目指す者で、ハミルトン家を知らない奴はいないだろう....それに、あんたは特別だ」
「すまないがそんな事に私は興味がない。そろそろどいて貰おうか、赤いの」
「ぐっ!」
アレクサンドラはレイチェルの拘束をあっさりと解いた。まるで、わざと捉えられてやったと言わんばかりだ。
そしてレイチェルに向かって構えようともせず、アレクサンドラはノルたちを追おうとした。
「待てっ!」
「なんだ」
敵としてすら認識されていない。レイチェルはその態度が頭にきた。
呼び止める声は荒っぽくなってしまった。
「オレと勝負しろ!!」
「何分だ」
「なに?」
返ってきた質問の意図が読み取れない。咄嗟に聞き返すレイチェル。
「お前は何分稼ぐつもりで作戦がたてられた」
「....5分」
「3分だ、3分稼がせてやる。こい」
そう言って、アレクサンドラは無防備な棒立ち状態となった。
理解ができない。レイチェルは混乱した。
「私のコーティングを破れたら追加で2分、相手してやる。もう30秒過ぎたぞ、いいから早く来い」
「....そういうことかよ、舐めやがって。うらぁあああっ!!」
ようやくアレクサンドラの意図を理解したレイチェルは、即座に拳と足に霊力を集中させた。独学で身につけた喧嘩格闘術を駆使し、己の全てを賭けた攻撃を開始した。
「らあ! うらぁ、ハァァぁ、せぁっ!!」
だがどれだけの猛攻を加えようとアレクサンドラはビクともしない。
「......コーティングとは圧縮した霊素で薄く体表を覆う防御魔法。精霊魔法戦闘の基礎中の基礎だ」
棒立ち状態で暇なのか、煽っているのか、アレクサンドラは無感情に相手を眺めながら精霊魔法の基礎知識を語る。
「精霊魔法の優劣は霊素密度で決まる。私のコーティングを一層すら破れない相手など、手合わせするに足りない。意気込みは買うが出直してくるんだな」
昂るは気持ちばかり。まるで鋼鉄の壁を攻撃しているかのように通用しない。
(こんな....こんなにも遠いのかよ!)
レイチェルは愕然とした。驕っていたつもりはなかった。しかし、戦うための土俵にすら上がれないほど差があるとは思っていなかったのだ。奮戦虚しく、結局そのまま何もさせてもらえないまま3分が経過した。
この濃密な3分に全てを出し切り、絶え絶えになった息の中に愚痴が混ざる。
「こんなん....破れ......っは、受験生にゃ....無理、っだろぉ........」
「どうかな。あのノルって奴は3層とも破れる」
「......本当か?」
「それを確かめに行くんだ、これから....なっ!」
ーーヒュ....
反撃、があったかどうかもレイチェルには分からなかった。身構えよう判断した時にはもう地に伏せてしまっていた。それがどんな攻撃だったのか、見極めることができなかった。
相手が棒立ちでも何もできず、いざ攻撃されればあっさりと倒される。実力の差をまざまざと見せつけられる形となった。
「がっかりしたかい?」
それが自分に対して言われたことなら、答えはこうだ。レイチェルは薄れゆく意識の中、最後の気力を振り絞って口を動かした。
「いや、良かったよ.......」
ここには自分よりも強い奴らがウヨウヨいる。
ならば自分はもっと強くなれる。
「でもまあ、3分間全力で向かってきたのは評価してやろう。いいガッツだった、赤いの」
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




