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精霊界のノル・クァイン〜無腕無敵の最強騎士伝説〜  作者: 凡風
〜精霊騎士養成大学校 入学試験二次試験編〜
26/51

3−7 オペレーション・ナイトメア

よろしくお願いします。

 消灯時間が過ぎた宿泊施設。

 館内通路。常夜灯の薄明かりに映し出された影が複数、通路を音もなく、そして素早い身のこなしで移動していく。


 受験生に対しては、二次試験は翌日に行われると通達されている。

 時計の針はテッペンを超えた。

 その翌日がすでに訪れていることを知る受験生は、果たしてどれほどいるのだろうか。物静かに佇んでいるそれぞれの宿泊棟を見ても、計り知ることはできない。


 つまり反撃があるかどうかは潜入してみないと分からない、ということである。

 二次試験の潜入任務を担当する騎士候補生(アンダーナイト)たちは、実戦さながらの緊張感に包まれていた。


 アンダーナイトたちに課せられた任務は、宿泊棟の3階に用意してある弁当箱くらいの大きさをした木箱を、受験生に気づかれないように奪取してくる、という内容だった。

 その箱には【次の試験で使用するため、無くさないようにすること。もし無くした場合は不合格となる】と記載されている。

 察しがいい者は、厳重に保管するなどの対策を講じているだろう。しかし危機感が無い者は「絶対に無くすなよ」という警告程度にしか受け取れず、明日の試験に備えてすやすやと無警戒のまま眠りについただろう。


 受験生の警戒心とアンダーナイトたちの隠密スキル。この勝負こそが二次試験の内容であり、アンダーナイトの訓練でもあるのだ。


「私は最後に突入させてもらえないでしょうか....胸騒ぎがします。私の方はきっと、一筋縄ではいかないかと」


 ノルたちの担当となったのは、自ら志願したアレクサンドラ。なぜか突入直前になって、自己の判断で潜入を遅らせると言い出した。


『どうした? もし他で何かあっても、各宿泊棟には遮音、振動断絶の魔法がかけらている。もし外で騒ぎが起こっても、感知できないはずだぞ』


「いえ、集中したいので」


『......分かった。好きにしろ』


 本来2人ひと組で行われる潜入だが、ハンデとしてアレクサンドラは単騎で行う。それでも、ポテンシャルが極めて高く、どんな任務でもそつなく完璧にこなすアレクサンドラの担当が、1番難易度が高いというのがハリソンの認識だった。


 ノルたちが泊まっている宿泊棟へ伸びている渡り廊下の入り口で、アレクサンドラは瞳を閉じて精神統一を始めた。

 それから30分、いや1時間は過ぎただろうか。


『終わったぞ』


 ハリソンから、他の宿泊棟で行われた二次試験が終わったことが告げられた。

 それからゆっくりと瞳を開く。燃えたぎるような真紅の瞳が月明かりを受けて揺らぐ、まるで火が灯ったかのように。


 低姿勢を維持したまま慎重に渡り廊下を進むアレクサンドラ。

 霊力操作も忘れず行い自身の存在を周囲に溶け込ませてゆく。

 これで、もし宿泊棟内で誰かが起きていたとしても、霊力探知によっての発見を間逃れる。もっとも、安眠のためという名目で宿泊棟を囲っている強力な精霊魔法の影響があり、普通にしていても接近を感知することは困難なのだが。


 これがアレクサンドラの特筆すべき性格だ。彼女は圧倒的な才覚に基づく実力を有しており、他の者よりも秀でていることが明白なのにも関わらず、一切の慢心が無いのである。


 探知不能なステルス状態となったアレクサンドラは、尚も慎重に進み、宿泊棟の扉にゆっくりと手をかけた。

 中の様子を探るように、耳をそばだて、ゆで卵を掴むような優しい手つきでドアノブを回そうとする。


「......っっ!!?」


 ーーバッ!!


 何を察知したのか。自分が自分の行動に理解が追いつかないまま、アレクサンドラは飛び退いて、扉から距離を取った。


 直後。


 ーーババ....ババババ! バババババババ!!


 圧縮霊素弾の弾幕が扉を貫通してアレクサンドラを襲う。しかしアレクサンドラは脅威的な反射と身体能力でかわしきった。かすりもしていない。


 ーーババッ..ババッ..ババババッッ!


 今度は狙いを定めて放たれたような断続的な射撃。弾速も違う、先ほどよりも速い。


「これは射撃魔法具(ガン)....ヘアシュテンブルクの子か」


 常人には目で追うのも不可能な弾速で襲いかかってくる圧縮霊素弾を凌ぎながら、アレクサンドラは動じず、これがどのような攻撃かを見極める。

 ガンなら弾切れがあるはずだ。即座に次の一手を導き出す。


 突然、弾幕がやんだ。

 弾切れだろうか。いや、違う。これは....。


「うらあああぁぁぁ!!」


 身構えたアレクサンドラに向かって、穴だらけになった扉を勢いよく突き破ったレイチェルが飛び出してきた。


「ははっ! そうきたかっ!! ....ぐっ」


 水属性精霊魔法で限界まで身体強化したレイチェルの突撃は容易には耐えられない。アレクサンドラはタックルの勢いそのままに渡り廊下から弾き出されてしまった。


 フロアまで押し出されたアレクサンドラは、視界の隅で、間髪入れずに渡り廊下から駆け出してきた複数の人影を目撃する。しかしレイチェルにガッチリとホールドされており、そちらには即座に対処することができない。


 ここまでが全て作戦の内であると彼女は理解した。ならばとアレクサンドラは抵抗をやめて相手の作戦に身を委ねた。


 (見せてくれ。()()()どんな手で私と戦うのかを!) 


 アレクサンドラには不思議と確信があった。この作戦を考えた人物はきっとあの男であると。

 可愛い顔をして、常人離れした戦闘能力を垣間見せた、あの腕の無い少年。


 宿泊棟から飛び出してきた人影は残り全員。そしてノルを除く全員ともが小脇にターゲットの木箱を抱えていた。アレクサンドラはそれを見て相手の作戦を見抜く。


 思わず笑みが溢れた。


「複製した木箱(ターゲット)を持って、施設内に散らばったのか。はっはははは! これは....厄介だっ!!」

ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

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