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精霊界のノル・クァイン〜無腕無敵の最強騎士伝説〜  作者: 凡風
〜精霊騎士養成大学校 入学試験二次試験編〜
25/51

3−6 悪い夢

よろしくお願いします。

「生きる意味が無かった私にノルが言ったの、捨てるくらいなら頂戴って。生まれてから初めて、ノルが....ノルだけが私を必要としてくれた。ボロボロで、醜い私を、なんの躊躇いもなく受け入れてくれた....だから私は、ノルのために生きている」


 クァインとノルの過去を聞いた3人は胸がいっぱいになった。


「クァイン様、ノル様とそんなことが....それはそれは、信頼し合っているわけでございますね」


「ぞ、ぞんなの、いい話すぎますわっ! ごれから誰が何と言おうとも、あたくしは、あなた方の味方ですからね....ずずっ!」


 少し気軽に踏み込みすぎてしまったかもしれない。そうも思ったのだが、クァインがケロっとした様子で淡々と語るものだから、その辺は特に気にしていないようである。でも聞いてしまったからには、2人の関係は支持しようと思った3人だった。


 エレーナも同様に感じていたのだが、彼女は一つ気になることがあった。


「ねえ、クーちゃん....あなたは、ノルくんと......っ!!? ハァッ!!」


 ーーキュルル、シャ!!


 話しの途中にもお構いなし、エレーナは反射的に精霊魔法で温泉を圧縮すると山の方へ向かって放った。


「いったいどうしましたの急に!」


「分からない、でもなんか視線を感じて....」


 エレーナが気にしている方を見ても何も見当たらない。


「何も見当たりません....が、確かに気配はする気が致しますわね」


「..........」


「......?」


「マリアンヌさん? お顔が赤いようですが、どうか致しましたか....ご気分が優れませんか?」


「え、あ、あはは。す、少しのぼせてしまったかも、しれないでございます。そろそろ上がりませんか? 消灯時間も気になることでございますし」


「それもそうね、賛成。クーちゃん、お話聞かせてくれてありがとね....でも、後で、ちょっと聞きたいこと、あるかも....」


 全員がゾロゾロと露天風呂から引き上げていく。


「......(ふりふり)」


 最後にクァインが、闇の中へ向かって密かに手を振ったことには誰も気が付かなかった。


 * * * * * *


「いや危なかったね、さっきの。もう少し反応が遅れていたら気づかれてしまったかも」


「ね、ねえ。君の相方さん、こっちに気がついているように....見えるんだけど」


「彼女は、特殊な訓練を受けているから....」


 トラップを潜り抜けてポイントに到着していたノルとフリードリッヒ。

 距離は離れているが、その場所からは女湯の露天風呂を見ることができた。それも、向こうからは気付かれにくい絶妙な立地である。

 咄嗟に隠れたこともあって、2人ともろくに見れてはいないが。


「ここを見つけた彼....ヤンって言ったっけ。この地図読み、侮れないよ」


 平面だけでこのポイントを暴き、ルートも選定していたリーダーに関心を寄せるフリードリッヒ。ノルはそんな彼の慧眼に興味をもった。


「君も、只者じゃないと思うよフリードリッヒくん。()()()()()使()()()()()()のに、ここからクァインの動きが見えるなんて、すごく目がいい。それに、トラップを掻い潜る探索スキルも見事だったよ。君は....君たちは、何者かな?」


「....参ったね、油断した。できれば突っ込まれたくはない所だけど、先にノルの過去を聞いてしまったからには、おれも少しは話さないとイーブンじゃない、かな。でも、よくおれが魔法を使っていないって気づいたね」


「霊感がいいんだ僕、こんなだし」


 フリードリッヒはそれで察しがついた。

 他の人には秘密にしてくれよ? という前置きをしてから事情を話す。


「お嬢様、実はかなり身分が高い方なんだ。お忍びで受験されていてね。おれはその護衛....エージェントってわけ、まあ、言ってしまえばただそれだよ。ごめん」


 それ以上は本当にシークレット、ということだろう。


「なるほど、それを1人で任されるなんてかなりの腕ききなんだろう....そんな、腕ききのフリードリヒくんに聞きたいんだけどさ、もう気づいているかな?」


「リードでいいよ、長いだろうおれの名前....まあ、気付きたくは無かったけどね」


 ノルたちは少し前から、闇の中から放たれている気配が気になっていた。


「あー、来るね、これは。リードくん、悪いんだけど()()してくれないかな。標的は僕かもしれない、それを....」


「確かめたいんだろう?」


「うん、後は任せて」


「そうさせてもらうよ。おれは失格にさえならなければ、あとはなんでもいい。ここへ来た目的も、もう達したしね」


 そう言いながら、リードは手頃な距離にあった地面設置型の精霊魔法トラップを踏み締めた。


「すけべ」


「だから、違うってえええええぇぇぇぇぇ.......」


 ボヨヨ〜ン! と地面からチープなバネ付きトラップが出現。そのアホっぽい見た目とは裏腹な加速度でリードは夜空へ消えていった。飛んでいった方角はヤンと一緒だった。


「さて....アイシャさん、でしたっけ。このトラップたちはあなたの趣味ですか?」


 闇の中へと話しかけてみるノル。するとすぐに返事があった。


「「「いいえ。監督官の趣味です」」」


 返事はあった。しかし、位置を探られないためか精霊魔法で複雑に反響させた声だった。まるで何人もの人が隠れているかのように聞こえてきた。


 その精霊魔法を見て、思わず興奮したノルは相手の分析結果を饒舌に語り出した。


「間違った行いを正さずにはいられない、真面目な性格の人なんですねアイシャさんは。この声を反響させる精霊魔法は、もしかして波の精霊魔法ですか? 面白いなぁ、これ。四属性以外の精霊魔法を扱える人には中々出会えないから興味深い。もしかして、同じ波系の光と、風系の空気操作魔法も併用して存在を隠匿していますか? さすが、お若いのに試験監督補佐官を務めるだけは......」


「そこまでだ....ってか、喋りすぎだガキ」


 ーーひたり


 殺気を放ったアイシャがいつの間にか背後をとって、ノルの首筋にナイフを突き立てた。


「いやぁ、テレちゃうなあ。泥人形といは言え、アイシャさんみたいな美人さんに、僕なんかが抱きしめられているように見えるよ」


「なっ!?」


 アイシャは組みついたまま驚愕した。ノルだと思って襲った人影は土で成形された人形、本人は自分の後ろをテクテク歩いている。

 騙された挙句、あっさりと背後を取られたことが、アイシャは信じられなかった。


「くっ!!」


 ーーひゅん....ひゅひゅん...


 身の毛のよだつ得体がしれない人物を相にしている。自身が培った戦闘経験から、反射的にその存在を排除するように動いてしまった。反射的に殺傷が高い攻撃魔法で応戦したアイシャ。


 しかし、手応えが全くない。


「今のは高度な風系攻撃精霊魔法の『真空波(かまいたち)』だよね。音がなくて殺傷能力が高い....一般人には使用が禁止されている危険な精霊魔法。アイシャさんは、精霊騎士の中でも()()()()のが得意な所にいたの?」


 はっきりと見えているはずなのに捉えられない。まるで亡霊と戦っているかのようだ。

 アイシャの背筋を冷たいものがツーっと降りていく。


(私はとんでもない相手に手を出してしまったのかもしれない)


 どうしても浮かんできてしまう後悔の念を思考の隅に追いやる。今は目の前の相手だけに集中しなければ。そして、この気味の悪い受験生の情報を少しでも持ち帰るのだ。その使命感で無理やり自分を奮い立たせた。


「一体君は....」


「何者か、なんて。そんなつまらない話はしたくないかな僕は」


「くっ」


 完全にイニシアチブを奪われている。おかしい。自分が奇襲を仕掛けたはずなのに。アイシャは混乱した状態から立ち直れずにいる。


「アイシャさんにね、お願いがあるんだ。聞いてくれたら、一つだけ質問に答えてあげる。答えられる範囲でだけど。どうかな?」


 ノルはあどけない笑顔でアイシャの周りをくるくると歩きまわっている。

 この年端もいかない少年に翻弄され、アイシャのプライドはズタズタだ。訓練された精神力でも、感情を表に出さないようにするのが精一杯だった。


 受験生の覗きを叱る。そんなくだらないことのために、命のやり取りをするつもりは毛頭ない。アイシャはとりあえず状況を放置して、相手へ委ねることに決めた。


「言ってみろ」


覗き(今夜)のこと、不問にしてくれないかな? 少なくとも、これで不合格っていうことにはしないで欲しいなって」


 純真無垢な瞳でアイシャの顔を覗き込むノル。小首をかしげる仕草に愛嬌がある分、恐ろしく感じた。

 自分を隠密....暗殺のエキスパートと察してなお、こんな態度が取れることが信じられない。

 この答えには選択肢など存在しない。


「分かった。元よりそのつもりだ」


「ありがとう、アイシャさん。じゃあ僕に聞きたいことはある? 質問をどうぞ」


「君は、何者だ」


「僕? 僕は....ルルーデ・アミグダリアの弟子だよ」


「それはほんっ....とう、か......」


 ノルの気配はもう近くに無かった。

 アイシャは慌てて闇の中へ向かって叫んだ。


「頼む。それが本当なら、私と手合わせを! 君のことは誰にも話さない、だから!」


 ーーごめんね、今は無理かな....なぜなら僕には、合わせる手が無いもので


 そして気配が完全に消えた。


「......手も足も出なかった、この私が、受験生相手に....こんなこと、聞かれたって、言えるものか」


 張り詰めていた緊張が解け、その場にべったりと腰を落とすアイシャ。


「悪い夢でも見ていたようだ」


 見上げた月に放った一言は、闇の中へと吸い込まれていったのだった。


 * * * * * * * * * *


「さて、集まったな諸君」


 一次試験の時と同じく、試験担当に任命した騎士候補生(アンダーナイト)たちを集めたハリソンは、薄暗い部屋で二次試験の打ち合わせ(ミーティング)を始めた。


「二次試験は今宵、日付を跨いでから始まる。この隠密作戦に対処できるかどうか、というものだ。初めての場所で、警戒もせず呑気に寝ているような奴は候補生にはいらん。夢を見ているうちに、試験()が終わる。名付けて『悪夢の(オペレーション)作戦(・ナイトメア)』....さあ、打ち合わせを始めよう」


「....なんか、楽しそうっすね、教導」

ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

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