3−5 2人の関係は
よろしくお願いします。
「君たち....」
「おい、どこ行くんだお前ら」
ただいまオペレーション・エンジェル進行中。僕たちの冒険は最初からクライマックス。なんと、施設を出る直前にハリソン監督官とアイシャ教官に見つかって声をかけられてしまった!
さあヤンはどう対処する?
「はっ。自分たちが寝泊まりする場所の地形を把握するため、哨戒へ出ようかというところであります。実際の精霊騎士ならば、初めて訪れた土地で無警戒に眠りにつくことは無いかと思いまして」
いけしゃあしゃあ。よくもまあ、そんな話が咄嗟にするすると出てくるものだ。
僕は感心してしまった。
「なるほど、確かに。皆が休息をとっている時間に良い心がけだが、消灯時間は守れよ」
「はっ!」
....と、難なく通過してしまった訳だけれど。
僕たちが去った後で。
「ハリソン監督官....放っておいていいんですか? アレ」
「いいんじゃない? 若者はあれくらいが丁度いい....俺は好きだよ、ああいう奴ら。でもま、一応見てやってくれる?」
「了解」
「もし、おイタが過ぎるようなら。試験に影響がない程度の実力行使は許可する」
「了解!」
という会話がなされていたのには、気づいていなかった。
* * * * * * *
「それでね、クーちゃん.....」
「あら。あたくしが髪を洗っている間に、いったい何がございましたの? そんな親しげに呼んでらして」
クァインとエレーナはこの短い間に、ずいぶん親しげに話すようになっていた。
そのことを指摘しながらルディは湯船で再び合流した。
「だって可愛いんだもん、クーちゃん。最初は澄ました美人で、やな感じって思ってたけど、話してみるとね無垢なの! も、びっくりするくらい世間知らず。こんな子放っておけないわよ」
「そうなんですの? あたくしも興味がございますわね。ご一緒しても?」
「どうぞどうぞ」
では失礼して、と断りながらルディが湯船に腰を落とした。
思わず艶っぽい息が漏れた。
「はぁ〜、気持ちいい......それで? クーとノル様のご関係は?」
ルディもちゃっかりと呼び方を変えている。
「そうそう、関係は?」
「だから何度も言ってる。私はノルの腕。それ以上でも、それ以下でもない」
「それは2人を見て、お話を伺っていれば分かりますわ。どうして、そのようなご関係になったのかも聞きたいところですわね」
「そうそう。何もいきなり、今日からこの子の面倒を見てくださいって誰かに頼まれた訳じゃないんでしょ?」
「違う。私は、私の意思でノルに全てを捧げた」
「全て! 今、全てっておっしゃいましたわ」
「きゃー、え、え、じゃ、じゃあ。その、ノルくんと、そういう事も?」
「そういう?」
ピンときていないクァイン。エレーナは彼女の耳元に手を添えて小声で伝えた。
「だから、夜にノルくんの......を、.........して、それから.........、......とか............なんかしちゃったり」
するとクァインはみるみるうちに顔が真っ赤になっていき、しまいには沈み込んで動かなくなってしまった。
「この様子だと、何もしていないみたいね」
「これだけの上玉に付きっきりで世話をしてもらって手を出さないなんて」
「ノルに手は無い」
「精神的な意味で、ですわ! ノル様はよっぽどの紳士か、はたまた興味がないか、ですわね」
「今までにそう言う話、一度もしたこと無いわけ? どう思ってるのって」
「ノルは.....」
* * * * * * *
「クァインは昔....初めて出会った頃に、僕の体になるって約束してくれた。その約束が僕たちの関係の全てと言っていいんじゃないかな。家族でも、異性でもない....そうだな、半身って言うのがしっくりとくるよ」
オペレーション中の男子グループは道すがらの会話で、偶然にも入浴中のガールズトークと同じ話題になっていた。
「いや、だからってなぁ。そんなの.....そもそも、一体どんな経緯でそうなった」
「気になる?」
「そりゃなるだろう、お前たちの関係は失礼を承知で言わせてもらえば、ちょっと異質だぞ」
「あはは、うん、知ってる」
後ろからついて来ているフューとノルの会話を、前を行く2人は速度を緩めて聞き耳を立てている。
一行は暗がりの山道を慎重に進んでいるところだ。
「僕たちの故郷、ルルティア近郊で昔起きた霊源消失大規模災害は知っている?」
「それは知らない方がおかしい、100年来の開国が起こるきっかけになった災害だぜ。当時はかなり騒がれたしな」
「詳しいことは、まあ色々省くけど、クァインはねその災害が起きた時に故郷の街で生贄にされそうになったんだ」
「生贄? おいおい冗談だろう。そんなことを本気で!?」
「クァインが生まれ育ったフォレスティアって街は、生贄なんていう文化が残った前時代的な街だった。ルルティア近郊にあって、その災害で壊滅的な被害を被る直前だったんだ。必死だった....んだろうね」
「信じられねぇ....それで、どうなったんだ」
「精霊騎士団だったルルーデさんがカントリーピラーを出現させたことで、クァインの生贄は間一髪のところで中断された」
「良かったじゃないか」
「うん、でもね。クァインはその時、生き残ることより、生贄にされて死ぬことを望んでいたんだよ」
「なんで!」
「彼女がハーフエルフだから。言ったでしょ、フォレスティアは前時代的な街だって」
「迫害......か」
「うん。出会った頃のクァインは本当に酷い姿だった。男の子か女の子かも分からないくらい汚れてヤツれていて、ボロボロの服を着ていた。死にたいって、本気で望んでいたようだったよ....そんな目をしていた」
「........」
「だから僕はクァインに『腕の代わりとして生きて欲しい』って言ったんだ。あの時彼女を救うにはそうするしかなかったと思う。まあ、実を言うとね、その時はあんまり深く考えていなくて、他に生きる希望が見つかれば自然と離れていくだろうって勝手に思っていたんだ....けど」
「....今に至る、って訳か」
「ノルくんはクァインさんが恋人だったら、とか考えたことはないんですか?」
最前を歩いているヤンが、歩みを止めないまま顔だけ振り向いて聞いた。
ノルたちの会話が気になりすぎて、参加せずにはいられなくなったのだろう。
「.......クァインはね、僕が言ったことならなんでもしてくれるんだ。だからきっと恋人になって、って言ったらなってくれると思う。でも昔の約束に縛られたこんな一方的な関係のままで、本当に『恋人』って呼べるのかな?」
「それで『恋人から1番遠い関係』......か。難しいな、お前ら」
フューエンは、初めて会った試験会場でノルが口にした言葉を思い出し、その意味をようやく飲み込んだ。しかしノルたちの複雑な関係に同情し、感傷に浸るのも束の間。
ノルは進行方向の異変にいち早く気がついた。
「あ、ヤンくん止まった方がいい」
「え?」
咄嗟に警告するも時すでに遅し。
仕掛けられていたトラップはもう作動してしまっていた。
「あ、ごめん。手遅れ」
「おい、ヤン!前、前!!」
「....え? ぎにゃふううううぅぅぅぅぅ〜〜...........」
1番前を歩いていたヤンは、作動したトラップによって襲いかかってきた巨大なハンマーに接触した。その瞬間、断末魔を残しながら、信じられないスピードで吹き飛ばされて行ってしまった。
戦線離脱。ヤンは「いつかリベンジするからぁぁぁ!」と、飛ばされながら叫んでいた。ノルたちはたくましいと思った。
「トラップか!?」
「か、彼、大丈夫かな? もしかして、死んだんじゃ」
心配するフリードリッヒ。
トラップを一目見て解析したノルは事もなげに返す。
「それは大丈夫だと思うよ」
「え、だって、こんなに大きなハンマーで飛ばされたんじゃ」
「それ、見た目と効果は派手だけど殺傷力は無いから安心して。接触した相手を大きく吹き飛ばす精霊魔法がかけられているみたいだね。飛ばす方向も、あっちにある湖に行くようになっているんじゃない?」
「よく見ると『クーリングヘッドハンマー』って書いてあるぜ。頭冷やせってことか、完全にお仕置き用トラップだな。こりゃ」
「ポイントが近いのかもしれないよ。この先、かなり緻密にトラップが張り巡らせてあるみたい!」
進行方向にある精霊魔法の気配を察知したノルは、何故か目を輝かせている。
「おいおい、なんでそんなにワクワクしてんだよ」
「覗きには興味ないけど、この精霊魔法群は面白いよ」
まるで迷路かアスレチックを前にした子供のようだ。
フューはそんな彼に背を向けて山を降りようとする。
「フューはもう帰るの?」
「ああ、首謀者は居なくなったし....あんなんでも、一応ダチだからな。いくら自業自得でも、安否くらいは確認してやらねーと、溺れ死にでもしたら寝覚めが悪い。お前はどうする?」
「お、おれは....」
「そっちのお守り、任せてもいいか?」
「あ、う、うん! 任せてよ。お守りには慣れてる」
「サンキュー....じゃあ急がないとな」
「.....え、あ、え、ああ!? 速い、もうあんな所まで!?」
フリードリッヒが振り返ると、ノルはもうギリギリ姿が追えるくらいの距離にいた。
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




