3−3 部屋割り
よろしくお願いします。
「....何人か、この時間の意味に気づいている者もいるようだな」
「そのようですね。まあ、部屋に入るなと言って放置して、これだけ監視があれば当然でしょうが」
ノルたちの予想は的中していた。
この制限付きの自由時間は、試験の運営に監視されており二次試験でのチームを決める判断材料にされていた。
暗い部屋の中に、モニターの明かりに照らされたハリソンとアイシャの顔が浮かび上がっている。
「ま、そういうのぜーんぶ含めた『自由時間』だからね。裏をかく必要はない。部屋割りは、そのまま決めてしまって構わないよ」
「承知しました」
「さて、ここからが本番だ。受験生も試験担当者も両方集めておいてくれ、次のステップに進もうじゃないか」
* * * * * *
部屋割りが発表され、僕たちは宿泊棟に入ることができた。
同時に大浴場も解禁されて、ようやく休息の時間を過ごせる....と思ったのだけれど。
「そんなの嫌、納得できるわけないじゃない!」
部屋割りの中のさらなる部屋割りについて揉めている。
早くお風呂に行きたいんだけどなあ。けっこう埃まみれだし。
「でもでもレーナ、よく考えてご覧よ。ボクたちが一泊する宿泊棟は3階建でそれぞれに部屋がある。そして僕らは3チーム....ね?」
「ね、ってなによヤン。なんかムカつくわね、その顔やめて」
「親睦を深めるためにも、チームごとに部屋を分けた方がいいんじゃないですかって、そう提案しているんですよ」
結局僕たちは、食堂で話し合ったメンバーで組むことになった....んだと思う。
3チーム括りで分けられた宿泊棟は、ひと部屋が3人程度寝られそうな広さをしており、それが3階分ある細長い変わった造りをしている。それが揉め事の原因となっていた。
一時試験のチームごとで部屋を分ければいい、と言ったヤンと彼のチームメイトであるエレーナが意見をぶつけている所だ。
「あんたと同じ部屋で寝るなんて無理!」
「でも、フューくんとも同じ部屋ですよ?」
「えっ....///。それは......」
エレーナはフューとヤンを交互に見て戸惑っている。
「だ、だだだ、だめよ! そんの。婚姻前の男女が、同じ部屋で、なんて、ねえ?」
「ボクが無理! でフューくんが恥ずかしい....ですか。これが女ってやつですか」
反対の立場になったら、君も似たような反応をすると思うよ.....とは言わないでおいた。
「ヤンそこまでにしておけ。嫌がるレディに無理強いするのは、騎士として看過できない。幸い、他のふたチームには、男子が1人ずついる。そのどちらかとレーナ嬢がかわって貰えばいいんじゃないか? ひと部屋は混合になるか、まあ一晩くらいなら最悪4人で寝ようぜ」
そこで僕とフリードリッヒが顔を合わせた。どっちかいける? と視線で会話をした。
「ノルはだめ。私と一緒」
「....だ、そうだ。マリアンヌは僕と同じ部屋でも大丈夫?」
「少々お恥ずかしいでございますが、その、構いませんわ」
「フリードリッヒくんは?」
「う、うん。おれは入れ替わっていいよ、むしろその方がいい、かな....お嬢様、いかがでしょう?」
「ええ、構いませんことよ。今夜はレイチェルとエレーナさんと語り明かすことになりますわね! 楽しみですわぁ」
いやいや、大事な試験中なんだし寝かせてあげなよ。
エレーナの顔がサッと引き攣った。そりゃゆっくり寝たいよね、と同情しそうになったのだけれど。
「レイチェル......グレー、ス」
ああ、そっちね。
前門の虎、後門のなんとかじゃないけれど、確かに彼女の風評を聞いていたら同じ部屋で眠るのは抵抗があるかもしれない。
「......ふん」
エレーナが怯えていることにレイチェルさんも気がついている。無関心でクールに澄ましているように見えるけれど、あれはもしかしたら....。
僕は彼女の人柄を確認しておきたいと思った。
「ねえ、レイチェルさん。一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「なんだ」
「一次試験が始まる前に僕を怒鳴りに来たのって....もしかして、僕たちを純粋に心配してくれていたんじゃない?」
今もう突っかかってくる様子がないのは、僕たちに一次試験を通過するだけの実力があると分かったからじゃないだろうか。
「......」
ツーっと顔を背けるも、否定はしてこない。どうやら正解かな?
「ノル? いきなり何を。このレイチェル・グレースは有名な荒くれ者だ、そんな訳ないだろう」
「そうかな? フュー。彼女がもし、寡黙で不器用なだけの優しい人でも、なまじ腕っぷしがあるばかりに、妬みやらで変な風評が広まってもおかしくは無いんじゃない? 僕には悪い人には見えないんだけどな....僕は、見たこともない人たちの風評より、僕が見たレイチェルさんの印象を信じたいな」
胸ぐらを掴まれたのには驚いたけれど、言われたことは「戦えなさそうな奴がこんな所に来るな」「痛い思いをしたくなかったら帰れ」という内容。言い方はアレだったけど、僕たちを心配しているようにも捉えられる。
フューたちが間に入ったらやけにあっさりと引き下がったし。そこに違和感を覚えてずっと気掛かりたんだ。
「な....わた、お、オレは....オレの何が」
レイチェルさん動揺している?
「その通りですわ!」
「わ、びっくりした」
横殴りの声が僕を襲った。レイチェルさんとチームを組んでいるルディだった。何やら興奮している。
「ノル様、そのご慧眼に恐れ入りましたの。流石は両腕を失っていながらも、難なく一次試験を通過して来られただけございます。あなたのように効率がいいお方は好きですわ。あたくしもそれには同意見。彼女は性格で損をしすぎていると思いましたの、非効率ですわ! ....だからわたくしがチームを組んで差し上げた、いいえチームを組むことができた、とも言えるんですけれども」
「や、やめ。お、オレは別に....」
レイチェルさんは顔を赤くして「見るな」と言うように手で表情を隠してしまった。こういう風な話題のされ方には慣れていないのだろうか。
その姿は、なんというか.....この反応で僕たちの思いは一つとなった。
「可愛いね」
「ですわ」
「てめ....ら」
恥じらい転じて怒りとなったのかレイチェルさんは、今度は拳を握りしめてわなわなと震え始めた。
やばい、からかいすぎたかもしれない。
「あの」
そんな僕たち....レイチェルさんに申し訳なさそうに声をかけてきたエレーナ。そのおかげで、僕たちは彼女のヘイトから逃れることに成功した。
レイチェルさんは、それで元々何の話をしていたかを思い出したよう。気まずそうな表情をして顔を背け、エレーナの視線から逃げようとした。
「ごめんなさい」
そんなレイチェルさんに、エレーナが謝った。ハッとして相手の目を見るレイチェルさん。
「あなたの事、よく知ろうともしないまま....怖がってしまって」
「構わない。よくある事だ」
良かった、無事に和解したようだね。これで部屋割りの件もカタがついただろう。
「....僕たちと出会ったからには、減らしていきたいけどね。そんな誤解」
「あら? ノル様、あなたとは気が合いそうですわね」
「美人で、強くて、かっこよくて。おまけに可愛い人なんだって、みんなにも知ってもらいたいな」
「ええ、ええ。この子の可愛い所も知らずに怖がるだなんて、もったいないですものね〜」
「ね〜」
「....よし。お前らは一回だまれ」
「まずい、このままだと怒られるよルディさん。その前にとっとこうせろ〜」
「とっとこですわ〜」
その聞き覚えのあるワードで、レイチェルさんが臨界点を突破した。
「てっ.....テメェら、生きて帰さねぇからな!!!」
レイチェルさんは怒っているのか、それとも恥ずかしがっているのか真っ赤な顔で僕たちを追いかけてきた。
「....と言うわけで、あたしたちは3階で寝るから、あんた達は1階ね」
僕たちが戯れに興じている間に、なんか部屋割りが決まってしまっていた。
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




