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精霊界のノル・クァイン〜無腕無敵の最強騎士伝説〜  作者: 凡風
〜精霊騎士養成大学校 入学試験二次試験編〜
20/51

3−1 制限付きの自由時間

二次試験パートです。よろしくお願いします。


 宿泊施設に到着した僕たちは、ロビーで見覚えのある顔に出迎えられた。


「ノル! 通過していたんだな、良かった。姿が見えないから心配していたんだ。試験の関係者に聞いても、そういうの教えてくれないからさ」


「医務室に運ばれた受験生がいる、という情報は掴んでいましたからね。もしかしたらと思って待っていたんですよ」


「たしかフューエンくんとヤンくん、だったかな。2人とも僕たちを待っててくれたの? ありがとう、嬉しいよ」


「大きな怪我は....していないようだけど、大丈夫だったのかい?」


「心配してくれてありがとう。クァインが、ちょっとね。でも念の為に検査してもらっていただけだから平気だよ」


「何だって? 傷が残ったりしたら大変だ、気をつけないと。無理をしちゃいけない」


 クァインの名を出すとフューエンくんは顔色を変え、慌てて様子を確認した。


 クァインの方はその視線を気に留めた様子は無かったけれど、フューエンくんたちの後ろで待っていた、同じチームの受験生と思しきショートボブの女の子が、その拍子にパっと椅子から立ち上がりツカツカと歩み寄ってきた。


「ねえフューくん。もう用は済んだ? あたし、お腹空いちゃった」


「ああ、そうだった。無理を言ってすまない。一緒に待っていてくれてありがとうエレーナ嬢」


「ううん。い、いいのよ....それより呼び方。運命を共にするチームメイトになったから、お互いに親しく呼び合おうって言ったのはフューくんよ? さっきまでみたいにレーナって呼んで」


「ああごめん、そうだったレーナ嬢。あ、ノル。紹介するよ彼女は....いや、麗しのレディにこれ以上無理をさせられない。今はすぐに食堂へ向かおう。ノル。食事がまだだったら一緒に食べないかい? 君たちとは今のうちに話しておきたい」


「うん、もちろん。僕もいろいろ聞きたかったところだ。それに、お腹ぺこぺこ」


 彼らに今がどういう状態なのか聞きたかったところだったから、僕は喜んでその招待を受けた。


「......」


 ただ、エレーナという子の無言の圧力が少し気になった。


 僕たちはそれから、宿泊用の手荷物をロビーの担当者に預かってもらってから食堂へ向かった。


 落ち着いて見てみれば、この施設内は一定水準を超える調度が施されているようだった。身分が高い人たちの利用を想定している施設なのだろう。フューエンくんが「質素が売りの高級ホテルのような施設」という感想を漏らしていたのを後で耳にした。


 そうして一行が着いた場所は、僕から見たらレストランと呼んで良いくらいの場所だった。出される料理はもちろんのこと、フロアスタッフのサービスの質も高く、レストランの上に高級とつけても良いくらいである。


 料理が運ばれてきたところで、フューエンチームの視線が僕たちに集まった。


 盲目のマリアンヌと無腕の僕。無事に食事ができるのかと心配そうに見ていたけれど、マリアンヌは少々ぎこちないながらも、まるで見えているかのように自然に食事をとっていた。


 僕はいつも通りクァインに食べさせてもらった。

 若いカップルがいちゃついているように見えなくもない、僕たちの食事風景を初めて目撃する人の反応は大体3通り。

 気にしないように振る舞うか、眉をひそめるか、もしくは。


「......っぅ」


「ほぁぇ....」


 もじもじするか。

 (うぶ)そうなヤンとエレーナは僕たちの食事を見て赤面、ちょっと居心地を悪そうにしている。


 でも、僕はこれくらいの反応ならあえて気にしないようにしている。時には席を離れたりもするけれど、それは一時しのぎでしかない。

 彼らとは、これから長い時間を共に過ごす可能性がある。こういうのは慣れてもらうのが手っ取り早い。


 意外だったのはフューエンくんだ。騎士然としている彼は気遣かって手を差し伸べてくるか、気遣って気にしないでいてくれるかすると思っていたのだけれど。


「......へぇ」


 何かに感心した様子で、こちらを観察しているようだった。

 たまらず「どうしたの?」と訊くと。


「いや、失礼。よくこうも、言葉なく意思疎通ができると思って。すごい連携だ。君たち2人と戦うとなると....なかなか手強そうだ」


 と返ってきた。食事シーンを見て戦闘シミュレーションをするとは、僕の予想を上回る騎士(戦闘)思考だった。



「....それで。僕たちと()話しておきたい、っていうのは?」


 みんなが食事を終えた頃を見計い、僕から話を切り出した。彼はこの時間に何かを画策していて、意図して僕たちに接触してきた....という見解である。


 フューエンくんはニヤリと口元を歪めた。


「その前に、そっちも何か聞いておきたいことがあるんじゃなかった? ノルが先でいい」


「分かった。恥ずかしい話で、僕たちは医務室騒ぎのせいで試験の状況を把握できていないんだ。今がなんの時間で、他のみんなが何をしているのか教えて欲しい。できれば、この施設のことも」


「今は単純に自由時間だよ、制限付きではあるけど。俺たちの他に一次試験を通過したのは15、6チームくらいかな。みんなはもうとっくに食事を終えて、思い思いに過ごしているぜ。まー大体どこかで駄弁っていたり....ああ。あんな感じにティータイムをしてくつろいでいるみたいだ。何度か他チームの女の子に誘われてね」


 フューエンくんが指した先では、チームと見られる3人がテーブルにスイーツを並べてお茶会をしているようだった。


「あとは遊技場なんてものもあるみたいですよ! 結構いろんなゲームがあるから一緒にどうかって誘われました....男子に」


「大広間やロビーの雰囲気も良かったから、ずっとあそこで過ごしている子もいるみたいだった。ドリンクバーもあったしね」


「そうだ、ここは合宿所として使われている施設だそうですよ。運動場があったり鍛錬の施設なんかも充実しているみたいです。そこで体を動かしている人もいるみたいですよ。『共に汗を流さないかい』って声をかけてくれたゴリゴリの方達が話しているのを聞きました」


「う、うん。大体分かったよ、ありがとう....『制限付き』っていうのは?」


「ああ、それな。最初に説明があったんだよ。宿泊棟と大浴場にはまだ入れないってな。まだ部屋割りが済んでいないからって理由だったぜ」


「もしかして、僕たちが合流するのを待っていたのかな?」


 だとしたら申し訳ないなとちょっと思った。


「それもあるかもしれない。だが、俺は違う理由があるんじゃないかと睨んでいる」


「違う理由?」


「ああ。それについて意見を聞きたくて、ノルたちを探していたんだ」


「....ねえ、これ長い話になりそう? お茶、頼んでもいいかしら」


 ちょうど話の内容がシフトする絶妙なタイミングを見計らってエレーナが提案してくれた。そう言われてから、僕たちは空になった食器を前に話していることに気がついた。


 エレーナはこの時間自体を若干不満そうに感じている様子ではあったものの、彼女もこの会話に重要性を感じているようだ。この場から去ろうとはしない。

 華やかな良い香りがテーブルを彩る。僕たちはドリンクの注文が揃うのを待ってから、ミーティングを再開した。みんなが口を湿らせ一息ついたところで、フューエンが本題を切り出した。


「二次試験の内容についての意見を交わしておきたい」


「そうだね同感だよ。でもどうして僕たちと?」


「ノルたちのチームは信頼できる」


「どうして?」


「お前は良いやつだ、そう直感した」


「直感....ね。そう言われちゃ光栄だね。うん、僕も君たちを信じるよ。フューエンくんたちは良い人そうだ」


「フューでいい、そう呼んでくれ。俺はお前たちを、これから運命を共にする仲間になると見込んでこの場に呼んだのだからさ」


「分かった。よろしくフュー。僕は....みんなノルって呼ぶよ」


「よろしく、ノル....あー、握手は、出来ないんだったな」


 フューはつい癖で出してしまった片手の行き場が無いことに気づいた。


「心の握手」


「え?」


「代わりに僕は、目を合わせて笑顔を交わす。それを心の握手って呼んでるんだ。どう?」


「いいねそれ。心の握手」


 にかっと音がしそうなくらい見事な笑顔を向けてくれた。それは、見る者を惹き込む魔性のスマイルだ。タダで見ていいのだろうかと意味不明な考えがよぎった。


 リーダー同士の親睦が深まり、結束感のようなものがにわかに生じたところで僕は本題に戻すことにする。


「ごめん、話を逸らしちゃったね。意見を交わしたいって言うことは、何か思うところがあるんだね?」


「ああ」


「まずはそれを聞かせて欲しい」


「もちろん。俺はな、ノル。この自由時間も実は試験絡みなんじゃないかと考えている」


「同意見ですわっ! そのお話、ぜひわたくしたちにも参加させて頂きたくってよ!!」


 突然。無駄によく通る凛とした声が横殴りに聞こえてきた。

 それは、僕たちのテーブルに漂っていた華やかな香りを吹き飛ばすには十分な勢いだった。

ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

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