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精霊界のノル・クァイン〜無腕無敵の最強騎士伝説〜  作者: 凡風
〜精霊騎士養成大学校 入学試験一次試験編〜
16/51

2−8 百本指

よろしくお願いします。

 とあえず状況を整理しよう。僕は注意深く周囲を観察して考える。


 今はクァインを前にした三角の隊形。前衛がゴーレムと直接対峙、後衛がその援護というセオリー通りの算段だったけれど、包囲されるのは予想外。ちょっと戦略を変えた方が良さそうだ。


 試験はすでに始まっているが、相手はゴーレムの数を揃えている間は襲いかかって来なかった。とりあえずこちらも攻撃はせず、観察と思考に集中している。


 まず霊力の巡り方を観察する。

 僕たちを取り囲んでいる複数体のゴーレムは、霊素で生成した物ではなく地面の土を操って成形した物。それゆえ強度が低く動きも鈍い、しかし霊素効率はいい。物量での押し切り、ジリ貧勝ちが狙いだろう。


 その証拠に相手は、質より量の方へ振った精霊魔法を使っている。生成速度を見た感じ、恐らく破壊してもすぐに次が出てきそうだ。


 そして本体。アレはちょっと厄介っぽい。


 事前にはゴーレムと言っていたけれど。蓋を開けてみれば、アレはそんな生優しい物ではない。見たことも聞いたこともない不確定構造体じゃないか。


 精霊魔法と相性がいい超特上の素材で外骨格を構築している。身長は小柄な成人男性程度。

 精霊との親和性が高い素材は、精霊魔法で柔軟に状態を変化させることが可能。通常、最高級の武器や杖にのみ使われている特別な技術が惜しげもなく全身に使われているようだ。


 さしずめ『高位精霊体の模倣を目的とした人工物』と言った所だろうか。疑似精霊体と呼ぶのがしっくりくる。

 一体誰が造ったのだろうか。天上のコンセプトでありながら完成度は非常に高く、破壊するのは困難。あれを壊して行動不能にするには骨が折れそうだ。


 胸の位置に装着された、心臓サイズの赤いガラス球を破壊すればその時点で勝利だと言われた。しかし守りに徹されたら破壊は困難に思える。


 まあ、そこまで追い詰めたら合格にして欲しいものだけれどね。


 こうして考えあぐね、出した結論をクァインに伝える。


「クァイン、予定を変更しよう。援護するから君は真っ直ぐに本体を狙って。僕とマリアンヌで他をできるだけ引きつけるよ」


 まとめて囲まれるよりは、戦場を二つに分けた方がいいと判断した。


「わかった」


「わ、わわ、わたくし達だけで、戦うでございます!?」


 前衛を離されるとは思っていなかったのだろう。マリアンヌは僕の判断に戸惑ってしまった。


「大丈夫。マリアンヌは僕のフォローに集中していればいいよ」


「ふ、フォロー....でございますか? か、かしこまりまして.....で、きます、でしょうか。このわたくしが....」


「さあ、話はここまで。くるよ、クァイン準備して」


「まかせて」


 互いに準備が整った。

 合計11体のゴーレムが一斉に動き出して僕たちに襲いかかってくる。


 僕は真っ先に、本体へ向かう道をつくるために圧縮霊素を一点集中で放ち弾幕を形成した。

 結構クァインの体をスレスレで通る射線もあったけれど、彼女は振り返るどころか身じろぎ一つしなかった。その甲斐あってか相手の意表をつくことに成功し、クァインは無事に本体まで突破、接敵した。


「ごめん! 2体くらいそっち行くかも!!」


 1対3と2対8か。戦場の分断には成功したが、全ては思い通りにいかない。まあ誤差の範囲だけれどね。

 さあ、ここからだ!


 * * * * * * * * * *


「ほう、やるな。ここまでとは....」


 モニタールームでノルたちの試験を監視していたハリソンは、開戦早々、感嘆の声を漏らした。


「まだ始まったばかりですよ?」


「分からないか?」


「ええ。あのくらいの判断は妥当です」


「訓練を受けた者ならば、な。アイシャくん忘れていないか? 彼らは兵士じゃない、昨日まで安穏と生活していたはずの一般の子供だよ」


「....あっ」


 そう言われてから、自分が今何を見ているのかを思い出したようだ。

 あまりに自然な開戦だったからだろう。アイシャは無意識に、正規騎士の訓練か何かだと錯覚してしまっていた。彼らはまだ子供で、戦う経験などしたことがないはずだ。


「冷静だ、アレだけの数に囲まれれば普通ならもっとパニクる。そして判断も早い、敵の準備時間があったとはいえ....いやそもそも、そこで先制を選ばないという選択を瞬時に行った。あのノルって子の方も、どうやら異常な存在らしい。そして極め付けは....分かるかい、アイシャくん」


 早口で観察結果を言語化していたハリソンだったが、急にアイシャへ質問を投げかけた。


「えっ!? えと....すみません。状況についていけてないなくて」


「ハーフエルフの子の突破口を開いた弾幕だよ。射線見た? ギリギリ。それを互いに気にも留めないの。異常だよどっちも。同郷とは聞いていたけど、どんだけ信頼し合ってるのって話。ありゃ2人ともヤってるね」


「ははハリソン監督官!? やめてください急に、せ、セクハラですっ」


「え? ああ、違う違う。実戦を、だよ。アレだけ瞬時に緻密な戦闘モードへ切り替えるには、訓練や鍛錬だけで身に付かないだろう....アイシャちゃんは、一体何だと思ったの?」


「......セクハラです」


 * * * * * * * * * *


 戦闘は何とか拮抗している。でもいくつかの予想外があって、じわじわと相手に天秤が傾きつつある。

 この乱戦だ。均衡が崩れば一気に勝負がついてしまう。


「......っく! は!」


 予想外ポイントその1。本体がよく動く。


 クァインにとってもそれが予想外だったようで、3体からの攻撃を凌ぎながら突破口を探っている。

 これだけ多数のゴーレムを絶えず供給し続けながら、本体も十二分に戦力として稼働している。動き自体は、少し戦い方を学んでいるかな程度で、少々ぎこちないのが救い。


 おそらく、本体ゴーレムのポテンシャルが高すぎて、操作している本人よりも強くなっているのかもしれない。元々は3対1で設定されている試験なんだし、そのくらいあり得そうだ。


 逆にあのポテンシャルで近接ゴリゴリの担当者に当たっていたら、それはそれで怖かったかもしれない。

 人間を超えた強度の構造体が、鍛え上げた戦闘スキルを駆使して襲ってきたらと思うと恐怖で震える。


「あっ! うぅぅ....ひっ」


 予想外ポイントその2。マリアンヌが萎縮しきってしまったこと。


 前衛を失って取り囲まれている状況に、僕が想定していたよりも遥かに恐怖を抱いているようだ。

 今は360度どこから襲ってくるか分からない、8体のゴーレムを僕1人で処理している状況。実はこれが結構ギリギリ。


 こちらは両腕と視力が無い2人組だから、間合いが詰まったらその時点で終わる。

 それを処理し切るためには、標的を捉えるまでの速度が肝心となるけど....正直に言うと、クァインの方に行っている2体がこちらに合わさると終わってしまいそうなくらいにはギリギリだった。


 予想外ポイントその3は、まあ他に比べれば大したことでは無いのだけど、ゴーレムの生成スピードが戦闘モードになったら若干上がったこと。

 だがこのわずかな想定の誤差が、じわじわと僕たちを追い詰めてきている。

 今さら無意味な事だけど、クァインを前に出したのは本当に正しかったのかと自問したくなる。


 マリアンヌさえ復活してくれれば勝機は見える。

 僕の見立てだと彼女は......。


「ごめんなさい....ごめんなさい......ごめっ、なさ」


 この勝負の行く末を握る鍵は、さっきからずっと謝り続けている盲目の少女にある、と僕は確信していた。

ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

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