2−7 ゴーレムなんかじゃない
よろしくお願いします。
入学試験の裏方。
実技試験に使うゴーレムを遠隔操作するためにあつらえられた設備が置かれた施設。実力のあるアンダーナイトが事前に選ばれ、ここへ集められていた。ゴーレム担当の騎士候補生たちである。
整列した騎士候補生は総勢40人ほど。その視線の先は大きなガラス張りになっており、小さな体育館ほどの大きさをした一階研究室の様子が見渡せるようになっている。そこには複雑な装置が取り付けられているマッサージチェアのような形状をした特殊な椅子が3つ並べられていた。
その特殊な椅子がゴーレムの遠隔操作装置であることはみんなすでに説明を受けている。
遠隔操作装置を一括で管理しているコンソールでは、技術者である白衣着の女性が、複数のモニターを睨みながら忙しなく最終調整を行なっていた。
ハリソンが騎士候補生たちを前にして立つ。一次試験の最終打ち合わせが始まる。
「試験協力のために集まってくれた諸君、ご苦労。さて予定通りに受験生の数は減ってしまった」
くすくすと笑い声が漏れ聞こえてきた。
「おいおい笑い事じゃないぞ。予想していたよりも残った人数が少ない。定員割れだ。誰か辞退する者はいるかー?」
ハリソンは半分冗談で言ったのだが、間に受けた者がスッと手が伸びた。
「そういうことならば、私は辞退する。やはり私が担当しては受験生が可哀想だ。アレに興味があって参加したが、稼働している所を見られるだけでも十分だろう」
「アレクサンドラか。強者相手にどう立ち振る舞うかも見たい所だったが、まあ確かに、エスクエラの頂点に君臨する騎士会長殿が相手では、試験にならんかもな。そうしてくれ」
「教導官どのー、残りはどうやって決めますー? くじ引きでもするんですか」
「それ採用」
「マジすか。え、ちなオレも入っちゃっていいんすか、《百本指》の異名を持つゴーレムマスターっすよ。オレ、加減はできないっタチすけどいいんすか?」
「百本指? ああ、夜のテクニックが凄すぎて元カノに『しゅ、しゅごい、まるで指が百本あるみたい〜』って言われて付いた異名だったか」
「それ、ぶっちゃけあんまり広めたくないんで、あんま言わないでっす………」
「ここにいる奴はみんな知ってんだろ」
「そうかもっすけど。この名は、最大で10体のゴーレムを操れるテクで広まったんすよ。凄腕土属性使いのオレと当たる受験生は、多分なにもできずにジ・エンド......すけど、マジでいいんすか?」
「あー、まあそれくらいなら是非やってくれ。この試験は、憑依操作型ゴーレムを実戦形式で稼働実験することも兼ねているからな。あのゴーレムでどれほど精霊魔法が扱えるのか、ぜひ試して欲しいとのことだ」
「それなんすけど、本当に精霊魔法が使えるんすか? あれ」
「失礼な物言いだな、ちゃんと扱えるさ。その恥ずかしい異名がついた実力が本物ならね」
百本指の疑問に答えたのはハリソンではなかった。
調整作業をしていた白衣の技術者が不機嫌そうに振り返って答えたのだ。
「それにあの子たちはゴーレムなんかじゃない。莫大な開発費を投じ、最新の精霊魔法技術で生み出した人型魔導兵装『S.E.M.works』。土くれを練り上げただけの人形と一緒くたにされるのは不愉快だ」
「失礼、研究員殿。もちろん承知しています、みなもね。しかしまだ馴染みがない代物でして、あえて聞き慣れた言い方を使っているだけなのですよ。精霊魔法を扱うにはイメージが重要ですから、ゴーレムと言った方が動かしやすいのです」
「....まあいいだろう。あの子たちが正式発表された暁には修正してもらわなければ困るがね....もちろん、今後関わることができたらの話だが」
「研究員殿、質問よろしいか」
挙手したのはアレクサンドラだった。
「なんだい」
「魔導兵装ということは、兵器として開発しているのですか」
その質問に研究員がかけているメガネがキラッと光ったかと思うと、不機嫌そうな表情が一転し饒舌に語り始めた、
「君たちに、あまり詳しく教えることはできないが、まあコンセプトはそうだ。中央評議会と精霊騎士団から正式な依頼を受けて研究している。だが後に簡略化した技術を民間におろし、生活を豊にすることはよくある話さ。最終的にどのような形に落ち着くかはまだ分からない。だがもし軍事利用するにしても、あの試験体をそのまま運用することは無いだろう。コストがかかり過ぎる。高濃度霊素で精錬した特殊金属でボディワークを形成。高純度精霊結晶も相当量使用している。あれ一体で城が建つ....くれぐれも壊すなよ? マジで」
「き、聞いて無いっすよ、そんな話....」
これから自分たちが扱う物の正体を知って、候補生たちは顔を青ざめさせた。
「研究員殿、ウチのヒヨッ子たちをからかわないで頂けますか。アレはそんなにヤワな代物じゃ無いでしょう」
「ふん、ウチの可愛いセムちゃんをゴーレム扱いしたお返しさ。その通り。上位序列の精霊騎士が全力で相手をするくらいでなければ、アレを壊すことは不可能だから安心したまえ。そのために受験生と候補生を実験相手に選んだのだ。いいデータを頼むよ、モルモット諸君♪」
* * * * * * * * * * * *
実技試験会場は中で精霊魔法戦闘を行うことを前提として強固に造られた施設で、広さはテニスコート2枚分ほどである。
「結果論だが、好都合だったかもな」
多数のゴーレムに囲まれているノルたちを画面越しに観察しながら、ハリソンがそう呟いた。
記録を取るためにペンを走らせているアイシャの手が止まった。
「なんのお話でしょう?」
「辞退した騎士会長殿を除けば、恐らく百本指の異名を持つ彼が最高の難度と言えるだろう。純粋にこの実験と相性がいい。それがとびきり未知数の受験生に当たってくれて好都合だ、と言ったのだ。早速実力が測れる。お手並み拝見、という奴だ」
2人は実技試験会場を監視する専用の部屋にいた。3つの会場をそれぞれに映したモニターが設置されており、2人はここで会場を観察して受験生の評価を下すのである。
一連の設備があるこの大規模な施設は、精霊魔法の技術開発をしている研究機関が運営している。研究機関は実験に協力することを対価として入学試験の実施を受け入れたのだ。
「ハリソン監督官の見立てでは、善戦すると?」
アイシャはまだ少しあの2人に疑いの目を向けているようだった。難しい表情のままハリソンの言葉に応じた。
「勝てるかどうかは分からんが、何もできずあっさり敗北することはないだろう、くらいには思っている」
そうは言ってもとアイシャは試験場の3人を見る。どう考えても弱そうなチームに見えていた。
半分とはいえ、エルフの血をもつ少女はある程度戦えるだろう。しかし残りの2人は、片や両腕、片や視力を失っている。これだけの数を相手にして満足に戦えるとは思えない。
そもそもチームとして機能するのかすら怪しい。
ハリソンが言っていることは、アイシャはにわかに信じがたかった。
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




