2−6 盲目の受験生
よろしくお願いします。
ああ神様。どうしてこうも現実は無情なのでしょう。
簡単だと聞いていた試験は突然にして難題になり、加えてチームを組んで戦えとおっしゃいますか。
これを無情と言わずなんと言いましょう。
わたくしは正直なところ、この時打ちひしがれておりました。
満足に戦った事などないわたくしが、どなたかのお誘いに応じられるはずがありません。
ましてや1人で戦って合格を勝ち取れるとも思えません。相手はハンデを負っているとおっしゃいましたが、わたくしだってハンデを負っているのですから。どっこいどっこい所ではございません。
ああ、どうしましょう。
このまま時が過ぎるのをただ待つのみか、はたまたワンチャン狙って動いてみるべきか、それとも痛い思いをする前に辞退するべきか....いいえ、それだけはあり得ません。
わたくしはどうしても、騎士養成大学校へ入らねばならないのですから。可能性がゼロになり不合格が決定するその瞬間まで、諦める訳にはいかないのでございます。
ああ、でもでもどうしましょう。
わたくしは試験会場の隅で困り果てておりました。
運命の殿方にお声を頂いたのは、そんな時でございました。
「初めまして、僕はノル、こっちはクァイン。ねえ、もし1人だったら僕たちとチームになろうよ」
常闇の世界に響いたこのお言葉。生涯忘れる事などできそうにございません。
それほどまでに嬉しかったのです。
これが、わたくしとあのお方との、初めての出会いでした。
* * * * * *
「....え、わたくし、でございますか?」
大きな三角帽子を被った女の受験生に声をかけたところ、返事がワンテンポ遅れて返ってきた。
まるで声をかけられる事を諦めていたかのような反応だった。
「うん。名前、教えてくれるかな」
「え、ええ。わたくしはマリアンヌ、マリアンヌ・ローズサミールと申しますわ」
「ローズサミール?」
「その家に生まれた。それ以上でもそれ以下でもございませんゆえ、どうかお気になさらず....それで、わたくしをチームに、とおっしゃられたように存じますが」
「うん、そうだよ。どうかな?」
「わたくしは、あの、実は.....あ、いえ。なんでも、ございません。わたくしでよろしければ、ぜひ、こちらからよろしく申し上げたい所でございます」
そう言って、マリアンヌは迷わず僕に向かって手を差し伸べてきた。握手のつもりだろう。
「......」
「あの、どうかされまして?」
いつまでも握手に応じない僕に、マリアンヌは不安の表情を浮かべた。
その迷いのがない動きで僕は確信した。帽子を目深に被っているのは、それを目立たせないためだろう。
「やっぱり、目が見えていないんだね君は。それも全盲かな」
「あっ! 何か間違った選択をしてしまったようでございますね。申し訳ございませんでした。決して、決して騙すつもりはなかったのでございます、わたくしは、その」
「うん。悪意がないことは分かっているよ。不安だったんだよね」
「本当に申し訳ございません....あの、太々しいとは存じますが、こんなわたくしでも、その....」
隠し事をしてでもチームに組みしようとしたことがバレて、一層不安な様子を見せる。今ので嫌われたのではないか、と不安がっているようだった。
僕は返事をする代わりとして、クァインに頼んで彼女の両手を僕の体に誘導してもらった。
「大丈夫だよ。実はね、それはお互い様なんだ」
「え、あの、その....わ、わたくし、殿方の体に触れるのは、初めてで、少々おもはゆく....え、これはどういう」
僕の肩に手を置いたマリアンヌは異変に気づいた。本来あるべきものがないことに。
羞恥を忘れて僕の腕がない肩をまさぐった。
「僕は腕がないんだ。それを隠して君を勧誘した。どうだろう、こんな僕でもいいかな?」
僕はあえてマリアンヌと同じ言葉で訊いた。
「もちろんでございます。こんなわたくしでよろしければ、お願い申し上げます」
その声は、少し震えていたような気がした。
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......という、互いの気持ちを通じ合わせた感動のチーム結成から1時間くらい後のことである。
僕は今、実技試験の会場にいる。一次試験の説明……ハリソン監督官がしていた話を思い出していた。
ーーーよっぽど運悪くゴーレム操作が得意なやつに当たらなければ普通に戦えるーーー
さて。クァインとマリアンヌとの3人で結成された僕のチームは今、合計11体のゴーレムに囲まれている。
人型ながら複雑な骨組みの特異な造形をした1体のゴーレムが騎士候補生が操っている個体。残りはそのゴーレムが精霊魔法で生み出した土製ゴーレムだ。
....うん。もしかしなくても僕たちはよっぽど運が悪く、ゴーレム操作がとんでもなく得意な奴に当たってしまったらしい。
うーん、どうしよう。
ご精読ありがとうございました。次回もよろしくお願いします。




