雪山に捨てたいものは妻ですか?
この作品は「なろうラジオ大賞5」の参加作品です。
千文字と超短いのはルールなのですごめんなさい(><)ノ
ひとり雪山に入っていく男。
男は自暴自棄になっている。
辛うじて人が歩ける道を無心で歩く。
男は捨てたいものがあってこの雪山にきた。
ただし、捨てたいものが何なのかは自分でも分かっていなかった。
とにかく捨てなければ――
「私をこの雪山に捨てるつもりなの?」
いつの間にか連れが出来た。美しい女だ。幻覚だろうか?
「妻のお前を捨てるわけないだろ……いや。だとしたらどうする?」
「あはっ、決まってるでしょ。やれるものならやってみなさいよ。返り討ちにしてやる」
妻という女が男に凄んで見せる。
若くて美人でその上スタイルもモデル顔負けに良い。
普通の男なら彼女を妻にすれば成功者だろう。
ところが、男は妻に何の感情も無いかのごとく、一瞥もくれずに前へ前へと歩き続ける。
「……」
またもう一人、連れが増えた。今度は顔が無い男だ。
「不気味な人。この人、あなたの何なの? 魔物かしら」
「……」
顔のない男は口をきかない。ただ静かに口元に笑みを浮かべている。
男は二人に構わず雪山を進む。
「こいつ、あなたが死んだら、あなたの顔と人生をもらって生きるつもりね。こんな魔物がいると聞いたことあるわ」
男が捨てたいのは自分自身かも知れなかった。
◆
これまでの人生を思い返す。
良い時は確かにあった。それで良いのではないか。死ぬのは何故か。
男は身分がある身だった。
大きな犠牲を払って手に入れた身分だった。
高貴な身分の美しい女を妻にもらい受ける為に、何よりも大切だった自分の半身とも言える幼なじみ――美しい顔の少年だった――を売り渡したのだ。
その結果、極上の妻と身分を手に入れたのに、今は雪山を歩いている。
捨ててしまいたいのはやはり――
と、男が自らの死を考え始めた時。
顔の無い男が、かつて売り渡した少年の顔になっていた。
「お前は……」
「やあ。ボクだよ」
「俺を恨んでるのか」
「君のことだから、悔いて自殺もあるかと思ってさ。止めに帰ってきた」
「……」
「どうだい、今度こそボクを選んでその女は殺して捨ててくれるかい」
「……そうだな」
いつの間にか、手に刃物を持っていた。
「や、やめなさい! 本当に私を? 私はこの国の三大美女に選ばれたこともあるのよ? 惜しくないの? 身分だって!」
出来るだけ苦痛を与えない様に、殺す。
「ぎゃぁああ゛あ゛!」
この女は幻の筈。
だが、手に残る感触は限りなく現実の物だった。
死体も本物に見える。
「さあ、君は自由だ」
美しい少年の顔を纏った魔物が笑った。
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