二幕 旅団①
例の騒動から2週間が経過した。
例の鉄砲水を見た目撃者たちが警察に通報し、駆けつけた時に大怪我を負っていた私たちを発見してくれた
楽しみにしていたゴールデンウィークも、怪我の治療で終わってしまった。まだ傷が塞がっておらず、肩と背中の傷跡がズキズキと痛む。おかげで、気温も上がってきて暑い日も続いているが、春からずっと着ているパーカーが手放せなくなってしまった。
キャンパス内で神崎君を見かけることはなかった。おそらく彼も怪我の治療でしばらく動けないのかもしれない。3階建のビルの屋上くらいの高さから落下したから仕方がない、とはいえ、地面が雨男の能力によって液体になっていたりぬかるんでい部分があったのは多いに助かった。
瑠花も一部打撲で済んでおり、私も大怪我を負ったが無事に大学に来れるようになるまで回復した。
私、伊桜美知は東部学院大の心理学部心理学科所属、1年生だ。
スタートダッシュに出遅れ、現在友人もおらず、大学ではボッチで過ごしている日々だ。
でも逆に、周りに気を使わせず1人で自由に出来るというのは悪くない。気楽だし、そもそも友人付き合いも得意な方ではないので、あまり辛いと言う気持ちぬはならなかった。
どうやら学校では変わり者、というか変人のような目で見られているらしく、どことなく距離を感じる。
神崎君の存在に気付いたのは、共通科目の講義の時、人気がないのかクラスの人数も10人ほどしかおらず、彼の顔と名前は自然と覚えていった。
そうしたら週に3回くらいは朝のバスが一緒だった事が分かり、どうやら家も近いらしい事が分かった。といっても、学生街である街をわざわざ選び越してきたので、そのくらいの偶然はあるものなんだろう、と思っていた。
あの日、逃げ出そうとしていた瑠花が雨男らに見つかってしまい、現在追われている、と宇和さんから連絡が入った。たまたま近くにいた私が追跡する事になったまでは良かったけど、神崎君にも見られてしまうし、彼も巻き込んでしまう大騒動になってしまった。
雨男も、藤倉と呼ばれていた男も、あの後行方をくらましており、間欠泉が上がったのは地下の水道管が破裂したか、温泉が吹き出したのだろう、と全国ニュースでもやっていた。
まずいのは神崎君の顔を見られてしまった事。間違いなく、彼らは神崎君を追って、私たち“旅団”へ近付いてくる予感がした。
いつものバス停を降り帰路につこうとしていると、神崎君を見かけた。怪我の具合は…どうだろう、でも頭に包帯を巻いているような気がする。私は、彼に駆け寄って話しかけた。
「あの…、こんにちは、神崎君…。」
「あれ?伊桜さん、久しぶりに会ったね。」
彼は元気そうではあったが、怪我の具合は、まだ治りきっていないという感じであった。
「もう大学行ってたんだ。」
「うん、そうなんだ…。怪我は大丈夫?」
「今ちょうど病院に行った帰りでさ。少し精密検査したりはしたけど、とりあえずは大丈夫かな?また傷跡は痛むし、時々体が熱くなったりはするけど…。経過観察だってさ。」
頭をさすりながら、苦笑いして神崎君は話した。
「そうだったんだ…。あ、そうだ。この前、今度話すね、って言ってた事。この前の事件の事もなんだけどさ、良かったら、ここでお話したいの。」
私は、背負っていたリュックサックをおろし、内ポケットに入っていたスケジュール帳のページを破り、住所と店名を書いて神崎君に渡した。
「大学近くのアーケード。パン屋とクリーニング屋の間にある携帯ショップの、2階にあるカフェなんだけど、知ってる?」
「うーん、アーケードはあまり行かないから詳しくないんだよな〜。でもいいよ、行くよ。いつ?」
「明日、授業ある?2限の時間…11時くらいとかでいいかしら?」
「明日はちょうど2限ないから大丈夫だよ。分かった、明日行くよ。」
そうして神崎君が、「じゃあ僕こっちだから」と言い残したので、明日の約束を取り付け、その場を後にした。