一幕 雨男③
「あれ、貴方大丈夫?この子を追ってきたと思ったら、関係ないのに、巻き込んでしまってごめんね。」
意外と背は小さい。というか、この声聞いた事あるような気がする…
「もしかして…伊桜 美知?バス停でいつも会う?」
「え?…あれ!?神崎くん!?どうしてここに!?」
なぜか向こうも僕の名前を知っていた。授業で一緒だから、というのもあるだろうが。
嬉しい、というのもあったが、不思議な感覚だった。
彼女の事を昔から知っているような、そういう感覚が出会った時からあったのだ。
僕の思い違いだろうけど。
「あいつは加瀬沼、”雨男“と呼ばれているわ。あっちのは藤倉。あいつはよく知らない…写真で顔だけは見た事がある。
この子、ようやく私たちが見つけて連れ出して匿っていたのに、場所がバレてしまったの。それで、別の場所に逃がそうと思ってたと時に見つかっちゃって…って、ごめん意味わからないよね!」
僕はちんぷんかんぷんだったのが顔に出てしまっていたのかもしれない。
「大丈夫、ここは雨男だけ倒せば逃げ切れるはずだから…。ちょっと待ってて。」
そう言うと、彼女は右手を拳銃の形にして、スッと加瀬沼に向け
親指で引き金を引く動きをした。
その刹那、加瀬沼の体が背後に吹き飛び、フェンスに押し付けられた。
「ぐぁっ!」と鈍い声を上げたと思った次の瞬間、フェンスを突き抜け、雑居ビルの壁に激突していった。
壁がその勢いで崩れ落ち、白煙を上げている。
「な…なんだ、今の動き!?え?何やったの!?」
驚くと、美知は答えてくれた。
「1900年代から、超能力と呼ばれるものが実在するかどうか、研究者たちは日夜研究に明け暮れていた。
それがここ10数年の間に、外部からある物質で出来た”鍵”のようなもので刺激を与えたり、その物質を投与する事によって、その人間に超能力を発現させる事が出来る事が判明したの…。
ただしそれは、人間を一時的にやめるっていう事なのよ。今の私もそう。
超能力は、人間を超えた存在しか発現出来ない。私たちは、これを“メタモル”と呼んでいるの…。」
そう話し終えると、美知は周囲を警戒し始めた。
「神崎くん、気をつけてね。雨男は、こういう修羅場、幾つも乗り越えているから!」
そういうと、白煙の上がっている箇所から間欠泉のごとく、水が吹き上がった。
崩れた壁の周りにヒビが入ったかと思うと、ヒビの後が水になり、まるでダムが決壊するかのような、
町中でこんな不思議な光景を見れるなんて、今日はとんでもない一日だな、とか、今日バス、最後のに間に合うかな、とか僕は目の前の光景に頭が追いついていかず、まったく関係ないことを考えていた。
「スターゲイト!!!お前は…今日こそは…生きて帰さないぞ!!そこの娘も、小僧もだ!」
地面が盛り上がり、水とともに、加瀬沼が飛び上がってこちらに向かってきた。
「お姉ちゃん!箱男、来てるよ!」少女が叫んだ。
「絶対加瀬沼の手に触れちゃ駄目だよ!」
美知はそういうと、僕と少女の手を握り、空中へ浮かび上がった。あっという間にビルの間を抜け、街が眼下に広がった。
空中に浮かび上がる瞬間、加瀬沼の手が近くに積み上がっていたゴミバケツに触れたのを見た。
そのゴミバケツが、水を入れすぎて破裂した風船のように、バン!と音を立てて、水を撒き散らしてなくなった。
「加瀬沼の超能力は、自分が触れた場所を柔らかくして、最終的に液体にするの。直接触ったらあっという間。
一度でも触ったところは水に出来るの。でも少しでも時間が経っていると、水にするまで時間がかかるの。だから、神埼くんの足元も、あいつが歩いてきた場所だから水に出来た。けれど時間がかかったの。
だから絶対触っちゃ駄目だよ。あいつ今、そうとう怒ってるっぽいし。」
笑いながら彼女はそう言った。僕は今、自分に何が起きたかまったく理解出来ていなかった。
「ああ、ごめんね。ちゃんと、終わったら全部話すから。問題ないよね?」
「大丈夫だよ、このお兄ちゃん、きっとお姉ちゃんの言うこと聞くと思うよ。」少女は言った。
問題おおありだ、と思ったが、今は彼女の行動に身を任せようと思った。
「とりあえず、あなた達を降ろさないと、私も戦いづらいし、どこかビルに降ろすわね…」
そういうと美知は僕らをおろせそうな場所を探し、3階建てのちょうど良さそうなビルの屋上を見つけたので、そこにふわふわと降りていった。
下からは、加瀬沼が怒り狂っているのか、何箇所から間欠泉が飛んできている。
通りにいた人々も、何事か、と間欠泉を見上げ、スマホで写真を撮ったりしていた。のんきなものだ。
ビルに降りようとした瞬間、僕らは突風に煽られた。と、その時、飛んでいた間欠泉が僕らに飛びかかろうとした。
次の瞬間、さっきまで水だったものが、級にアスファルトの破片となって、僕らに襲いかかった。
「あぶない!」
とっさに美知は僕と少女をかばった。彼女の体にアスファルトの破片が襲いかかり、彼女の体に穴を空けた。
太ももや肩から血が吹き出し、彼女と僕らは、先ほどまでいたビルの隙間に、落下した。