みんなで仮装大会
シルフィーナちゃんたちの着替えが終わると、ルシアンさんとシエル様は皆を連れて一階の食堂へと降りていった。
私も着替えるだろうという配慮からだと思う、多分。
ロベリアの開店時間までもう少し。
私もいそいそと着替えを済ませることにした。
お料理をするからあんまり派手な衣装はよくないし、かといってあんまり地味なのもなぁって思うものね。
できれば可愛い服がいいなと思っていたら、リーヴィスさんがシエル様の分だけじゃなくて私の衣装も用意してくれた。
「リディアさん。シエル様とお揃いでつくりました。お揃いは大切です。セイントワイスと王宮手芸部はいつでもシエル様とリディアさんを応援していますよ。どうしてルシアン殿がここにいるのか、理解しかねます」
「それは悪かったな、リーヴィス。リディア、私がいたら駄目か?」
「駄目じゃないですけれど……元々はシエル様のお家で、私は居候で、ルシアンさんも居候で、これはシェアハウスというらしいのです、リーヴィスさん」
「なるほど。シエル様はリディアさんを居候とは思っていませんよ、きっと。末長く一緒にいてください。潤いますので、私が」
「リーヴィス、余計なことを言うものではないよ」
暗黒魔導師みたいな顔でリーヴィスさんが微笑むのを、シエル様が注意して、それ以上その話はしなかった。
私とシエル様が一緒に住み始めたのは、シルフィーナちゃんを一人で育てるのは大変だなって思って、シエル様にお手伝いをお願いしたから。
ルシアンさんが一緒にいるのは、シエル様のお家が大惨事だったから。
シエル様は見た目に似合わず、お片付けがとても苦手だし、生活がすごく雑なのよね。
このまま二人暮らしをしたら私が大変になってしまうと言って、生活が得意なルシアンさんが一緒にいてくれることになった。
リビングの家具や、ロベリアの内装もほぼルシアンさんが選んでくれている。
ルシアンさんはセンスがいいのよね。とってもお洒落さんだし、家具も小物もどれもこれもが綺麗で、可愛い。
ごてごてしていないしシンプルなのに、過ごしやすくてオシャレというのは、すごいわよね。
ルシアンさんは私よりも女子力が高いし、お料理もできるし、洗濯も得意。
とても助かっている。
もちろんシエル様にも助けられている。シエル様は物知りだし、エーリスちゃんたちにとても好かれている。
宝石人は魔女シルフィーナの子供で、シエル様は宝石人の血を半分引いている。
だから、エーリスちゃんたちにとってはどうも、弟みたいなものらしいのよね。
これはルシアンさんが言っていた。ルシアンさんは魔物の言葉がわかるので、たまに通訳してくれる。
でも何にもない時は、エーリスちゃんたちは、「まま」「おかーさん」「ごはん」「おいし」「ねむい、ねむねむ」「おふろきらーい」ぐらいしか言わないらしい。可愛い。
ちなみに皆、本気を出せば数分間は元の姿、というか、成体になることができる。
そうするとお話もできるけれど、よほどのことがない限りは成体にならない。だって大きいのだもの。
皆成体になったらお家を突き破ってしまうので、くれぐれも大きくならないように皆には言い聞かせている。
ともかく私は今、とってもぬくぬくぬるま湯につかるみたいな生活をしている。
夜中に目覚めてしまってリビングに行くとシエル様が本を読んでいるし、朝になるとルシアンさんがコーヒーを淹れてくれる。
すごく、落ち着く。わがままって分かってはいるけれど、もう少しこのままでいたいと思ってしまうのだ。
子育ても、はじめてだし。シルフィーナちゃんは手がかからない赤ちゃんだけれど、やっぱりはじめてのことなので緊張するし、不安もあるもの。
いつも相談できる人がいるというのはありがたい。
といっても、お二人ともお仕事で遠征があったりして、不在の日もあるけれど。
そんなことを考えながら、私はリーヴィスさんが持ってきてくれた衣装に着替えた。
赤いヘッドドレスに、赤いワンピースに胸にはリボン。
ヒラヒラのエプロンドレスになっている。
この衣装がシエル様とお揃いというのは、多分シエル様が銀色の狼だからなのよね。
狼と赤い頭巾の女の子という童話がある。赤い頭巾の女の子は、狼さんに食べられてしまうのだ。
銀狼のシエル様は私を食べないだろうけれど。
「ちょっと恥ずかしいわね……」
着替えを済ませて、自室の鏡で自分の姿を確認する。
以前よりも女性らしくなったような、そんなに変わらないような。
黒髪と紫色の瞳の、一年前よりもずっと表情が明るくなった私は、なんとなく照れてしまって一階に行って皆に自分の姿を見せるのをためらった。
でも、一人でお部屋で恥ずかしがり続けるわけにもいかないもの。
今日はハロウィンメニューを皆に食べてもらうのよね。
子供たちに配るお菓子もたくさん用意してある。
「よし!」
気合を入れて一階に降りると、狐の耳をつけて異国の着物を着たレイル様と、身体中に包帯を巻いたロクサス様、それから、頭から二本のツノを生やしたステファン様が出迎えてくれた。




