シルフィーナちゃんと死者の祭り
リーヴィスさんを筆頭に、王宮手芸部の皆さんが精魂込めてつくってくれた可愛らしい衣装を、私はせっせと小さなシルフィーナちゃんに着せていた。
「推定年齢、一歳といったところでしょうか。魔物の子と同じと考えれば、年齢を考えるのも意味がない気がしますが」
その様子を隣で眺めながら、シエル様が言う。
今日のシエル様は頭に銀の狼の耳がついている。これも王宮手芸部の皆さんが全力でつくってくれたもので、つくりものの耳なのにまるで本当に頭からはえているみたいに見える。
秋の終わり、冬の手前の今の時期。
王国では死者の祭りがおこなわれる。
死者の祭りでは皆、死者が紛れ込んでいても気づかないように仮装を行う。
死者が紛れ込むとはこわいことではなくて、たとえば遠く昔に亡くなったご先祖様などを、いらっしゃいといってお出迎えする、怖い名前がついていながらとても優しい祝祭なのである。
アルスバニアの路地裏から、シエル様の自宅を改修して新装開店したロベリアでも、死者の祭り特別イベントを行うことになった。
せっかくのお祭りだもの。広くて綺麗で新しくなったロベリアなので、せっかくだからそういったイベントには参加していきたい。
という話をシエル様に相談したら、それがリーヴィスさんに伝わって、王宮手芸部の皆さんが衣装をつくってくれたのだ。
より雰囲気を盛り上げるためにやっぱり仮装はしたほうがいいと言って。
「シルフィーナちゃんは一歳。新しいロベリアも一歳」
私はにこにこした。ロベリアもシルフィーナちゃんも一歳。とっても覚えやすい。
「年齢は意味がないのだろう? 明日になったらとつぜん成長して、リディアの身長を追い越して美女になっている可能性もある」
エーリスちゃんたちにせっせと衣装を着せてくれていたルシアンさんが、肩を竦めながら言う。
ルシアンさんも仮装をしてくれている。眼帯で片目を隠していて、大きく胸のあいた和国の服を着ている。ツクヨミさんから借りたらしい。
衣装のコンセプトは『幽霊船の海賊』だそうだ。
ルシアンさんは体格がいいので、胸の大きく空いた異国の着物がよく似合っている。
「どうしましょう、美女になったらお嫁さんに出さないといけません……」
「一体誰と結婚させるつもりなんだ、元魔女を」
「この場合、どうなるのでしょうね。シルフィーナにはもう魔女の時代の記憶はないと思いますが、人と番っていいものか……」
ルシアンさんが困ったように言って、シエル様が真剣に考え始めている。
ロベリアの二階にある皆で過ごすことのできるリビングルームである。
シエル様とルシアンさんと私、それぞれ部屋があるけれど(レイル様の部屋もあるけど、ロクサス様が寂しがるという理由で滅多にいない)、大抵はリビングルームに皆で集まっている。
私がリビングルームにいることが多いせいか、そう思うだけかもしれない。
居心地がいいのよね。ベッドみたいな大きなソファは並んでいるし、ふかふかのクッションもある。
背の高い観葉植物があって、暖炉もあるし、可愛いランプもある。背の低い大きなテーブルもある。
ラグもふかふかで、寝そべりたくなるほどだ。
エーリスちゃんたちがくつろげるスペースもあって、そこにはふわふわのラグが円柱状のクッションで囲まれている。怪我をしないようにという配慮らしい。
そのスペースにはこちらも低反発のクッションや、もちもちホットケーキクッションなど、様々なクッションがおかれていて、最近ではだいたい皆折り重なるようにしてそこで丸まったり暴れたりしている。
ファミーヌさんは暴れない。高貴だものね。
お父さんも暴れない。おじい――じゃなくて、可愛い子犬だけれど、可愛いマスコットははしゃがないと言っていた。
ルシアンさんはそこを『キッズスペース』と呼んでいる。
すごくいいと思った私は、ロベリアの店内にもキッズスペースをつくってもらった。
ロクサス様の財力であらゆる子供用のおもちゃが集められたキッズスペースで子供たちが遊んでいる間に、お母さんたちがゆっくりご飯を食べられるようになって、とっても喜ばれている。
あと、時々フォックス仮面が一緒に遊んでくれるのも大人気だし、エーリスちゃんたちをもちもち伸ばせるのも大人気だ。
「シルフィーナちゃんの結婚式には、お母さんとして参列しなくてはいけませんね。ウェディングケーキもつくってあげたいです。六段の!」
「でかいな」
「六段……崩れないように積むには、ケーキの下段から上段までの直径を計算していかないといけませんね」
「リディア。まず君が結婚するべきではないのかな……って、痛いな。どうしてこの話題になると皆私に攻撃的になるんだ」
せっせとエーリスちゃんたちの衣装を着せてくれているルシアンさんの手に、エーリスちゃんとメドちゃんががぶがぶ噛みついている。二人とも歯がないのであんまり痛くなさそうだけど、ルシアンさんは眉をひそめてバタバタと手を振った。
オレンジのショールやカボチャの帽子をかぶったエーリスちゃんとメドちゃんがぶんぶん揺れる。
「ぷりん」
「あんみつ」
ぽんぽんとキッズスペースに弾き飛ばされながら、エーリスちゃんとメドちゃんが文句を言った。
『やはり、下心を感じるからでは』
頭に蝙蝠のリボンをつけたお父さんが言う。
お父さんは雄だし、中身は立派な成人男性だけれど、リボンをつけることに何も抵抗がないみたいだ。
むしろ『可愛い私がさらに可愛くなった』と喜んでいる。
「下心などあるに決まっているだろう。私はリディアが好きだ」
「わ」
「リディアさん、何か聞こえましたか?」
「どうしました、シエル様? ふふ、くすぐったいです」
突然両耳を背後から塞がれたので、私は首を傾げる。
シエル様は私から手を離すと、優しく微笑んだ。
「ルシアンさん、下心って言いましたか?」
「いや、いい。なんでもない。それよりも、シルフィーナの着替えは終わったのか?」
「はい! 見てください。おとぎの国のかぼちゃプリンセスだそうですよ! 可愛いですね、ドレスが似合いますね、シルフィーナちゃん可愛い、天才、可愛い!」
金色のくるくるした髪の毛にヘッドドレス、ふわふわのレースの可愛いドレスに、大きなかぼちゃのパンツ。
ひたすらに可愛いシルフィーナちゃんを抱き上げて、私はでれでれした。
ほっぺに顔をすりすりすると「あーうー」と可愛い声がする。
柔らかい、ぷにぷに、可愛い。
私――リディア・レストは、現在子育て真っ最中なのです。
『独身なのに母性ばかり育って、お父さんとしては少しばかり心配になってしまうな……』
お父さんの声が聞こえる。聞こえないふりをした。
おひさしぶりです、リディアちゃんです。
まったり続きを書き始めました!
シエル様とルシアンさんとの同棲生活ウィズ幼馴染トリオを見守ってくださると嬉しいです!




