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魔物の子供たちとのわくわく飛行レース



 ファフニールで飛ぶ私とルシアンさんの近くをメルルちゃんに乗った動物たちが追いかけてくる。

 なんだか泣きそうなぐらいに勇ましくて可愛い姿だ。


「み、みんな、可愛い……立派になって……」


 これが巣立ちというものなのかしらと感動する私に、ルシアンさんが「今は小さいが、もともとは王国を滅ぼすぐらいの力を持った魔女の子供たちだしな、空を飛ぶぐらいはなんでもないだろう」と言った。


「でも今は小さいです」


「毎日リディアの料理を食べているからな。成長もはやいんじゃないか?」


「ど、どうしましょう、みんなもともと大きいから、ロベリアに入りきらなくなってしまうかもしれません……」


「皆で暮らせる場所に引っ越すか」


「それもいいですね! どこがいいかなぁ、聖都の中じゃ駄目かな……アルスバニアから離れるのは、寂しい気がしますね……」


「私も一緒に行くよ、リディア」


「ルシアンさんも?」


「あぁ。私は君の剣であり、盾。君を守ることが私の生きる理由だ」


 操縦桿を握っているルシアンさんが、ファフニールの中央付近にある乗り場の柵に捕まっている私の腰を軽く引き寄せる。


「リディア、此方に」


「落ちないですよ、大丈夫です」


「私もたまには、君を満喫したい。駄目か?」


「ええと……ルシアンさん、本当はキルシュタインに行くの、嫌ですか?」


 ルシアンさんの様子がいつもと少し違う気がする。

 そういえば、こんな風に二人きりになるのは本当に久しぶりだ。

 いつもはエーリスちゃんたちが一緒にいるし、あとはレオンズロアの皆さんとか、レイル様とかロクサス様とか。

 私がロベリアを開いたばかりのころは、お客さんはルシアンさんとマーガレットさんぐらいしかいなかったもの。

 なんだか、懐かしい。


「嫌ではないよ。むしろ、君と二人になれることは嬉しい」


 ルシアンさんに引き寄せられた私は、その片腕の中に簡単に抱きしめられた。

 落ちないように――よね。

 レオンズロアの軍服からは、お日様の光を浴びた花のような微かな甘い香りがする。


「あ、あの、ルシアンさん、私、落ちないです」


「どうかな。少し、速度をあげる。子供たちがそうして欲しそうにしているからな」


 ちらりとエーリスちゃんたちを見ると、確かに皆折り重なるようにメルルちゃんに捕まって、まっすぐ前を見ている。あれは、スピード狂の顔つきだわ……!


「や、やる気ですね、みんな」


 お父さんの不思議な力で作られた輝く光の膜のようなものがメルルちゃんの体全体に張られていて、小さなエーリスちゃんたちが風で吹き飛ばされないようにしてくれているらしい。


「きゅ~!」


 メルルちゃんが可愛らしい声をあげて、速度をあげた。

 ファフニールも先程よりも速い。

 お洋服や髪が風にばたばたとはためいて、お話しするのも大変なぐらいだ。

 ルシアンさんは私を片手で抱えながら、旧キルシュタインまですごい速さで飛んだ。

 メルルちゃんたちがすごく楽しそうにあとをついてくる。メルルちゃん、さすがは元々は王国を滅ぼす竜、という感じ。

 ルシアンさんのファフニールに、まだそこまで大きくない体でちゃんとついてきている。


 ファフニールは、旧キルシュタインの街の、キルシュタイン人街に降りたった。

 ベルナール人が住んでいる地区とは分けられている場所で、色の少ない落ち着いた印象を受ける街だ。

 先に降りたルシアンさんが、私をファフニールから降ろしてくれる。


「すごい、はやかったです……」


「酔ってはいないか?」


「大丈夫です、楽しかったです」


 地面に足をつくと、少しふらついた。なんだか、足元が揺れているみたいだ。

 ルシアンさんが手を引いて、転ばないように抱きしめてくれる。

 メルルちゃんたちと空で追いかけっこをしたみたいなのが楽しくて、腕の中でくすくす笑った。


「メルルちゃん、みんな! ふふ、すごかったですね、早い、早い!」


 少し遅れてファフニールの隣に降りたメルルちゃんと、得意気なエーリスちゃんとファミーヌさん、少しくったりとしたイルネスちゃんとメドちゃんを、私は抱き上げる。


「お父さん、大丈夫ですか? お父さん、お年寄りだから、あんまり早いのは」


「私は若……くはないが、問題ない。私一人の方がもっと早く飛べる」


「お父さん、負けず嫌い……犬は空を飛べないのですよ」


 子犬に翼はないもの。私はお父さんも抱き上げた。小さな姿に戻ったメルルちゃんも抱き上げた。

 両手がぎちぎちになった。


「ルシスアンセム様! 聖女様!」


 キルシュタイン街の広場に降り立った私たちはそれはもう目立った。

 私たちを驚いた顔で遠巻きに見ていた人々の中から、一人の男性がルシアンさんの本名を呼びながらこちらへと走ってきた。



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