ルシアンさんと行くキルシュタインへの調査
ルシアンさんはノクトさんに事情を説明して、休暇届を出して数日の休暇を貰ってくれた。
「お休みさせてしまって、ごめんなさい」
「気にしなくていい。これでも、日々真面目に働いているからな、たまに休みをとるぐらいはなんでもない」
「そうだよ、気にしなくて大丈夫だ、リディアさん。団長とゆっくり旅行に行っておいで」
「旅行?」
「あぁ。団長が、リディアさんと旅行に行くって。俺は嬉しいよ。団長の長年の思いがやっとリディアさんに通じたのかと思うと」
「長年の」
嬉しそうに笑っているノクトさんから、私は視線をルシアンさんに移す。
ルシアンさんは曖昧に笑ったあと、「では、行こうか」と、私を促した。
「ルシアンさん、長年の?」
「調査に行くというよりも、旅行に行くと言った方が理解が得やすい。悪いな、リディア」
「何も悪くないですけれど、旅行といえば旅行ですし、旅行って思うとわくわくしますね! でも、長年……」
「それは……また、あとで」
ルシアンさんはそう言うと、レオンズロアの本拠地にある広い訓練場に出た。
首飾りを外して投げると、それは首飾りから浮遊魔石走行装置ファフニールの姿になる。
「リディア、動物たちも、落ちないようにな」
「乗せてくれるんですか?」
「もちろん。一人用だが、リディアと動物たちが乗る分には特に問題はない」
「ふふ、嬉しい」
以前も一度乗せて貰ったことがあるけれど、あの時はルシアンさんは思い悩んでいて元気がなくて、私もそんなに余裕がなかったものね。
喜ぶ私の頭をルシアンさんは撫でてくれる。お兄さんという感じだ。
「きゅるる」
一緒に乗ろうと皆に手をのばすと、皆を背中に乗せてくれていたメルルちゃんが不思議な鳴き声をあげた。
「……乗らない、大丈夫、と言っている」
ルシアンさんが通訳してくれる。
メルルはファフニールの隣でふるふると体を震わせた。
エーリスちゃんたちがメルルちゃんの背中から、私の腕の中に避難してくる。
ふるふる震えたメルルちゃんは大型犬ぐらいの大きさから、もう一回りぐらい大きくなった。
背中に大きな翼がはえて、美しく輝く小さな竜の姿になる。
「メルルちゃん、可愛い……!」
「きゅ~」
大きくなったメルルちゃんの首をぎゅっと抱きしめて、私はすりすりした。
メルルちゃん、ふさふさでひんやりしている。ふさふさ艶々ひんやり。
エーリスちゃんとファミーヌさんとお父さんはその背中に軽々と乗って、一生懸命登ろうとしているメドちゃんとイルネスちゃんを、私は抱き上げて乗せてあげた。
「で、でも、みんな、大丈夫ですか? メルルちゃんと皆だけで空を飛ぶなんて、風が吹いて飛ばされちゃうかもしれませんし、心配です……」
「きゅ、きゅ」
「もうすこし大きくなるには、魔力がまだ足りないそうだ」
「リディア、大丈夫だ。私がいる。私は可愛い子犬だが、お父さんだ。飛ばされないように守護膜を張ることぐらいはできる」
「お父さん……」
「かぼちゃぷりん!」
「タルトタタン」
「あじふらい」
「しらたまあんみつ」
「一度に話されると、頭の中がうるさいのだが……皆、だいじょうぶ! と、言っている」
自信満々なお父さんと皆が凄く心配だったのだけれど、大丈夫というからには大丈夫なのだろう、多分。
あんまり過保護になるのもいけないわよね。
私はフェルドゥールお父様のことを思い出す。
お父様のことは好きだけれど、あんまり「リディアちゃんリディアちゃん」って言われて、「一緒に寝よう!」とか「抱っこをしてあげよう!」とか、ぐいぐいこられるとちょっと困ってしまうもの。
「じゃあ、お父さん、みんなをよろしくお願いします」
「あぁ。リディアも、気を付けるように」
「はい! でも、ルシアンさんがいるから大丈夫ですよ」
「ルシアンに気を付けるように」
「ルシアンさんに」
「どうして私は危険人物扱いされているんだ」
ルシアンさんは納得いかないというように深い溜息をついた。
それから、私の手を取って、ファフニールに乗せてくれる。
黒く細い竜の形をしているファフニールと、きらきら輝く小さな竜のメルルちゃんは、訓練所から飛び立った。
いつの間にか見送りに来てくれていたノクトさんやレオンズロアの皆さんが、飛び立つ私たちに手を振ってくれる。
私は「いってきます」と言いながら、手を振り返した。
ルシアンさんは私が落ちないようにだろう、私の腰を抱いていてくれる。
聖都がぐんぐん小さくなって、空が近くなってくる。
遠のいていく聖都を見ていると――いってらっしゃいと見送ってくれた皆が思い出されて、なんだか少し寂しい気がした。
すぐに戻ってくると思うのに、どうしてそう思うのが、少し不思議だった。
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