メドちゃんとお風呂と恋煩い
私は新しく加わったメドちゃんとエーリスちゃんたちを連れて、シエル様たちとお別れの挨拶をして、レスト神官家の馬車に乗って神官家に戻った。
馬車に乗った時にはいつもならぐっすり眠っている時間で、心地良い疲労感と眠気を感じていた私は馬車の中でうとうとしていた。
お父様が嬉しそうに私の頭を撫でてくれる。そのまま私はこてんと横になって、お父様の硬い膝に膝枕をされていた。
この年になって膝枕……と、思いながらも、眠気には抗えなかった。
うとうとしていると気づけば神官家についていて、ぼんやりしたまま手を引かれてお屋敷の中に戻ると、てきぱきと侍女の皆さんに私の服を脱がされて、逃げ回るエーリスちゃんたちをがしっと捕まえて、お風呂に入れられた。
「リディア様、あたらしい子がぷにぷにです……!」
「あぁ、なんてぷにぷになんでしょう……!」
「おゆにつけるとぷるぷるしますよ、リディア様……!」
あたたかいお湯のなかでぼんやりしている私に、侍女の皆さんの楽しそうな声が聞こえてくる。
「メドちゃん……タピオカみたい……」
大き目の桶に、エーリスちゃんたちと一緒にいれられたメドちゃんは、陸地にいるときよりもつやつやぷるんと輝いているように見えた。
「メドちゃんというのですね」
「この子は毛がないのですね」
「しらたまあんみつ」
侍女の方々によってわしゃわしゃ泡塗れにされているメドちゃんが、鳴き声をあげた。
「しらたまあんみつ!」
「しらたまあんみつ!」
すごい。侍女の皆さんが盛り上がっている。
楽しそうでよかった。
「リディア様、はじめてのお勤め、頑張りましたね」
「とても素晴らしいお姿でした」
「……皆さん、見ていたのですか?」
私の手や腕をマッサージしてくれている侍女の方々が言うので、私は尋ねる。
あの場には、皆さんはいなかったように思うのだけれど。
「ええ、リディア様。いてもたってもいられず」
「使用人一同、フェルドゥール様に頼み込んで、見学の許可を頂いておりました」
「皆で城の侍女に変装し、城の侍女に紛れて配膳などのお手伝いをしながら、リディア様の勇姿を拝見させていただいていたのですね!」
そうだったのね、気付かなかった。
侍女の皆さんにはお世話になっているのに、顔を覚えていないとか、申し訳ない限りだ。
「ごめんなさい、私、気付かなくて……」
「気づかなくて当然です。気にする必要はないのですよ」
「ええ、リディア様。そんなことよりも、カップケーキの雨もたいへん可愛らしかったですが、そのあとのダンスも最高でした!」
「ジラール家のご子息様たちとのダンス、大変元気がよくて可愛らしかったです……!」
「騎士団長様とのダンスも、よかったですよ、リディア様。なんだか、騎士団長様は王子様のようで、どきどきしてしまいました。キルシュタインの王族なのですね、それも納得です」
「筆頭魔導師様とのダンスも、初々しくて美しくてよかったです。まるで、絵本の中の登場人物のようでした」
「それを言ったら、国王陛下とのダンスもよかったです。王道、という感じがして……!」
エーリスちゃんたちを洗いながら、他の侍女の方々も会話に参加してくる。
私は口を開く間もないまま、皆さんの会話を聞いていた。
そういえば――色々あって一瞬忘れていたけれど、私、シエル様に――。
「王道! 王道なんて、おもしろくないのでは!?」
「おもしろくないなんて……! 王道こそ至高です! おさまるところにおさまった感じのよさを、分からないというのですか!?」
「そんなことよりも、双子です。双子。リディア様に旦那様が二人できるかもしれませんよ、双子とはそういうものですから! あぁ、いいですね、最高です。想像するだけで可愛くて、私はもう……!」
「経験豊富な大人の男性に翻弄されるリディア様が見たいのです、私は。異論は認めません!」
「皆、分かっていませんね。リディア様が積極的だったのは、誰が相手の時なのかを! その尊さを!」
「え……あ、あの! 喧嘩はだめです、何の話かわかりませんが、喧嘩はだめです……!」
突然言い合いをはじめる侍女の方々を私は宥めた。
あぁ――。
私。
シエル様に告白されて、返事をしていないのだったわね。
あの時のことを思い出すと、顔に一気に熱があつまる。
はずかしいし、お湯につかりすぎて、熱いし。
シエル様は、いつから私のことが好きだったのかしら。
私は、シエル様のことが好き。お友達として好きだと思っていた。
シエル様は私にいつも優しいから、私はずっとシエル様に甘えていた。
抱きしめて貰ったり、撫でて貰ったり、それから、それから――二人きりでお部屋ですごすことも、結構あって。
シエル様がその時から、私を女性として好きだったのだとしたら、私はなんて大胆なことを――。
今更だけれど、恥ずかしい。
だってシエル様には全部見られているもの。ぐすぐす泣きながら料理をしていた私も、弱音ばっかり吐いていた私も。どうしようもなく不安で、泣いてしまうこともあったもの。
どうして――好きになって、くれたのだろう。
「……私、だめ、です」
今は、恥ずかしがったり、悩んでいる場合じゃないのに。
シルフィーナを助けるという、大切な役目が私にはあるのに。
胸がドキドキしてしまって、思い出すと落ち着かない気持ちになってしまう。
「た、大変! リディア様、リディア様!」
「リディア様をお部屋に……!」
侍女の方々が言い合いをしている中、のぼせた私はぶくぶくと浴槽のお湯の中に沈んでいった。
慌てたような悲鳴が遠くに響いている。
そして私の意識は、ぷつりと途切れたのだった。
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