鳴き声ガチャ
エーリスちゃんたちがぴょんぴょんその少女の前に跳ねていくと、ぺたぺたと透明な筒を触った。
「かぼちゃ」
「タルトタタン」
「あじふらい」
「はやく助けてあげて、お母さん、と言っている」
通訳のルシアンさんが、エーリスちゃんたちの言葉を教えてくれる。
「助けて……というと、またあれか」
「四回目ともなると、慣れたものだよね、姫君」
「今回は、戦う必要もないしな。よかったな」
「まぁ、皆で戦ったのも、今考えればいい思い出だよね」
ロクサス様が少し離れたところで腕を組みながら、レイル様がエーリスちゃんたちと一緒に筒を覗き込みながら言った。
「この子の名前はなんて言うんでしょう」
「かぼちゃぷりん」
「……め、し」
エーリスちゃんが胸を張って教えてくれるのを、ルシアンさんがすごく訝し気な顔をしながら教えてくれる。
「飯? ご飯って名前なんですか、エーリスちゃん、ご飯」
「かぼちゃ……」
「タルトタタン」
「あじふらい」
しょんぼりしているエーリスちゃんの代わりに、ファミーヌさんとイルネスちゃんが教えてくれる。
ルシアンさんは軽く首を傾げると、口を開いた。
「メドちゃんだそうだ」
「メドちゃん」
メドちゃん。そんな名前なのね、この子。四つ首メドゥーサと呼ぶよりは可愛いのだけれど、メドゥーサだからメドちゃんなのか、それとも本当にメドちゃんなのか、微妙なところだ。
「やっぱり、ご飯を食べさせてあげたらいいんでしょうか。メドちゃんに、ご飯を」
「今までの流れから考えると、そうなのでしょうね。あなたの力が、魔女の娘たちの心を癒やした。だとしたら、もう一度料理を与えれば」
「しかし、今までのこいつらと違って、この蛇女はもう無害だろう。わざわざ助ける必要があるのか?」
ロクサス様が冷たく言うと、エーリスちゃんたちがロクサス様に突撃していく。
その様子を眺めながら、ステファン様は「ロクサスは相変わらず一言多いな」と微笑ましそうに言った。
「エーリスちゃんたちの妹ですから。姉妹は、一緒に居た方がいいと思います。メドちゃんも悪いことをしましたけれど、それはアレクサンドリア様と、テオバルト様に責任があることで、私の役目は……この子たちや、シルフィーナを救うことなんじゃないかなって思います」
「リディア、立派になって……」
「本当に立派になって……」
ステファン様に抱っこされているお父さんがうるうるしている。そしてステファン様もうるうるしている。
「それに、……こんどこそ、いちごぱるふぇと言わせたいのです」
「……イルネスの時に失敗しているからな、リディア」
私が決意を新たにしていると、ルシアンさんが優しく言った。
そうなのよね。かぼちゃぷりん、タルトタタン、そしていちごぱるふぇ。
お菓子の名前で統一したかった。
それに、あじふらいよりもいちごぱるふぇの方が可愛いと思う。あじふらいも可愛いのだけれど。
「どうしてかあじふらいになってしまいました」
「あじふらい」
「あじふらい美味しかったと言っている」
「イルネスちゃん、可愛い……」
あじふらいも可愛い。
「では、イチゴパルフェを食べさせるのですか? 今は魔封じをしていますが、ここから出すと再び動き出す可能性があります。死の呪いは、真正面から浴びればほぼ一瞬で相手の命を奪う。それは、今までとは違う、純粋な死です。純度の高い毒と同じ。それ故に、危険です」
「準備ができたら、メドちゃんを出して貰って、口にご飯を突っ込むのがいいですね」
「ええ。そうですね。僕が口を開かせますから、口に」
「リディア。口に突っ込むという言葉は少々はしたない。口に入れる、と言いなさい」
「分かりました、おとうさ……じゃなくて、ステファン様」
お父さんみたいなステファン様から注意されたので、私は素直に謝った。
確かにはしたないわね。淑女として、もう少し言葉遣いに気を付けないと。
「でも、イチゴパルフェは二回目になってしまうから……どうしようかな。……ううん。何がいいと思いますか?」
「食べたものが鳴き声になるという話?」
「そうです。できれば可愛い方がいいです。ぎょうざ、とか、まーぼーはるさめ、とか、ちんじゃおろーすとか、あんまり可愛くないので」
「エルデガルドの料理名はあまり可愛くないのか」
攻撃してくるエーリスちゃんたちを両手で鷲掴みにして腕の中に閉じ込めながら、髪を乱れさせたロクサス様が言った。
「ももまんじゅうとか、ごまだんご、とかは可愛いかな……」
自分で言っていてなんだかよく分からなくなってきた。
まーぼーどうふ、というのは、結構可愛いような気もするし。
「シエル様は何が可愛いと思いますか?」
「そうですね。リディアさんが可愛いです」
「私は食べ物じゃないですよ……」
にこやかに返事をされたので、私は照れながら慌てた。
「シエル、そういうのは二人きりの時にしたほうがいいよ」
「あぁ、つい」
「私はいいけどね。私は姫君の照れた顔が見られるのが嬉しいから、むしろいいぞ、もっとやれと、思っているよ」
レイル様が「ルシアンとロクサスの慌てた顔が、いいね。面白い」とくすくす笑った。
ステファン様は私の両肩を掴むと「結婚式では俺がリディアと共に歩く。父親として」と、真剣な表情で言う。
何の話だったかしら。可愛い料理名について考えていた筈なのに。
「ええと、とりあえず、ご飯をつくりますね。久々の、いでよ、女神のキッチン!」
なんだか混乱してきたので、私はひとまずキッチンを出現させることにした。
二度目なので、もうだいぶ慣れたみたいだ。
私の言葉に応えて、静かな研究室が明るくて可愛いキッチンへと一瞬で変わった。
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