表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

259/296

鳴き声ガチャ



 エーリスちゃんたちがぴょんぴょんその少女の前に跳ねていくと、ぺたぺたと透明な筒を触った。


「かぼちゃ」


「タルトタタン」


「あじふらい」


「はやく助けてあげて、お母さん、と言っている」


 通訳のルシアンさんが、エーリスちゃんたちの言葉を教えてくれる。


「助けて……というと、またあれか」


「四回目ともなると、慣れたものだよね、姫君」


「今回は、戦う必要もないしな。よかったな」


「まぁ、皆で戦ったのも、今考えればいい思い出だよね」


 ロクサス様が少し離れたところで腕を組みながら、レイル様がエーリスちゃんたちと一緒に筒を覗き込みながら言った。


「この子の名前はなんて言うんでしょう」


「かぼちゃぷりん」


「……め、し」


 エーリスちゃんが胸を張って教えてくれるのを、ルシアンさんがすごく訝し気な顔をしながら教えてくれる。


「飯? ご飯って名前なんですか、エーリスちゃん、ご飯」


「かぼちゃ……」


「タルトタタン」


「あじふらい」


 しょんぼりしているエーリスちゃんの代わりに、ファミーヌさんとイルネスちゃんが教えてくれる。

 ルシアンさんは軽く首を傾げると、口を開いた。


「メドちゃんだそうだ」


「メドちゃん」


 メドちゃん。そんな名前なのね、この子。四つ首メドゥーサと呼ぶよりは可愛いのだけれど、メドゥーサだからメドちゃんなのか、それとも本当にメドちゃんなのか、微妙なところだ。


「やっぱり、ご飯を食べさせてあげたらいいんでしょうか。メドちゃんに、ご飯を」


「今までの流れから考えると、そうなのでしょうね。あなたの力が、魔女の娘たちの心を癒やした。だとしたら、もう一度料理を与えれば」


「しかし、今までのこいつらと違って、この蛇女はもう無害だろう。わざわざ助ける必要があるのか?」


 ロクサス様が冷たく言うと、エーリスちゃんたちがロクサス様に突撃していく。

 その様子を眺めながら、ステファン様は「ロクサスは相変わらず一言多いな」と微笑ましそうに言った。


「エーリスちゃんたちの妹ですから。姉妹は、一緒に居た方がいいと思います。メドちゃんも悪いことをしましたけれど、それはアレクサンドリア様と、テオバルト様に責任があることで、私の役目は……この子たちや、シルフィーナを救うことなんじゃないかなって思います」


「リディア、立派になって……」


「本当に立派になって……」


 ステファン様に抱っこされているお父さんがうるうるしている。そしてステファン様もうるうるしている。


「それに、……こんどこそ、いちごぱるふぇと言わせたいのです」


「……イルネスの時に失敗しているからな、リディア」


 私が決意を新たにしていると、ルシアンさんが優しく言った。

 そうなのよね。かぼちゃぷりん、タルトタタン、そしていちごぱるふぇ。

 お菓子の名前で統一したかった。

 それに、あじふらいよりもいちごぱるふぇの方が可愛いと思う。あじふらいも可愛いのだけれど。


「どうしてかあじふらいになってしまいました」


「あじふらい」


「あじふらい美味しかったと言っている」


「イルネスちゃん、可愛い……」


 あじふらいも可愛い。


「では、イチゴパルフェを食べさせるのですか? 今は魔封じをしていますが、ここから出すと再び動き出す可能性があります。死の呪いは、真正面から浴びればほぼ一瞬で相手の命を奪う。それは、今までとは違う、純粋な死です。純度の高い毒と同じ。それ故に、危険です」


「準備ができたら、メドちゃんを出して貰って、口にご飯を突っ込むのがいいですね」


「ええ。そうですね。僕が口を開かせますから、口に」


「リディア。口に突っ込むという言葉は少々はしたない。口に入れる、と言いなさい」


「分かりました、おとうさ……じゃなくて、ステファン様」


 お父さんみたいなステファン様から注意されたので、私は素直に謝った。

 確かにはしたないわね。淑女として、もう少し言葉遣いに気を付けないと。


「でも、イチゴパルフェは二回目になってしまうから……どうしようかな。……ううん。何がいいと思いますか?」


「食べたものが鳴き声になるという話?」


「そうです。できれば可愛い方がいいです。ぎょうざ、とか、まーぼーはるさめ、とか、ちんじゃおろーすとか、あんまり可愛くないので」


「エルデガルドの料理名はあまり可愛くないのか」


 攻撃してくるエーリスちゃんたちを両手で鷲掴みにして腕の中に閉じ込めながら、髪を乱れさせたロクサス様が言った。


「ももまんじゅうとか、ごまだんご、とかは可愛いかな……」


 自分で言っていてなんだかよく分からなくなってきた。

 まーぼーどうふ、というのは、結構可愛いような気もするし。


「シエル様は何が可愛いと思いますか?」


「そうですね。リディアさんが可愛いです」


「私は食べ物じゃないですよ……」


 にこやかに返事をされたので、私は照れながら慌てた。


「シエル、そういうのは二人きりの時にしたほうがいいよ」


「あぁ、つい」


「私はいいけどね。私は姫君の照れた顔が見られるのが嬉しいから、むしろいいぞ、もっとやれと、思っているよ」


 レイル様が「ルシアンとロクサスの慌てた顔が、いいね。面白い」とくすくす笑った。

 ステファン様は私の両肩を掴むと「結婚式では俺がリディアと共に歩く。父親として」と、真剣な表情で言う。

 何の話だったかしら。可愛い料理名について考えていた筈なのに。


「ええと、とりあえず、ご飯をつくりますね。久々の、いでよ、女神のキッチン!」


 なんだか混乱してきたので、私はひとまずキッチンを出現させることにした。

 二度目なので、もうだいぶ慣れたみたいだ。

 私の言葉に応えて、静かな研究室が明るくて可愛いキッチンへと一瞬で変わった。



お読みくださりありがとうございました!

評価、ブクマ、などしていただけると、とても励みになります、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ