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セイントワイスの隠されたもの



 私の中からぬっと出てくると、エーリスちゃんたちは花火を見上げて瞳をきらきらさせていた。

 シエル様の腕の中で私がドキドキしている間、ルシアンさんとロクサス様が「なぜ当たり前のように抱きしめているんだ?」「シエル、リディアに警戒されていないからと、調子に乗るな」というようなことをシエル様に言っていて、シエル様はあんまり気にしている様子もなく「ドレスは寒そうですから」と答えていた。


 さっき――あんなに、熱のこもった告白をしてくれたシエル様は、何かの幻だったのではないかしらと思ってしまいそうになる。

 恋愛に憧れるあまり、私がつくりだした妄想、とか。


 でも、そんなことないわよね。

 私、どうしよう。

 花火はすごく綺麗だけれど、集中できない。

 シエル様の言葉が頭の中をぐるぐる回る。体の熱がひかなくて、ずっと落ち着かない。


 最後の花火が、夜空に浮かぶ二つの月を覆い隠すぐらいの、大輪の花を咲かせた。

 それと同時に、召喚術で作り上げられた、エーリスちゃんとファミーヌさん、イルネスちゃんがぽんぽんと、夜空に浮かんで楽しそうに手をぱたぱたさせて、消えていく。


「かぼちゃ!」


「タルトタタン……」


「あじふらい」


 エーリスちゃんたちはここにいるのに、召喚術で同じ姿のみんなが呼び出されるのがすごく不思議。

 エーリスちゃんたちも不思議そうに、空のエーリスちゃんたちと同じように手をぱたぱたさせた。


 最後の花火が明るく世界を照らすと、ふつりと灯りが消えるように暗闇が訪れる。

 シエル様の魔法の光玉が私たちを優しく照らして、「あぁ、楽しかった。そろそろ帰ろうか、皆」と、レイル様が言った。

 

「リディア。今日は本当に、ありがとう。皆、感謝している。気をつけて帰るように」


 ステファン様の言葉にそれぞれ礼をすると、私たちは帰路につこうとした。

 レスト神官家に戻って、しばらく泊まることになっている。

 ロベリアに帰ると言ったら、お父様が泣くので、もう少しだけゆっくりしようと思っていた。

 屋上からセイントワイスの研究棟に戻る間、私は私の手を引いてくれているシエル様の顔を、ちらちら見上げていた。

 私の視線に気づくと、優しく微笑んでくれるので、一気に顔が赤くなった。

 セイントワイスの研究棟の中は暗いので、赤くなった顔にはたぶん気づかれなかったと思うけれど。

 あぁ、どうしよう。落ち着かない。

 好きと言われて、ちゃんとお返事ができていない。

 それっていけないことよね。

 私は、シエル様が好きだけれど。その好きは、恋愛としての好き、なのかしら。

 胸が苦しいぐらいにドキドキするから、そうなのかもしれない。

 私がシエル様に、私も好きだと答えたら、私はシエル様と結婚したりするのかしら。

 手を繋いで歩いたり――それは、今も、以前もしていたけれど。

 あとは、そう。

 おはようと言って朝ご飯を一緒に食べて、今日も一日お疲れ様でしたと言って、夕ご飯を一緒に食べて。

 キス、したり。

 一緒に、同じベッドで眠ったり。

 それから――子供ができたりするのかしら。どうするのかは知らないけれど、夫婦になれば子供ができるのよね。


「かぼちゃぷりん!」


「タルトタタン!」


「あじふらい!」


 ――まだ恋人にもなっていないのに、そんなことをぐるぐる考えていると、エーリスちゃんたちがばたばたしながら大きな声で騒ぎはじめた。


「ど、どうしました、皆? 何かありましたか……?」


 もしかして私の恥ずかしい妄想が伝わってしまったのかしら。

 エーリスちゃんたち、「いい加減落ちついて、お母さん」と言って、怒っているのかしら。

 そんな、まさか。

 それってすごく恥ずかしい。


「……ん?」


 なんだかさっきからずっと不機嫌そうに見えるルシアンさんが、眉間に皺を寄せて、立ち止まった。


「かぼちゃぷりん!」


「タルトタタン!!」


「あじふらい!!」


 今度は皆、私の体から飛び降りると、ルシアンさんの体によじ登って騒ぎはじめた。

 ルシアンさんは片耳を手で押さえて、ついでに顔をもう片方の手で覆った。


「う、うるさい……」


「ごめんなさい、ルシアンさん……うるさいですよね、皆、どうしたんですか。落ち着いて……!」


 ルシアンさんはエーリスちゃんたちに優しいのだけれど、ここまで騒がれたら流石にうるさいわよね。

 私が謝ると、ルシアンさんはやや青ざめた顔で、首を振った。


「そういうことじゃない、リディア。……急に、声が」


「急に、声?」


 私は首を傾げる。


「そういえば、お父さんがルシアンには魔物の声を聞く力があると」


「言ったな」


 シエル様の言葉を引き継ぐようにして、今まで姿を隠していたお父さんが唐突に私の頭の上に現れて言った。

 いつもはエーリスちゃんが乗っている私の頭の上に、お父さんが乗っている。

 お父さんは可愛いのだけれど、中身が成人男性の姿だと思うと微妙な気持ちになった。


「私にも何故今なのか分からないのだが、急に声が聞こえるように……」


「嫉妬と焦りが脳の眠っている部分を活発にさせたのでは? リミッター解除というやつだな、ルシアン」


「そんな理由で……?」


 ルシアンさんが信じられないというように、首を振る。

 それから騒ぎ続けるエーリスちゃんたちを両手に捕まえてぎゅむっと抱きしめると、私たちの顔を見渡した。


「……エーリスたちが、ここから帰るなと言っている。ここには、妹がいると」


「……妹? エーリスちゃんたちは四姉妹ですから、四番目の、妹さん……」


 セイントワイスの研究棟に、魔女の娘がいる?

 でも、王宮ではおかしなことは起っていない。

 今までみたいに、誰かが悲しい思いをしたり、命を落としそうになったりもしていない。

 シエル様は腕を組んで、目を伏せた。


「……魔女の娘が、ここに?」


「何か思い当たることはないの、シエル」


「その妖精竜は違うのか?」


 レイル様が尋ねて、ロクサス様がシエル様の肩に居るメルルちゃんを示した。


「妖精竜が魔女の娘だったら、もっと早くにエーリスさんたちは反応するでしょう」


「お前は魔物を討伐することが多いだろう。特に強い力を持った魔物が出た場合は、今まで一人で討伐して、必要な場合はセイントワイスに持ち帰っていた。月の病の研究のために。……その中に、魔女の娘がいたのでは?」


 ステファン様の言葉に、シエル様は「あ」と、珍しく動揺したように俄に目を見開いた。

お読みくださりありがとうございました!

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