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ドレスの褒め方



 レイル様がすごく嬉しそうな表情で、私の両手をとった。


「姫君、よく似合うね。本当に可愛い。女性の服装に私はあまり興味がないのだけれど、姫君がドレスを着ていると、とても特別なものに感じられるね。本当に可憐だよ」


「ありがとうございます、レイル様。レイル様も素敵です」


「ふふ、ありがとう。貴族の服は、動きにくくて苦手なんだけどね」


 いつも動きやすそうな軽装の冒険者のような服装をしているレイル様だけれど、今日はロクサス様のように公爵様という感じだ。

 身なりを整えたレイル様は、やっぱりロクサス様とよく似ている。

 ロクサス様は――。


「ロクサス様はいつもと同じですね」


「まぁ、そうだろうな」


「いつもしっかり身なりを整えているので、いつも素敵っていう意味です」


 ロクサス様が眉間に皺を寄せて言う。

 ご機嫌が悪くなってしまった。いつもと同じというのは、誉め言葉ではないので、私は少し考えて付け加えた。


「そ、そうか……その、なんだ。リディア」


 ロクサス様、耳が赤くなった。

 いつも身なりをきちんとしているロクサス様は、いつも通り公爵様という感じで素敵――というのは、ちゃんと誉め言葉になっていたみたいだ。


「お前も、か、かわ、いいな……っ」


「ありがとうございます」


 声を上ずらせながら褒めてくれる。ロクサス様は女性を褒めることに慣れていないみたいだ。


「姫君、ずっと一緒に居たいけれど、今日は姫君には役割があるからね。陛下に祝福を与える姫君を、見守っているよ。終わったら一緒にいよう? 姫君にダンスを申し込みにいくね」


「レイル様、私、お父様と練習してきました。だから、ええと、ばっちりです」


「うん。姫君、楽しみにしているよ」


「俺は……」


「ロクサスはダンスが苦手なんだけれど、ちゃんと練習してきたよ。私と」


「ロクサス様も、一緒に踊ってくれるんですか?」


「あ、あぁ、まぁな。お前が、嫌でなければ」


「嫌じゃないですよ」


 急にしおらしくなるロクサス様に、私は微笑んだ。

 お話する私たちの後ろで、イルネスちゃんを抱っこしながら、お父様が「レイル君、ロクサス君、一体リディアとはどこまでの関係なんだ……」とぶつぶつ言って、エーリスちゃんたちを肩に乗せて、お父さんを抱っこしているお母様に「フェル様、娘の人間関係に口を出すと嫌われるわよ」とたしなめられていた。


 ステファン様に祝福を授けるために、私は皆が集まる大広間ではなくて、大広間の奥にある控室に行かなくてはいけない。

 レイル様たちと別れて、お父様たちと大広間脇を抜けてさらに王宮の奥へと向かった。

 大広間には既に沢山の貴族の方々が揃っていて、お父様に恭しく挨拶をしてくれる方々が何人もいた。

 にこやかに言葉を返しているお父様は、神官長、という感じだ。


 今日は大切な日なので、警備も厳重だった。

 レオンズロアの騎士団の方々や、普段は警備にはあまり参加しないセイントワイスの方々が、警備のための配置についている姿がある。


 皆、ロベリアにお食事をしにきてくれている顔見知りの方々だ。


「リディア様、今日は一段と輝いていますね」


「リディアさん、ドレスも似合うな! こうして見ると、やっぱり聖女って感じだ」


 リーヴィスさんとノクトさんが声をかけてくれるので、私はぺこりとお辞儀をした。


「リーヴィスさん、エーリスちゃんたちのお洋服、いつもありがとうございます」


「いえ。趣味ですから。喜んでいただけてよかったです」


「これ、お前がつくったのか?」


「ええ」


「人は見かけによらないものだなぁ」


 今日のエーリスちゃんたちは、ばっちりおめかしをしている。リボンやショールを身に着けたエーリスちゃんが「かぼちゃ!」といいながら、片手をあげてリーヴィスさんに挨拶をした。


「リディア様。今日は、誠心誠意心を込めて、全力で警備にあたります。それなので、心ゆくまで戴冠式とその後の晩餐会をお楽しみください」


「あぁ。リディアさん。レオンズロアも同じく。だから、安心して欲しい」


「ありがとうございます」


 私はもう一度お辞儀をした。

 二人と別れると、お母様が「リディアちゃんはたくさん知り合いがいるのね」と、にこにこしながら言った。

 お父様は「あの二人のことは知らないぞ……新しい男が……」と、再びぶつぶつ言っていた。


 王宮の奥に入ると、貴族の方々はいなくなって少し静かになった。

 私たちの来訪を待ってくれいたらしいルシアンさんとシエル様が深々と礼をして「どうぞこちらに」と言って、控室に案内してくれる。

 ルシアンさんはレオンズロアの団服なのだけれど、いつもよりも華やかなものだ。

 シエル様もセイントワイスのローブだけれど、いつもよりも飾りが多い。

 髪も衣服も綺麗に整えられているので、元々見栄えがいい方々だけれど、いつもよりもずっと大人っぽく――実際大人なのだけれど、立派な姿だった。


 お父様とお母様は先にゼーレ様の顔を見に行くと言って、すぐ戻ると席を外した。

 私はルシアンさんとシエル様と共に控えの間に通されて、天鵞絨張りの椅子に、二人に恭しく手を握られて座らせて貰った。


 いつもみたいに気さくに声をかけてくれないのが、変な感じがする。

 あと、少し寂しい。


「リディア様。先に、陛下への王冠の譲渡があります。その後、リディア様が陛下に祝福を与えるという流れです。しばしお待ちを。何か、飲みますか?」


 ルシアンさんが床に片膝をついて私に礼をすると言った。


「リディア様の身は、僕たちが守ります。時間まで、心穏やかにお過ごしください」


 シエル様の口調も他人行儀。いつもと話し方まで違う。

 私は頬を膨らませた。膝の上のエーリスちゃんも心なしか不機嫌そうだ。

 用意された椅子にお父さんたちも座っている。メルルちゃんはさっそく眠りだして、ファミーヌさんもイルネスちゃんも、体をくっつけるようにして目を閉じている。

 朝から準備をして、移動も長かったから疲れてしまったみたいだ。


「どうしてそんな話し方、するんですか? はじめて会ったみたいです……」


「すまない。……そう、泣きそうな顔をしないでくれ。今すぐ攫いたくなってしまう」


「……そうですね。僕も、同様に。……全てを捨てて、あなたを連れてどこか遠くに行きたいと、願いそうになってしまいます」


「私も実は緊張でちょっと帰りたい気分ではあるのですが、大丈夫です、頑張ります」


 ルシアンさんたちの態度が他人行儀だったので、ただでさえ緊張しているのに、更に緊張してしまう。

 でも、頑張ると決めたのだから、逃げるわけにはいかない。


「一応、私たちにも立場というものがある。今日は公式な場だからな。聖女として、君を扱う必要があった」


「皆の目がありますからね。僕たちがあなたを軽んじる態度をとるのは、よいことではありません」


「ロクサス様たちはいつも通りでした」


「それは身分差というものだ。私たちは貴族ではない」


「あなたを悲しませてしまったことは、謝らせてください。……本当はいつものように、話しかけたかった」


「じゃあ、いつも通りでいてください。私がいいって言えば、いいんですよね? 聖女の権力を振りかざしますので……!」


「ふふ……そうだな。リディア。ありがとう。……今日の君は、いつもよりも大人びていて美しいな。白いドレスがとてもよく似合っている。今すぐ攫いたいというのは本音だ。このまま、教会に向かってもいいぐらいだ」


「リディアさん。とても、可愛いです。……ルシアンのように、言葉を飾ることは不得手ですが、本当に可愛いです。可愛い、リディアさん」


 いつもの口調に戻ったルシアンさんとシエル様が、凄く褒めてくれる。

 あんまりにも可愛いと言われるので、私は顔が赤くなるのを感じた。


「あ、あの、あまり褒められると……その、嬉しいですが、恥ずかしいので……」


「あぁ、リディア。その顔も可愛い。……誰にも見せたくないな」


「……本当に、攫って逃げたくなってしまいますね」


 私が照れながらおろおろしていると、やがてお父様たちが戻ってきた。

 真っ赤になっている私を見て、お父様は青ざめながら「ルシアン君、シエル君、リディアちゃんに不埒なことをしたのではないだろうね……!?」と、詰め寄っていた。

 お母様はのんびりと「あらあら、お邪魔だったかしら」と言って笑っていた。


お読みくださりありがとうございました!

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