たけのこづくし
たけのこご飯、たけのこの姿焼き、たけのこの天ぷら、たけのこの煮物。
たけのこいっぱい夕ご飯を、私はロクサス様に振る舞った。
すでに柔らかく茹でてあるたけのこは柔らかくて、両手で皮がぱっくり剥くことができて、中からしんなりした白いたけのこが顔を出す。
さくさく、とんとんとたけのこを小さく切って、ご飯とだし汁、お醤油を入れて炊き上げる。
少し大きめに切ったたけのこは、油で揚げててんぷらに。
それから、皮ごと半分に切って網焼きにした姿焼き。
鳥の手羽先と一緒に甘辛く煮た煮物。
「かぼちゃぷりん」
「……あじふらい」
たけのこ堀りに行ってからご飯が炊き上がる前にお風呂に入れて綺麗にしたエーリスちゃんやイルネスちゃんは、毛並みが艶々に戻っている。
ちょっと嫌がっていたファミーヌさんも無理矢理お風呂に入れたので、今は少し不機嫌そうにしていたけれど、皆でたけのこの天ぷらを囓っている。
お父さんもついでに入れてあげようとしたら、「私はいい」と言われた。
あとで一人で入るらしい。こっそり人間体になるようなので、覗かないようにしよう。
ロクサス様にも入るかと誘ったけれど断られてしまった。
ついでに「お前は軽々しくそういうことを言うんじゃない」と怒られた。
川に落ちたからお風呂に入るかと聞いただけなのだけれど。
「ロクサス様、美味しいですか?」
「あぁ……たけのこをこんなに食べたのははじめてだが、美味しい」
「そうですか、よかったです」
お風呂に入って白いお部屋用のワンピースに着替えた私は、ご飯を食べるロクサス様を眺めながら微笑んだ。
たくさん体を動かしたからか、ご飯が美味しい。
たけのこは柔らかくてサクサクしていて、春、という感じがしていい。
ロクサス様のお陰で柔らかく煮るのも簡単だったし。商業組合の方々もとても喜んでいた。
「今日はありがとうございました、ロクサス様。とっても助かりました」
「そうか。……俺も、楽しかった。普段はあまり、自然の中には行かないようにしているのだが、体を動かすのは楽しいのだな。兄上がいつも動き回っている気持ちが、少しは理解できた気がする」
「ロクサス様、私も運動、得意じゃないので、お揃いです」
「そうか……リディア。……その、ありがとう。……俺はやはり、兄上よりも不出来で、お前の役に立つことがあまり、できない。だが、そう言って貰えるだけで、有難い」
「ロクサス様……そんなに落ち込まなくても。ちょっと転んだり、川に落ちたり、迷ったりしただけですし、それは私も同じです。ロクサス様はたけのこを柔らかく煮て、商業組合の皆さんに喜ばれていましたし、重たい荷物を持ってくれました。とっても助かったんですよ、私」
「あぁ。そうだな。……リディア。その、……俺は」
「ロクサス様、お礼に何か私にしてほしいことありますか? 何でもしますよ、言ってください」
私は本当に助かったので、ロクサス様に何かお礼がしたい。
ロクサス様のお陰で明日からのロベリアで、春爛漫たけのこフェアを開催することができるもの。
何にしようかしら。
朝ご飯はたけのこのおにぎりと、たけのこの焼きおにぎり。たけのこのお味噌汁と煮物。
お昼のランチは、たけのこご飯とたけのこの天ぷら盛り合わせにしようかしら。それともお蕎麦がいいかしら。たけのこの天ぷら蕎麦。たけのこ入り肉味噌炒めご飯つき。
美味しそう。
「な、なんでも……」
「はい! なんでも、です。何がいいですか? 私にできること、あんまりないですけど……」
「なんでもか、なんでも……い、いや、しかし、それは駄目だ……」
「駄目ですか……?」
「リディア。家で男と二人きりになったり、男を風呂に誘ったり、なんでもすると言ったりするのはやめろ。特にルシアンに同じようなことをするな。お前はもう少し危機感を持て」
「どうしてルシアンさん……?」
ルシアンさんの話、今、していたかしら。
私は首を傾げた。
ロクサス様にまた怒られてしまった。私、何か悪いことをしているのかしら。
お友達と一緒にご飯を食べたらいけないのだろうか。お友達といえども男性なので、夜二人きりでお泊まりとかは、してはいけないような気が、しないでもないのだけれど。
「ロクサス様、疲れただろうから、肩を揉む、とか……駄目でしたか……? 手を揉む、とか……」
「手……手なら……」
私ができることってそれぐらいしかないのだけれど。
提案してみると、ロクサス様はなんだかすごく苦しそうにしながら、手を差し出してくる。
長い指と、大きな手のひら。あんまり剣を持ったりしないロクサス様の手は、ルシアンさんやステファン様の手よりも柔らかいけれど、やっぱり私よりも大きいし皮が固い。
私は両手でロクサス様の手をもみもみした。
「ロクサス様、痛くないですか? 気持ちいいですか?」
「あ、あぁ……」
ロクサス様が苦しそうだ。もしかして痛いのかしら。
私は手の力を少し緩めた。できるだけ優しく、手のひらを指で揉んでいく。
もみもみしていると、ロクサス様が「もういい、リディア。帰らせてもらう」と言って、慌ただしくロベリアから出て行ってしまった。
「……ど、どうして。痛かったのかしら……」
「リディア。あまり深く考えない方がいい」
私たちの様子を見守ってくれていたお父さんが、顔をもふもふした手で隠しながら、とても悲しそうに言った。
よく分からないわね。でも色々と事情があるのよね。
のこりのたけのこのお料理は、エーリスちゃんとイルネスちゃんが全部食べてくれた。
二人ともよく食べる。
私は皆で一緒にベッドに入って、ぎゅっと大きめのイルネスちゃんを抱きしめた。
今日は竹林にパンが落ちていて面白かったわね。
たけのこキングロクサス様は、手を揉まれるのが苦手。よく覚えておきましょう。
次からは、気をつけよう。
(そういえば、男性と二人きりで泊まるのはいけないって思うのだけれど……シエル様と温泉旅行の約束をしているわね……)
あたたかくなってきた今は、温泉旅行にはちょうどいい。
かぼちゃ祭りの優勝賞品で温泉旅行のペアチケットをもらっているのだけれど、それは私のお部屋の宝箱の中に大事に入れてある。
色々あって先送りになっているけれど、どうしようかしら。
そんなことを考えながら、目を閉じた。すぐに優しい眠りに、私は落ちていった。
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たけのこ編おしまい。次は潮干狩りです。




