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クリスレインお兄様の移動用大白鳥



 正式にロクサス様の婚約者が決まってしまう前に──ということで、早速出かけることになった。

 レイル様たちに少し待ってもらって、私は着替えた。

 今日は普通にロベリアの営業日だったので、白い長袖のブラウスにミントグリーンのエプロンをつけていたけれど、お出かけなのでエプロンも三角巾も脱ぎたいし、暖かい格好に着替えたい。


 私はエーリスちゃんとファミーヌさんとお父さんを連れて二階に向かって、エーリスちゃんたちにリーヴィスさん特製の冬用のショールやマフラーをつけてあげた。

 外にいくのだから、暖かい方が良いし。

 

 それから私もエプロンと三角巾を外して、お出かけ用の白い毛糸のワンピースに着替えた。

 まんまる羊の毛糸で編んであるワンピースは軽くて暖かい。

 その上から赤いショールを羽織る。白一色に赤が加わると華やかだ。

 結っていた髪を解いて整えて、一房に赤いリボンを巻き付ける。

 黒い髪は地味で暗いなって思っていたけれど、少し飾ると華やかになるし、どんなお洋服を着ても華美になりすぎないので、最近は良いなって思っている。


「女子力……」


 鏡の前で、私はうん、と頷いた。

 女子力が高い。お洋服、可愛い。

 私は結構お洋服が好きみたいだ。可愛い格好も好きだ。アクセサリーなんかも好き。

 

 去年の私はずっと黒ばっかり着ていたから、明るい色のお洋服を着ると気分が浮き足立つ感じがする。

 だって、お出かけだもの。

 理由がなんであれ、お出かけは嬉しい。

 ジラール公爵領には行ったことがないから、なんだかわくわくしてしまう。


「そういえば、荷物……持っていかなくて良いんでしょうか……」


 一晩ぐらいは泊まるのかしら。私は首を捻る。

 でもレイル様が「姫君は何も持っていかなくて良いよ。ジラール公爵領についたら、姫君はロクサスの元に行くから。あとはロクサスに任せると良い」と言っていた。

 それで良いのかしらと思いながら、私はエーリスちゃんを頭に乗っけて、ファミーヌさんを首に巻いて、お父さんを両手に抱いて一階に降りた。


「姫君、可愛いね。ロクサスの元に行かずに、デートにでも行きたいよね、街に」


「レイル様、褒めてくださってありがとうございます」


 一階に降りるとレイル様が私の手を握って褒めてくれる。


「その服も可愛い。なんでも似合うね、私の妹は。リディアには、私の国の衣服も似合うと思うのだよね。今度着てみる?」


「エルガルド王国の衣装?」


「そう。私が着ている服に少し似ているね。体にピッタリしていて、スリットが足のこの辺りまで入っている」


「そ、それはちょっと、恥ずかしい気がします……」


 クリスレインお兄様が自分の足の大腿の付け根ぐらいを示して、服の形を教えてくれる。

 かなりきわどいお洋服のような感じがする。エルガルド王国では普通なのかしら。クリスレインお兄様の説明が本当なら、足がむき出し。少し動くだけで、足の大部分が見えてしまう。


「リディア、今日も可愛い。……レイル様の言う通りだな。結婚式会場から攫うのではなく、今すぐ攫ってしまいたい」


「ルシアンさん……女誑しはやめたんじゃ……」


「あぁ。君にだけだ。……私は本気だよ。君には、嘘をつかない」


「……あ、あの、は、はい……」


 褒め言葉としてはかなり、激し目なのではないかしら。

 恥ずかしいけれど、ルシアンさんは以前からこんな感じだった。

 私の感じ方が変わっただけよね。


「リディア、愛らしいな……すっかり大人になって、寂しいような嬉しいよな……世界一可愛い。リディア、可愛い」


 結婚する娘を送り出すぐらいの勢いでステファン様が褒めてくれる。

 お出かけ用のお洋服に着替えただけなのに、これだけ褒められてしまうと嬉しいやら申し訳ないやらで、私はちょっと困ってしまって腕の中のお父さんをぎゅっと抱きしめた。


「私の方が可愛いぞ」


「お父さんの方が可愛いです」


 頭に赤いリボンを、首に赤いショールを巻いたお父さんが自信たっぷりに言うので、私は頷いた。

 お父さんやファミーヌさん、エーリスちゃんの方が可愛い。

 みんな赤いショールやマフラーを身につけている。私の赤いショールとお揃いみたいで嬉しい。


「では、行こうか。移動用大白鳥は、それなりに広い場所じゃないと外に出せなくてね。大きいから」


「大きいんですか……」


「全員乗れるぐらいだからね。大きいよ、それは。乗り心地はそんなに悪くないと思うよ」


 お店の扉の鍵を閉めると、私たちは路地から出て南地区の広場へと向かった。

 路地から抜けて少し歩いた場所にある何もない広場は、子供たちが遊ぶために作られた公園である。

 今は雪が積もっていて、少し前に作られたのだろう雪だるまがぽこんぽこんと佇んでいる。


 魔石ストーブを灯してある室内は暖かいけれど、外はまだまだ寒い。

 呼吸のたびに白くけぶる息を眺めて、私は冷たい手にはぁっと息を吐きかけた。


「リディア、手を貸してごらん」


「ええと、はい」


 隣を歩いているルシアンさんに言われて、私は手を差し出した。

 ルシアンさんは私の手を握ると、いつもおしゃれなルシアンさんらしい黒いケープのついているコートのポケットに入れてくれた。


「あったかい」


 ルシアンさんの手があったかいし、コートのポケットの中もあったかい。

 にこにこしながらルシアンさんを見上げると、微笑み返してくれる。ルシアンさんは優しい。


「ルシアン、なんだか最近遠慮しなくなったね。そういうのは結構、シエルが……ごく自然にさらっと行っていた感じがするけれど、ルシアンの場合は下心が感じられるのは人徳の差かな」


「ルシアン……そういうことをすんなりできるのが凄いな。どこで覚えてくるんだ、そういう、恥ずかしい行動を……」


 レイル様とステファン様が感心したように私たちを見ている。

 そういけばこれは結構恥ずかしいのではないかしら。

 手があったかいのは嬉しいけれど、それにルシアンさんがあまりにも自然だから流されてしまったけれど。

 私はルシアンさんのポケットから手を引き抜くと、ルシアンさんからちょっと離れた。

 恋人みたいだったわね、今、一瞬。

 気をつけないといけない。ロクサス様を助けに行くのだから、浮かれている場合じゃないのよ。


「タルトタタン……」


 私の首に巻き付いているファミーヌさんが、呆れたように呟いた。どういう意味なのかはよくわからなかった。


「私は私の妹があらゆる男を手玉に取るのは大歓迎だよ。だって、リディアは私に似て美しいのだからね。美しく高貴な私たちは存在するだけで尊いのだから。それはともかくとして、──おいで、桃饅頭」


「桃饅頭……」


 片手をそっとあげるクリスレインお兄様が、桃饅頭を出現させようとしている。

 どうして今、桃饅頭を。

 首を傾げる私に、クリスレインお兄様は「白鳥の名前だよ」と、教えてくれた。


 クリスレインお兄様の特殊魔法で、何もない空間から、ぬっと大きな白鳥の首が現れる。


 首から、巨大な胴体。美しく滑らかで大きな羽と、黄色い足。

 それはまごうことなき白鳥だった。ただし、小さめの家ぐらいある巨体の。

 頭に王冠を乗っけているのが可愛いかった。




お読みくださりありがとうございました!

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