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聖夜祭の朝



 聖夜祭の朝、私はお店にこの間ステファン様とお買い物をしたリースや、スノードームを飾り付けていた。

 お店の中はちょっとした小物を置くだけで華やかになる。


 調理場にはエミリア様が蟹のお礼と言って届けてくれたファミーヌさん用の高級ふかふか猫ベッド。

 これは、窓辺に新しく設置した、飾り棚の上に置いてある。

 猫ベッドは、ちゃんとしたベッドの形で、ふわふわの羽毛のお布団が敷いてある。貴婦人が寝るような、白いベッドだ。

 ファミーヌさん用の高級猫食器も届けられた。金色のお上品な深皿である。


 ファミーヌさんは金色のお皿でサーモンシチューを食べて、満更でもなさそうな顔で猫ベッドに横になった。

 エーリスちゃんはなんでも食べる。

 ファミーヌさんは海産物が好き。

 お父さんは、お肉が好き。


 エーリスちゃんは私がご飯をつくるともくもくと食べてくれるけれど、ファミーヌさんとお父さんは食べたり食べなかったりだ。

 お腹が空かないのか心配する私に、お父さんは「私も、子供たちも人間とは違う理で生きている故、人のように三食きちんと食べる必要はないのだ」と言っていた。

 楽しみとしての食事、という感じらしい。


 エーリスちゃんには、卵みたいな形をしたドーム型のふかふかしたお部屋が、お父さんには丸椅子の上に置く用の、赤い王様のクッションのようなものが、それぞれアンナ様とステファン様からと言って、エミリア様が届けてくれた。


 ステファン様は年明けに国王陛下に即位するらしい。

 即位の儀式があるので、私にも参加して欲しいとエミリア様が言っていた。


 即位の儀式ともなれば、多分、ドレスを着るのよね。

 今日は聖夜祭。

 二日間ある聖夜祭のメインは今日の夜で、お城では毎年晩餐会が開かれていた。

 今年は色々あって、ゼーレ様のお加減も未だに優れず、お城での襲撃や大神殿の事件があったから、晩餐会は中止になったと、エミリア様が言っていた。

 聖夜祭の晩餐会のない年というのも、ちょっと寂しいような気もする。


 けれどその代わり、お城でお祝いの花火があがるかもしれないそうだ。


 お店の飾り付けをした後は、聖夜祭り用のエーリスちゃん型雪だるまクッキーを焼いて、エーリスちゃんのためにかぼちゃぷりんを作って、ファミーヌさんのためにタルトタタンを焼いた。

 そしてお父さんのためにローストチキンを魔石オーブンで焼いて――これは時間がかかるので、焼きながら、エーリスちゃん型雪だるまクッキーを通りに出て子供たちに配ってきた。


 今日は聖夜祭なので、ロベリアはお休みだ。

 このところ、蟹づくしフェアを開催していたので、お客さんがすごく多くて忙しかった。

 やっぱり皆さん蟹が好きなのよね。

 というか、エルガルド蟹は高級だし、あんまり手に入らないからとても貴重だ。

 とても庶民には見えない方なんかもちらほらと、食べに来てくれた。


 大衆食堂に蟹はあんまり相応しくないのだけれど、なんせ蟹、沢山ある。

 エルガルド製瞬間冷凍保管箱にいっぱい入っている。

 ご飯を食べに来てくれたお客さんのうちの一人、氷魔石保管庫職人のケイトさんが、瞬間冷凍保管箱に興味を持って、空になった箱を持ち帰りたいというので、いくつか差し上げた。

 空箱の処分どうしようかなと思っていたので、ありがたかった。


 新しいメニューも好評で、レオンズロアの皆さんやセイントワイスの皆さんが、ルシアンさんやシエル様の名前がついているご飯を喜んでくれたし、ツクヨミさんやマーガレットさんは、きつねうどんをそれはもう喜んでくれた。

 ミハエルさんやオリビアちゃんも来てくれて、蛸料理をとっても喜んでくれた。

 

 大神殿襲撃のあとしばらくお休みをしていたけれど、ロベリアはいつもと同じかそれ以上の活気を取り戻していた。

 めまぐるしいぐらいに忙しくて、せっせとお料理をする私を、エーリスちゃんはぴょこぴょこしながら応援してくれて、ファミーヌさんも窓際に気怠い感じで寝そべりながら、私が動く方向に視線を常に向けたりして、私の癒しになってくれた。

 

 お父さんは基本的には、調理場にも一個置いてある魔石ストーブの前に置いた丸椅子の上で寝ていた。


 まぁ、そんなわけだから、聖夜祭の日ぐらいはお休みしようということになったのだ。

 私の食堂は私しか働く人がいないので、お休みも結構自由。

 蟹が頑張ってくれたから、お金も沢山になった。

 それに蟹はまだ余っている。新年祭で食べる分は十分すぎるほどあるぐらいだ。


 子供たちにクッキーを配り終えた私。

 子供たちは私を「悪じゃないお姉さん」「良いお姉さん」と呼んでくれた。エーリスちゃんのことは「丸餅」と、ファミーヌさんのことは「金ぴか」と、お父さんのことは「お父さん」と呼んでいた。


 お店に戻ると、ローストチキンが良い感じに焼けていて、オーブンから取り出して、まだ熱いから冷ましていた。

 丸鳥だと、食べるのが大変だから、鳥の足だけを何本か焼いた。

 ローズマリーの良い香りと、鳥肉の皮がパリッと焼ける香ばしい香りがお店に漂う。

 これは、夜用。昼ご飯はささっと済ませて、夜、ゆっくり皆で食べる用。


 皆といっても、エーリスちゃんとファミーヌさん、お父さんと、私。四人だ。


 聖夜祭の夜は、家族や大切な人と過ごすことになっている。

 レスト神官家に今日ぐらいは戻らないかと、遊びに来てくれたお父様とお母様に言われたけれど、私は断った。

 お父様とお母様も久しぶりに会うことができたのだから、二人きりの時間を邪魔したくないし。


 二人のことが嫌いってわけじゃないけれど、なんとなく。

 そう。なんとなくだけれど、私はもう十八歳なのに、凄く子供みたいな扱いをされるのが、落ち着かないっていうか。なんていうか。

 マーガレットさんに相談すると「それは思春期ってやつかしらね。まぁ、普通よ。あんたはもう立派に独り立ちしていて、今更、両親に構い倒されてもね。つかず離れずってところで良いんじゃない?」と言ってくれた。

 それから「神官長が泣くかもしれないから、新年祭ぐらいは顔を出してあげなさいよ」とも言われた。


 ローストチキンやかぼちゃプリンやタルトタタンを保管庫にしまっていると、ロベリアの扉が叩かれた。


「……リディア、いるか」


 ルシアンさんの声がする。

 聖夜祭の日は、レオンズロアの皆さんもセイントワイスの皆さんもお城の警備などで忙しいのかと思っていた。

 エーリスちゃんとファミーヌさんを頭と肩に乗せて、私は扉を開いた。

 扉の前に立っているルシアンさんは、レオンズロアの制服を着ていない。

 白いシャツに棒タイ、黒のロングコートのルシアンさん。今日もオシャレ。


「おはようございます、ルシアンさん」


「あぁ、おはよう」


 もうすぐお昼だけれど、体感的にはまだ朝なので、おはようと挨拶をしてみた。

 ルシアンさんは優しく微笑むと、挨拶を返してくれる。


「聖夜祭、おめでとうござます」


「あぁ、おめでとう」


「……ええと、今日はどうしました? ご飯を食べにきてくれたんですか?」


「いや、……その、君の予定が開いているのなら、一緒に過ごしてくれないかと思って、誘いに来た」


「一緒に? 私と?」


「あぁ。ベルナール王国では、聖夜祭は大切な人と過ごすものなんだろう? キルシュタインには、聖夜祭はなかった。女神の来訪を祝う祭りなのだから、当然だが。……今までは、特に何をしようと思ったことはなかったんだが、……朝起きたら君の顔が見たくなった」


「……え、ええと、あの、ありがとうございます」


 ルシアンさんは常時、なんだか口説き文句のようなことを言う人なので、あんまり気にしてはいけないと思うのに、少し照れてしまう。


「……もし予定がないのなら、君の時間を私にくれないだろうか」


「予定は、ないです、けれど……そういう言い方はあんまり良くないと思います」


「私は真剣だよ。君に対しては、常に。大通りに、聖夜祭のマーケットが出ているだろう。行ってみないか?」


「は、はい……誘ってくれてありがとうございます。準備してくるので、少し待っていて下さいね」


 ルシアンさんはお友達だけれど、そういう言い方をされると、少し意識してしまうわよね。

 私は内心照れたり慌てたりしながら、ルシアンさんの提案を受け入れた。


「かぼちゃぷりん」


「タルトタタン」


 私の頭の上でエーリスちゃんがぽよぽよ揺れて、ファミーヌさんが私の頬をぺしぺし肉球で叩いた。

 どういう反応なのかさっぱりわからないけれど、ルシアンさんとのお出かけを嫌がっている感じではなさそうだった。



番外編は本編とあんまり関係ないと思って読んで下さると嬉しいです。

ちゃんと口説いてくるルシアンさんを楽しんでいただければと、思っていますが、どうかな…楽しんでいただけると幸いです。


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